D等級昇格試験③
「はあっ!」
俺の振るったミスリルスピアで迫りくるキラービー達を次々と真っ二つに分断していく。
「ギギィッ!」
すると1匹のキラービーが針をこちらに向けると、緑色の液体を放出してくる。
「うおっと!」
俺はそれをギリギリ回避してキラービーに目掛けてミスリルスピアを一突き入れて討ち取る。
確か麻痺毒だったか。まさか毒液を飛ばせるなんて思いもしなかったぞ! いくら異常無効の加護があるからと言って蜂の毒には嫌悪感を感じるな。
これで6匹目。俺はまだま余裕だが、他の冒険者はどうだろうか?
キラービーを倒しながら他の冒険者達の様子を見てみる。
エリオは魔法の連続発動で魔力を消費しているようだが、手持ちのマナポーションを飲みながら魔力を回復しているので戦闘には支障は無い様子だ。
クードは獣人族特有の身体能力でキラービーと渡り合っているがその分体力の消耗が激しいようで、スタミナポーションで体力を回復しながら戦闘を継続している。
しかし問題はやはりガイだった。
「くそ、フレイムアックスが使えねえ!」
どうやら連戦のせいで魔力が尽きてしまい、自慢のフレイムアックスの効果が使い物にならなくなったようだ。
しかもフレイムアックスの効力に頼りきっていからか、奴の実力は大したことがなく、かなり苦戦しているようだ。
「おいお前、魔力を消費してるならマナポーションでも飲んで魔力を回復しろよな!」
「そんな物あるわけねえだろ! 有金は全部このフレイムアックスを買うのにつぎ込んだ! ポーションなんて買う金なんてねえよ!」
呆れた男だ。ポーションを買うだけの所持金ぐらいは残しておけよ。
するとガイの視線は隣のエリオへと向けられる。
「おい、お前は魔法使いなんだろう!? だったらマナポーションくらい多めに持ってるだろ、寄越せ!」
「そんな、これが最後のマナポーションなんです! 僕ももう魔力が尽きそうなので回復しないと魔法が発動できなくなります!」
「お前の雑魚魔法よりもフレイムアックスの火炎攻撃の方が威力もあって大量に倒せるんだ! 良いから寄越せ!」
「うわっ!?」
ガイは強引にエリオのマナポーションを奪い、それを飲む。そして魔力が回復したのか再びフレイムアックスの火炎攻撃を再開する。
仕方がない。一応マナポーションを買っておいて良かった。
「エリオ、これを使え!」
俺は購入しておいたマナポーションを取り出してエリオに投げる。
「あ、ありがとうございますルイさん!」
感謝を伝えるとエリオは受け取ったマナポーションを飲み魔力を回復させると魔法を発動させてキラービー討伐を再開する。
それにしてもどれだけいるんだキラービーは。もうかれこれ20匹は倒していると思うのだが、一向に減る気配がない。このままだと試験どころではなくなってしまう。
ん? 今まで気付かなかったがキラービーの群れに紛れて1匹だけ他の個体よりも倍ほど大きい奴がいることに気がついた。
キラービークイーン
種族:魔蟲種
等級:C
魔力:1500
キラービークイーン
蜂型の魔物。キラービーの上位種で数多くのキラービーを生み出して大規模な群れを作り独自の社会を築く。普段は巣の中で産卵繰り返す為姿を見せないが、群れが一定以上の規模になると新たなキラービークイーンを生み、2つの群れに分かれて大移動する。
やはりあれは女王蜂--つまりは司令塔のような存在か。見ているとやはりキラービーはキラービークイーンの指示に従って動いているようだ。
ならばその司令塔を失えばどうなるのだうか? よし、試してみるか!
「マナチェーン」
俺は魔法屋で習得しておいたマナチェーンを発動する。
すると目の前に魔法陣が出現してそこから魔力の鎖が射出させれ、一直線にキラービークイーンへと迫り、その身体に巻き付く。
「ギギィッ!?」
魔力の鎖のせいで思うように動けないキラービークイーンが何とか振り解こうと暴れるがしっかりと身体に巻き付いているのでそれも出来ない状態だった。
「こっちに来い!」
俺は鎖を思いっきり引っ張ると、群れに紛れていたキラービークイーンがこちらへと強引に引きずり出される。そして俺はそいつに目掛けてミスリルスピアで突きを放つ。
「はあっ!」
全身全霊の力を込めて放った一撃がキラービークイーンの身体を見事に穿つ。
「ギィッ!?」
身体を貫かれてキラービークイーンは少しの間ヨロヨロと飛び回ると、事切れたかのようにそのまま地面へと落ちて動かなくなってしまった。
『ギギギィッ!?』
それと同時に配下であるキラービー達は方々へと四散する。どうやら統率者であるキラービークイーンを失ったことで戦意喪失したのだろう。
「やった……何とかキラービーの群れを退くことに成功しましたね!」
モートンさんの驚きと歓喜の声に俺達はホッとする。あのまま戦闘を継続していたら被害が出ていたかもしれない。
「ちょっとお前! さっきのあれは何なんだよ!?」
そんな中、クードは激怒していた。相手はもちろんガイにだ。
「何がだよ?」
「惚けるな! エリオのマナポーションを強引に奪っただろ!? もしエリオに何かあったらどうするつまりだったんだ!?」
「あん? 別に無事だったんだからもう良いだろうが。それにこいつの雑魚魔法よりもフレイムアックスの炎攻撃の方が威力があるんだから、当然だろう」
「こ、こいつ……」
謝罪するどころかむしろ開き直るガイにクードの怒りはますます増していく。
「クードさん、もう良いですよ。皆無事だったんですから」
そんなクーを宥めるエリオを他所にガイ自分で討伐したキラービーの死骸から魔石を取り出し始める。本当に身勝手な奴だ。
「それよりルイさん、先程はマナポーションを分けてくれてありがとうございました」
エリオが感謝の言葉を告げながら、深々と頭を下げてくる。
「気にしなくていい。エリオがモートンさんを守って身体お陰で戦闘に集中出来たからな。そのお礼と思ってくれ」
実際、エリオのウィンドウォールがモートンさんを守ってくれたお陰でキラービーの群れに集中して戦闘を行うことが出来たからな。
今回の昇格試験内容である商人を護衛するといった点では間違いなく彼が忠実に実行していただろう。
それにキラービー大量発生にはだいぶ苦労させられたがその分多く稼がせて貰える。
俺は3人で討伐したキラービーとキラービー・クイーンの回収をしておく。今回の成果は先程と合わせて俺がキラービー28、キラービークイーン1、エリオが14、クードが11となっている。これだけあれば相当な金額で売れるだろう。
「さ、皆さん先に進みましょう」
こうして俺達は歩みを再開するのだった。
◆◆
キラービーの群れを討伐した次の日。
あれから色々と一悶着はあったものの魔物とは遭遇せずに無事に目的地であるセバーラへと到着した。
モートンさんは無事に積荷を納品がすることができて大変喜んでいた。
「ありがとうございます、皆様。お陰で商品を無事に納品することができました。本当にありがとうございます」
モートンさんは深々と頭を下げて俺達に感謝してくる。
「皆、良くやったな」
そしてゾールさんも俺たちの前に現れる。
「これでD等級昇格試験を終了とする。まずはルイ、冒険者証を出してみろ」
「はい」
俺は冒険者証をゾールさんに提出する。
「昨日のキラービークイーンを倒した一撃、見事だったぞ。合格と判断する」
そう言ってゾールが冒険者証に触れると、E等級からD等級へと変わっていく。
これで俺は今からD等級冒険者だな。
「エリオ、お前は護衛対象であるモートンこことを第一に考えて行動していたな。合格と判断する」
「ありがとうございます!」
「クード、お前はもう少し落ち着きが必要だが、魔物などに対する警戒を率先していたことは評価する。合格と判断する」
「よっしゃあ!」
そして順調にエリオ、クードの順番にD等級冒険者へと無事に昇進していく。余程嬉しかったのか、エリオは涙を流して喜んでいる。
「おいおい、俺はどうしたんだよ? さっさとD等級にしろよ」
未だに冒険者証がC等級になっていないガイは苛立った態度でゾールさんへと詰め寄る。
そしてモートンさんから発せられる言葉はガイを唖然とさせる内容だった。
「残念だかお前は不合格とみなす」
「は?」
「この2日間、お前の動向を見させて貰ったが話にならん。一時的なパーティとは言え共に行動している者達に威圧的な態度を取って和を見出し、ポーションも用意せずに他人の物を奪い、挙げ句の果てには食料も寝袋も他人任せだと? とてもD等級冒険者になれる人物とは思えん」
そう、それは昨夜の事だった。
ガイはフレイムアックスを購入したことで所持金がほぼ無い理由で何と食料や寝袋といった必需品すら持っていなかったのだ。
それにより「食料を分けろ」とか「寝袋を貸せ」と言ってきて、断れば騒ぎ出すという迷惑行為を繰り返す感じだったので仕方なく食料は俺が、寝袋はモートンさんが予備を持っていたので事なきを得た。
「D等級冒険者となればそれ相応の協調性と品位が必要になってくるんだ。お前にはそれがない!」
「くっ!」
ゾールの言葉に口を紡ぐガイ。
「はははっ! やっぱりお前は不合格だったようだな! ざまぁ見ろ!」
そんなガイを眺めながらクードが笑う。粗暴なガイを毛嫌いするこいつにとって何よりも愉快なのだろう。
「ふざけるなよテメェ! 俺よりも弱い奴が粋がるな!」
だがクードの態度がガイの怒りを頂点に達してしまう。完全にキレたガイがフレイムアックスをクードに目掛けて振り下ろす。
「マナチェーン」
しかしガイは渾身の一撃をクードに与えるよりも先に、俺が放出した魔力の鎖によって阻まれる。魔力の鎖はガイを見事に拘束。
「何だこの鎖は!? おい、早く拘束を解きやがれ!!」
それでも暴れようとするので俺はガイの顔面に目掛けて右拳を顔面に叩きつけた。
「ぼげぶっ!」
手加減はしたのだが奇妙な悲鳴を発しながらガイが数メートルまで吹き飛ぶと、白目を剥けながら気絶した。
「あー、スッとした」
この2日間、あいつに対して苛立ってばかりだったからな。今のでかなり晴れやかな気分になる。
それはエリオとクードも同じ心情だったようだ。
クードなんて俺よりも清々しそうな表情を浮かべている。
「やれやれ、ついに殺人未遂か。まったく仕方のない奴だ。ルイ、よくやった」
呆れた視線をガイに向けながらゾールさんが呟く。
「奴はこの街の衛兵に引き渡すことにしよう。先程の行為は明らかな犯罪行為だからな。冒険者資格は剥奪され、2度と冒険者に戻れないだろう」
因果応報とはこのことなのだろう。あの身勝手な振る舞いをする男にはお似合いの末路だと思う。
「では、今日はゆっくり休んで明日の朝オルフィンに戻るとしよう」
こうして無事にD等級昇格試験に合格した俺達は冒険者ギルドが用意してくれていた宿屋で一晩過ごし、オルフィンへと帰還することになったのだった。




