聖女①
俺が指名依頼を達成した翌日。
朝食を食べて出掛ける準備を済ませると、グラニのいる厩舎へと向かう。
「ようグラニ、ゆっくり眠れたか?」
「ヒヒィーン!」
厩舎へと訪れた俺の姿を見るなり、元気一杯だと言わんばかりに身体全体でアピールする。どうやらぐっすり眠れたようだな。
「ほら、朝食だぞ」
俺は昨日購入しておいた大量の人参をグラニに食べさせる。
「ブルルゥ!」
とても嬉しそうに人参を食べ始めるグラニ。やはり相当人参の味を気に入っているようだな。
「今日はお前専用の従魔の首輪を買いたいと思う。せっかく付けるんだからもっとお前に似合う物を買わないとな」
「ブルルゥ!」
どうやら自分専用の従魔の首輪を買って貰えることが嬉しいのかグラニが嬉しげに喉を鳴らす。
人参を食べさせ終えると、俺はグラニを厩舎から連れ表通りへと出る。
案の定、グラニが通りに現れると昨日と同じように通行人達が驚愕の表情を浮かべながら数歩後ずさる。けれど昨日のように悲鳴を上げる者は少なかった。
おそらく昨日の女将さんがグラニのことを知っていたように、もう街中にグラニのことが知れ渡っているのだろう。
噂が広がるのは早い物だな。
「ブルルゥ……」
周囲のそんな反応を見て、グラニが喉を鳴らす。やはりグラニも気になるようだな。まあ数日もすれば慣れるだろう。
俺はグラニの背中を軽く撫でながらまず向かうのは従魔の首輪があると思われる店--魔法屋だ。
以前この店に来た時に隷属の首輪があるのは確認済みだからな。従魔の首輪だってきっとある筈だ。
グラニに似合うデザインのものがあればいいけどな。
「いらっしゃい、ってアンタかい」
「また来たよ」
店内に入ると、前回同様に店主のロザナさんが煙管を吸いながら出迎えてくた。
「何のようだい? 無属性の魔法書ならまだ入ってないよ」
「今回は魔法書を買いに来たんじゃないよ。実は従魔の首輪が欲しくてきたんだ」
「従魔の首輪? アンタもしかして魔物を使役することにしたのかい?」
「ああ。このグラニに付けたいんだ」
「ブルルゥ」
俺の呼びかけにグラニが店内へと顔を出す。こいつの巨体では狭い店内には入るのは難しそうなので顔だけ入れさせる。
「こりゃ驚いたね。こんなデカい馬を手懐けたのかい? この大きさはバトルホース……けれど魔力の量が普通の魔物とは桁違いに多いね。まさかこの馬、スレイプニルじゃないだろうね?」
流石は魔力の量を見ることができるお婆さんだ。グラニの正体をあっさりと見破りやがったな。
「ああそうだ。こいつはスレイプニルの子供だ」
今更隠す必要もないので正直に言うことにした。
「こりゃ驚いたね。まさか伝説の【神馬】をこの目で崇めるなんて、長生きはするもんだね」
ロザナが驚いた表情を見せる。
「それで、グラニに合う従魔の首輪はあるのか?」
「ふむ、そうさね……このサイズの従魔の首輪となるとこれなんかどうだい?」
ロザナは棚に置いてある大きめの箱から従魔の首輪を取り出した。
「おお、こいつは格好いいな」
ロザナが出したのは黒を基準として首輪だった。首輪の周りには銀の細かい装飾が施されている。正直に言えば結構気に入った。
「どうだグラニ?」
けれど身に付けるのはグラニだ。感想を聞く必要がある。
「ブルルゥッ!!!」
どうやらグラニも気に入ったようで、嬉しそうに喉を鳴らしている。
「いくらだ?」
「30000リルだね」
「高くないか?」
「これでも装飾には結構手間を掛けたんだ。それくらいは貰わないと割に合わないよ」
まあ、確かに手の込んだ作りなのは認めよう。それにグラニもなかなか気に入っているようだからな。
「仕方ない。これを買うよ」
俺はロザナに30000リルを支払うと、従魔の首輪を受け取る。
そしてそれをグラニに付ける。借りた従魔の首輪は後で冒険者ギルドに返却しておくとしよう。
「さて、従魔の首輪も無事に買えたことだし、次は冒険者ギルドに行くとしようかぞグラニ」
「ブルルゥ」
無事に隷属の首輪を購入した俺達は冒険者ギルドへと向かうのだった。
◆◆
冒険者ギルドに到着すると、グラニを外に待機させて、中に入ると受付カウンターにいるアリスさんの元に向かって挨拶をする。
「おはようございますアリスさん。魔物の査定は終わってますか?」
「おはようございます。もう査定は済んでいますよ。今回ルイさんが売却した魔物の中にはB等級のオルトロスも入っていましたから合計2500000リルになります」
おお! 予想していたよりもかなり高く売れたぞ! やはりB等級魔物はかなりの値段で売れるようだな!
俺は2500000リルを受け取る。これだけあれば当分の間は金に困ることはないだろう。
さてお金も受け取ったことだし、このまま街でぶらりと行きますか。
そう思いながら冒険者ギルドを出ようとすると--
「あ、ルイ様!」
聞き慣れた声。ユフィアだった。
「おはようございます、ルイ様」
明るい笑顔でユフィアが挨拶してくる。
「ああ、おはよう」
俺も挨拶してユフィアに近づく。
「よく休めたか?」
「はい。ギルド職員の方々には色々とお世話になっています」
どうやら特別待遇で持て成されているようだ。まあ彼女は大国の王女様だからな、当然のことか。
「ルイ様はどうしてここに?」
「グラニの隷属の首輪を買いに行ったついでに昨日売却した魔物の金額を受け取りに来たんだ」
「お買い物してきたのですか?」
「ああ」
「羨ましいです。私、買い物なんてしたことがありませんから……」
どうやら王女という立場上、普通の女の子のように街を出歩くことも出来ないらしいな。確かに大抵の物は侍女や家臣が用意する筈だろうから、自分から買い物をする必要なんてないもんな。
「あー、そう言えばまだ買いたい物があるんだった。どうせなら一緒に来るか?」
「本当ですか!? 是非ご一緒させて下さい!」
俺の何気ない提案にユフィアは花の蕾が開くような笑顔を浮かべる。
「一応、ギルド職員のアリスさんに外出の確認だけはとっておこう。王女様が勝手にいなくなったら迷惑がかかるだろうしな」
「はい!」
俺達はユフィアの外出許可を貰うべくアリスさんに説明する。少し困惑していたがこの街から決して出ないという条件付きで何とか許可を得ることができた。
「ではお姫様、行きましょうか」
「ふふ、ルイ様との買い物なんてとても楽しみです」
可愛らしい笑顔向けてくれるユフィアを先導しながら、俺達は冒険者ギルドを後にするのだった。




