神馬①
「七神獣? 何だそれは?」
「はい。七神獣とは……」
ユフィアによると七神獣は太古の昔に女神に使役されていたとされる7体の魔物のことで、一般的な魔物とは一線を画す存在のようだ。
邪神封印後は女神からこの異世界ルファディアを守護する使命を与えられており、一部を除いては世界各地でその姿を見せるらしい。
なるほど、その七神獣の一角が目の前の巨馬ということか。伝説とされる魔物のステータス、見せて貰おうか。
名前:スレイプニル
種族:魔獣種
等級:S
魔力:500000
スレイプニル
馬型の魔物。女神が使役していた七神獣の一角で、【神馬】と呼ばれるこの世に存在するどの馬よりも早く疾走すると言われている。嵐を呼び寄せ、空を自在に翔けることもできる。
何とも圧倒されるステータスだろうか。流石は七神獣の一角と言うべきだろう。
間違いなくこの森の異変はこのスレイプニルによるものに違いない。この事を冒険者ギルドに報告すれば指名依頼は完了だ。
そう思い、この場から離れようとしたその時だった。
『--誰だ、そこにいるのは?』
「--ッ」
「--ッ」
スレイプニルに俺達の存在を気づかれたしまったようだ。それにしても今、喋ったよな? ずっしりとプレッシャーが全身にのしかかってくる。
『隠れてないで出てきたらどうだ?』
スレイプニルが鋭い視線を向けてくる。どうやら逃げられる状態ではないようだ。仕方がない、ここは姿を見せるしかないか。
俺達は茂みから姿を現し、スレイプニルへと近づく。
『ほう、人の子か』
俺達の姿を見るなり、スレイプニルは表情を少し緩める。それでも俺達を警戒している様子だ。
『そなた達は何者だ? 何故この森の奥地まで来た?』
「俺は冒険者のルイ。こっちはユフィア。この森で起きた異変を調査しに来たんだ」
俺はスレイプニルに全てを話した。
「すまぬな。それは間違いなく我が原因だ」
するとスレイプニルは申し訳なさそうに謝罪してきた。
『実は我の腹には子がいるのだ』
妊娠していたのか。確かによく見るとその腹は大きく膨れているな。
スレイプニルが言うにはもうすぐ子供が生まれそうなので安全を考慮してこのドグマの森に一時的に身を隠していたとのことだ。そして出産を邪魔されないように周囲の魔物達を威圧して追い払っていようだ。
『もうすぐ我が子が産まれる。無事に産まれたら早々にこの森を立ち去ろう。だからもう少しだけここに居させてはくれまいか?』
そういう事情なら仕方ないな。
「分かった」
『感謝するぞ、人の子よ。--ぐっ!』
すると、スレイプニルが苦悶の表情を浮かべるながら苦しみ始める。どうやら出産が始まったようだ。
流石に邪魔をするわけにはいかないよな。さて、要件は済んだのでそろそろこの場から離れるとしよう。
--警告。魔物の群れがこちらに接近してきています。
魔物の群れだと? どういうことだ、大抵の魔物はスレイプニルの威圧で近づこうとはしない筈だ。
『……恐らく、我が出産で完全に動けないこの状況を待っていたのだろう……』
どうやらスレイプニルも魔物の大群に気がついているようだ。
スレイプニルが言うには魔物はより強力な個体を取り入れることで更なる力を得ることができるらしい。
S等級であるスレイプニルなら確実に強くなれるだろう。
「ユフィア、悪いがスレイプニルを守ってやってくれ。俺が魔物達を退ける」
「分かりました! 聖護結界!」
現れた魔力で形成された障壁がユフィアとスレイプニルを囲む。これなら集中して魔物と戦えるぞ。
ミスリルスピアを構えて戦闘態勢に入ると、茂みの奥からそいつらは現れた。
それは黒い体毛と燃えるような赤い瞳、鋭い牙と爪が特徴的な大型犬のような魔物だった。数は6匹。
名前:ヘルハウンド
種族:魔獣種
等級:C
魔力:3000
ヘルハウンド
犬型の魔物。闘争本能が高く、群れとのコンビネーションで獲物を追い詰めて鋭い爪と牙でとどめを刺そうとする。
C等級魔物が6匹か、これは油断ができないな。しかもスレイプニルが弱体化している時を狙っていることから相当狡猾のようだ。
俺を囲むようにして距離を縮めているその姿は野犬等のように集団での狩りに長けていることを意味している。
「ガウッ!」
まずは1匹目のヘルハウンドが背後から襲い掛かってくる。けれどそれは容易に予想できていた。狩りをより確実に成功させるには背後からの奇襲が1番成功しやすいからな。
「はあっ!」
叫びながら背後へとミスリルスピアを振るう。その一撃は襲い掛かってきたヘルハウンドの頭部をあっさりと切断する。
「まず1匹目!」
俺は穂先に付いたヘルハウンドの血を振り払いながら残りのヘルハウンドへと視線を向ける。
「今度はこっちから行くぞ!」
俺は一気に2匹目のヘルハウンドへと間合いを詰めてミスリルスピアを突き出す。
「ギャンッ!?」
俺の渾身の突きは見事に2匹目のヘルハウンドの身体を貫通して、その命を散らすことになる。
「2匹目」
胴体を貫かれて串刺しになったヘルハウンドを様子を窺っていた別のヘルハウンドに向けて放り投げると、その後を追うように3匹目、4匹目のヘルハウンドも仕留めていく。
「ガウッ!」
「ガルルッ!」
瞬く間に自分達の仲間が討伐されていき、残りのヘルハウンド達が距離を取り始める。
そして俺の周囲をぐるぐると走り始める。恐らく俺の意識を拡散しようとしているのだろう。
そして頃合いを見計らって5匹目のヘルハウンドが襲いかかってくる。
「マナチェーン」
俺は無属性小魔法を発動。魔力の鎖がヘルハウンドの身体へと巻き付いて動きを止める。俺はそのまま魔力の鎖を掴み取り、手元へと引き寄せてミスリルスピアを突き出してヘルハウンドを仕留める。
「5匹目」
さあ、残りはあと1匹だ。
俺は最後のヘルハウンドへと視線を向ける。
「グルルルルッ!」
ヘルハウンドが唸り声を上げながらこちらを睨んでいる。どうやらこのまま逃げる様子はないようだ。
「ガウッ!」
するとヘルハウンドは短く吠えたと思ったら、何と近くにあったヘルハウンドの死骸をいきなり食べ始めた。
「--なっ!?」
予想外の出来事に思わず呆気に取られてしまう。
そして仲間の死骸を食べ終えると、突如、ヘルハウンドに異変が起こる。
メキメキと音を立てながら全身が数倍も程肥大化していき、そして1つだった頭部が分離して2つへと増える。
その異様な光景に俺は思わず息を飲む。おそらくこのヘルハウンドは仲間の死骸を食らうことで進化しているのだろう。
「ワオオオオオオオオン!」
そして双頭の犬となった魔物は高らかに吠えた。




