神馬②
オルトロス
種族:魔獣種
等級:B
魔力:10000
オルトロス
犬型の魔物。2つの頭を持つことから【双犬】と呼ばれている。非常に凶暴な性格をしており、俊敏な動きで獲物を翻弄し、鋼鉄をも容易く切り裂く牙と爪で引き裂く。
どうやら進化して一段と強くなっているようだ。初めてのB等級魔物との戦闘。心して挑む必要があるな。
俺は念の為に魔力纏鎧で身体能力を向上させ、ミスリルスピアを構える。
「ガウッ!」
「バウっ!」
二つの頭部がほぼ同時に吠えると、その鋭い牙で噛みつこうと俺に向かってきた。
「はあっ!」
俺はミスリルスピアを振るう。しかし相手はB等級魔物だ。オルトロスは俊敏な動きで俺の真上を跳び越えるようにして回避する。
巨体になったからとは言え、動きはヘルハウンドの時よりも格段に素早くなっている。だが今の俺は身体能力がかなり向上しているので対応は充分可能だ。
オルトロスが地面へと着地する瞬間に俺はミスリルスピアを突き出す。
「「ガルルルッ!」」
しかしオルトロスはそれを予想していたかのように双頭の口から火炎を吐き出してくる。
「--ッ」
俺はすぐさま踏み止まり、側面へと跳んでその火炎を避ける。しかし僅かに服を掠めたのか、少し焦げた匂いがする。
まさか火炎攻撃が可能だとは思わなかった。もう少し反応が遅ければ掠り程度では済まなかっただろう。
「ガウッ!」
「バウッ!」
再度火炎を吐こうとするオルトロス。もう同じ手は通用しないぞ。
俺は地面を蹴ると、オルトロスの眼に砂が入る。
「はあっ!」
そして僅かにできた隙を狙ってミスリルスピアを振るってオルトロスの左頭部を切断する。
「ギャアアァァァンッ!!」
左頭部を切断されてオルトロスは断末魔の悲鳴を上げるが倒れる様子はない。
どうやら片方の頭部を失った程度では完全にオルトロスの息の根を止めることはできないようだ。
このままではマズイと判断したのか、オルトロスは俺から距離をとろうとする。
「逃すかよ。マナチェーン」
魔力で創られた鎖がオルトロスの身体へと巻きつき動きを止めと、そのままこちらへ引き寄せる。
「終わりだ!」
ミスリルスピアによる一撃がオルトロスの身体を見事に穿つ。
「ギャン!」
致命傷を受けたオルトロスは悲鳴を上げると、そのまま倒れてその生涯を終わらせることになる。
B等級魔物のオルトロスか。なかなかの強さだったな。こいつの素材なら結構な値段で売れるだろうな。
さて、スレイプニルは無事に子供を出産できただろうか?
俺はオルトロス達の死骸を全て回収し終えると、出産中であるスレイプニルへと視線を向ける。
そこにはスレイプニルと同じ灰色の体毛と白い鬣を持つ仔スレイプニルが勇ましく佇んでいた。
しかもスレイプニルが自体が巨大なので仔馬でも体高2メートルは優に超えている。そしてスレイプニルに匹敵する程の貫禄を感じる。
「どうやら無事に出産は終えたようだな」
「はい、とても元気で強い仔です。お馬の出産なんて初めて見ました。とてもすごかったです」
生物の誕生という瞬間に立ち会えて聖職者として考え深いことなのだろうな。
--ルイ殿。
「--ッ!?」
突然、頭の中に声が聞こえる。この声はスレイプニルか?
--我は今、そなたの頭に直接語りかけている。
つまり念話というやつか。しかし、どうして念話なんかを?
--単刀直入に聞こう。そなたは女神レイシア様と関わりがある者か?
--ッ。何故分かったんだ?
--先程の戦いで見せたそなたの魔力。あれは間違いなく我が主である女神レイシア様のものだ。つまりそなたはレイシア様がこの世界を救う為に遣わした者なのだろう?
そんなことまで分かるのか? だとしたら邪神の復活を企てている者がいるということも知っているのか?
--無論だ。最近は世界各地で異変が起きているからな。それに遥か昔、この世界を去る際時にレイシア様は仰られていた。『邪神が復活する兆しが見られる時、代行者を遣わす』とな。それがそなただったとは驚きだ。この出会いはまさに偶然ではなく必然だったようだ。ルイ殿、我が子をそなたと共に同行する許可をくれないか?
俺があの仔スレイプニルを? でも良いのか?
--構わん。我もかつてはレイシア様に仕えていた身だ。そのレイシア様が遣わしたそなたになら我が子を預けられる。頼む。
七神獣の一角にそこまで言われると断れないな。
分かった。なら遠慮なく預かろう。
--感謝するぞ、ルイ殿。
こうしてこの子スレイプニルは俺と同行することになった。そのことをユフィアに伝えると、とても驚いた表情を浮かべる。
「まさか伝説の【神馬】の仔を授かるとは、ルイ様は本当に凄いお方です」
ユフィアが尊敬の眼差しをこちらに向けてくる。少し照れくさいな。
『ルイ殿、良ければ我が子に名を付けてはくれまいか?』
名前か。確か俺のいた世界でもスレイプニルの伝説はある。そしてスレイプニルの子孫には名馬として名を馳せている馬が存在がした筈だ。
確かその名馬の名は--
「グラニ。今からお前の名前はグラニだ」
「ヒヒィーン!」
名を与えられて子スレイプニル--グラニは高らかに嘶く。どうやら気にいったようだ。
名前:グラニ
種族:魔獣種
等級:S
魔力:80000
うん、ちゃんとグラニという名前になっているな。
それにしても流石はスレイプニルの子供として文句のないステータスだな。
それに何と言っても魔力の保有量が凄い。生まれたばかりだからなので親であるスレイプニル程ではないが、これから成長と共に高くなるだろう。
『良い名を貰って何よりだなグラニ。ではルイ殿との約束通りに我はこの森を出て行くとしよう』
そう言ってスレイプニルは立ち上がると、全身に風を纏い始める。出産直後だというのにもうそこまで動けるとは流石は伝説の【神馬】というべきだろうか。
『ではルイ殿、グラニを頼む』
そう言い残してスレイプニルは行ってしまえ。大空へと翔け上がっていくその姿はとても優雅で本当に美しかった。
よし、今回の指名依頼は無事に完了した。これでこの森の異変は無くなるだろう。オルフィンへと帰ろう。
「グラニ、俺達を乗せてくれるか?」
「ブルルルル!」
どうやら俺の言葉を完全に理解出来ているようだ。グラニは足を折り、背中に乗りやすいように屈んでくれた。
「ユフィアも乗りな。一度君をオルフィンに連れて行き、ギルドマスターに会って貰う。そこで今後のことを考えよう」
「はい。よろしくお願いします」
俺とユフィアはグラニの背中に乗る。
「よし、オルフィンへ帰ろう」
こうして指名依頼を無事に完了して、オルフィンへと帰還することにした。
「ホォウッ!!」
帰還途中、またしてもアウルベアと遭遇した。しかもこの個体、今まで遭遇してきたどのアウルベアよりも体格が一回りも大きい。
おそらくスレイプニルがこの森を去ったことを察したのか、元の縄張りに戻ろうとしているのだろう。
俺達に気がついたのかアウルベアが俺達に襲いかかろうとしてくるが、それをグラニが対処する。
「ヒヒィーンッ!」
グラニがいななくと同時に放たれたのは風の刃。それがアウルベアに目掛けて放たれると、意図も容易くその太い首を刎ね飛ばしてしまう。
まだ生まれたての子供とはいえ流石はS等級魔物だ。C等級魔物程度のアウルベアでは相手にもならないということか。
やはりグラニはスレイプニルと同じ風を操る力があるようだ。だが、まだ空を翔けることは出来ないようだが、いずれそれも可能になるだろう。
それにしてもグラニの走る速度は凄まじいな。
お陰でオルフィンまで片道半日はかかる距離を僅か1時間程で到着するのだった。




