指名依頼③
「……もう、落ち着いた?」
俺は今、美少女を抱き寄せながら頭を撫でていた。彼女の背は俺より低いのでとても撫でやすいな。
「ひっく、は、はい……」
涙を拭いながら美少女が小さく頷く。
ふう、ようやく美少女を落ち着かせることができた。ずっと泣き続けるからどうなることかと思ったぞ。
そしてようやく落ち着きを取り戻したのか、ユフィアは丁寧にお辞儀をしてきた。
「いきなり泣いてしまった申し訳ありません。本当に嬉しくて、ついはしたないことをしてしまいました……」
泣き止んだ美少女を一先ず離すと彼女は嬉しいやら恥ずかしいやらといった表情を浮かべている。
いえいえ、こちらこそとても心地良い感触だったので、全然大丈夫です。寧ろこっちがお礼を言いたいくらいだ。
「さて、自己紹介がまだだったな。俺はオルフィンでD等級冒険者をしているルイだ。よろしくな」
「ルイ様ですか。こちらこそあらためて自己紹介させて下さい。私はユフィア=リスティング。リスティング神聖国の王女です」
どうやらとんでもない人物だったようだ。それにリスティング神聖国と言えばこの世界ではかなり有名な国だ。
リスティング神聖国。
大陸の西方に位置する大国で、この世界で唯一存在を認められている女神教という宗教がある宗教国家だ。
ちなみにそれ以外の宗教は邪教扱いされているらしい。
それにリスティング神聖国の王女は【聖女】と呼ばれていて、絶大な支持を得ているとのこと。それが彼女だったとはな。
そんな人に対してタメ口で接してしまうなんて、下手をすれば国際問題が起きてしまう可能性がある。
「これはこれは申し訳ありません。まさか大国の姫君とは知らず、馴れ馴れしい態度を取ってしまって……」
俺は頭を下げて彼女に謝罪する。
「や、やめてくださいルイ様! 私にそんな敬語とか使わないで下さい!」
「しかし……」
「お願いです。どうか普通に接して下さい」
涙目でそう言われると流石に断れないよな。まあ、本人が良いと言っているのだから大丈夫だろう。
「……分かったよ」
渋々承諾すると、ユフィアの表情がパァと明るくなる。ずるいな、その可愛らしい笑顔。何だかとても眩しく思えるぞ。
「それで王女であるユフィアがどうして呪いなんかに?」
俺は疑問に思っていたことを尋ねてみる。王女ともあろうお方が呪われるなんて余程のことだぞ。
「……実はよく分からないのです」
「どういうことだ?」
「はい、それが……」
ユフィアが事情を説明してくれる。
1週間前、執務で疲れたユフィアは寝室で仮眠を取っていた。そして目覚めると呪いで金色スライムのような姿になっていたようだ。
当然ユフィアは周囲に助けを求める。だが外見が魔物となり、しかも言葉を発せられなくなった彼女を誰も王女とは思わず逆に討伐しようと襲われそうになったので、ただひたすら逃げ続けたようだ。
幸い姿は魔物に変化したが魔法は使えたようで、魔物と遭遇しても何とか危機を乗り切ったらしい。
そして今日ドグマの森へと辿り着き、魔物を退けながら身を隠していたら俺と出会い、呪いを解かれて救われたということらしい。
ふむ、ユフィアの話からするとこのドグマの森で異変が起きているのは彼女が原因ではないようだ。
「それでルイ様はどうしてこの森に?」
「この森の調査に来たんだよ」
「調査ですか?」
「ああ。理由は分からないが今、ドグマの森には異変が起きているようなんだ。俺はその原因を調査にきたんだ」
恐らく原因はこの先にあるはずだ。それを確かめなければならない。
けれどその前に、まずはユフィアを連れて一度この森から脱出しよう。彼女はリスティング神聖国の『聖女』だ。安全なところへ連れて行かないとな。
「一度ユフィアをオルフィンへと連れていく。君の安全確保のためだ」
「あの、よろしければ私も同行させていただけませんか?」
「ユフィアを?」
「はい。せっかく調査にきているのに私なんかの為に時間を浪費するのは良くありません。それに私には光属性魔法や加護もあります。決して足手纏いにはなりません。どうかお願いします。私もこの調査に協力させて下さい」
うーん、流石に大国のお姫様を連れて危険な場所に行くのは気が引ける。もし怪我でもさせれば大変だしな。
けれどユフィアは断固としてついてこようとする。大人しい雰囲気の少女だが意外に意志が強いようだ。
「分かった。同行を認めるよ。よろしく頼むユフィア」
仕方なくユフィアの意志を尊重して同行を許可した。もしかしたら彼女の力が今回の調査で活躍するかもしれないしな。
幸いにも今回はあくまで異変の調査だ。原因が分かればすぐにでもこの森から脱出すればいい。
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
両手で小さい握り拳を作り、やる気満々なポーズをとるユフィア。
あー、やっぱり可愛いな。




