D等級昇格試験②
街道を進む馬車を俺達冒険者は魔物等の襲撃に備えて周囲の様子を探りながら護衛をしていた。
話し合いで馬車の前方をガイとエリオ、後方を俺とクードという体制で護衛をすることになった。
ちなみに試験官であるゾールさんは馬車から遠く離れた場所で俺達を監視している。
「いやー、まさかルイも加護持ちだったなんて驚いたぜ! それにしてもこの串焼き、いつ焼いたものなんだ?」
「確か3日前だったかな」
上機嫌な様子でクードは手にしている串焼きの肉を口に運ぶ。ちなみにクーが食べているのはワイルドボアの串焼きで俺が買っていたものだ。
少し小腹が減った俺は空間収納から焼きたての串焼きを頬張ろうとしていると、その美味しそうな匂いに釣られて横からクードが血走った目でずっと凝視しくるので仕方なく分けてあげたのだ。
無論、串焼き代はしっかりと頂戴しているけどな。
俺もワイルドボアの串焼きを口にする。
うん、猪の肉なんて初めて食べたがなかなか美味いな。
豚肉と同じような味だと思っていたがこちらは野生の風味が強く、濃厚な旨みが口の中に広がり、噛む度に肉汁が滲み出る。味付けは塩胡椒だけというシンプルな物だがこれでも充分なくらい美味い。
周囲を警戒をしながらワイルドボアの串焼きを堪能していると、それは発動した。
--警告。大量の魔物がこちらに接近してきます。
俺の危機感知が発動した。
「お前も気がついたか?」
カードが鼻をひくつかせながら聞いてくる。どうやらクードも魔物の接近を感じているようだ。
「魔物の群れが来るぞ!」
戦闘大勢に入りながら俺はすぐに警告を発した。それを聞いて前方で護衛しているガイとエリオも警戒を強める。
「来たぞ」
街道から外れた森から現れたのは大きな蜂の群れだった。
体長は1メートル程で黄色と黒という如何にも危険だと思わせる色合いの外殻、ガチガチ鳴らしている大きな顎、耳を塞ぎたくなるような羽音を撒き散らす半透明な羽、腹の先端には鋭い針が生えており緑色の液体を垂らしている。例えるならスズメバチに近い外見だ。
キラービー
種族:魔蟲種
等級:D
魔力250
キラービー
蜂型の魔物。群れの中心に位置する女王蜂の護衛及び餌を収集する役割を持つ。非常に好戦的で針の麻痺毒で獲物の動きを止める。
D等級の魔物か。個々で相手するには全く問題ないが、今回は数が多い。しかも商人の護衛までしなければならない。細心の注意を払って戦う必要があるようだ。
「皆さん、頼みましたよ」
モートンさんの言葉に皆が頷く。そしてキラービーとの戦闘が始まる。
「はあっ!」
俺は針向けながらこちらに向けて突っ込んでくるキラービーの攻撃を回避すると、そのガラ空きな胴体にへとミスリルスピアを振るう。
「ギィッ!」
ミスリルスピアの穂先がキラービーの胴体に沈み込んでいく。
魔物とはいえ姿はほとんどが蜂の姿をしているので身体はそれほど硬くなく、大した抵抗もなく刃は滑り込み、そのままキラービーを両断した。
よし、まずは1匹。
そのまま近くにいた2匹目、3匹目を続けて討ち取っていく。この程度なら魔力纏鎧による身体強化をする必要はないだろう。
さて、他の冒険者達はどうなっているだろうか。俺はキラービーを討ちながら視線を他の冒険者達へと向ける。
まずはガイ。
「おら燃えろ!」
ご自慢のフレイムアックスを振るうのと同時に炎が放たれ、瞬く間に数匹のキラービーを焼き尽くしていく。炎の火力はかなり強く後に残されたのはキラービーの消し炭だけだった。
次はエリオ。
「ウィンドスラッシュ!」
魔法名を唱えると魔法陣のようなものが出現し、そこから風の刃が放たれると、見事にキラービーの頭部を切断し、絶命させる。
最後はクード。
「オイラも負けてられないな!」
そう言ってクードは腰の短剣2本を抜き放つと、一気にキラービーとの間合いを詰め、攻撃を回避しながら短剣を振るう。
「ギィッ!?」
鈍い音と共にキラービーの胴体が切り裂かれる。クードが持つ短剣ではキラービーの外殻を切り裂くのは不可能だろう。
しかしクードが狙ったのは外殻の隙間だった。だから容易くキラービーを斬ることが出来たのだろう。
流石はD等級昇格試験を受ける冒険者達。E等級程度の魔物では相手にはならないようだ。これなら楽にこのキラービーの群れを蹂躙できるだろう。
俺の思惑通りキラービーの群れは瞬く間に蹂躙されることになった。
ちなみに討伐数は俺が7匹、ガイが12匹、エリオが6匹、クードが5匹となった。
「どうよ、俺が多くキラービーを倒したぜ!」
4人の中で1番キラービーを討伐した数が多いとガイがどや顔で自らの功を誇る。
「す、凄いですね……」
ガイの態度にエリオ思わず苦笑いを浮かべている。
「別に多く討伐したからってそんなに威張るなよな!」
対してクードはガイの態度が気に食わないのか、少し反抗的な態度でそう言う。
「何だ? 俺よりも討伐数が少ないからってひがんでるのか?」
「なっ! 別にそんなんじゃねーよ!」
明らかに人を馬鹿にしたその言い分にクードが食って掛かる。だがそれに対するガイの態度は鼻で笑うものだった。
「こ、この……!」
「2人とも、喧嘩はやめてください!」
「うるせえよ!」
「うわ!」
険悪な雰囲気の2人を宥めようとするエリオに苛立ったのかガイがエリオを強く突き放す。それによりエミリは地面に尻餅付くことになる。
「大丈夫エリオ!? お、お前……!」
流石にガイの横暴に我慢出来なくなったのかクーが腰の短剣に手をかける。
「お前たちそこまでにしておけ」
俺はガイとクードの間に割って入って喧嘩を止めることにした。流石にこの状況は見過ごせないな。このままでは試験に悪影響を与えかねない。
「何だよお前! 邪魔すんな!」
ガイが拳を握りしてこちらに振るう。俺は振り下ろされた拳を掴んで受け止めた。ついでに威嚇として強めの握力でガイの拳を握る。
「--なっ!?」
予想以上の握力にガイは冷や汗を流し、表情が徐々に曇り始める。
「今は試験の最中なんだ。俺達が率先することは喧嘩ではなく商人の護衛だ。それを第一に考えろ」
俺は少し声音を落としながら威嚇も交えてそう告げる。これだけ言えばいくら何でも喧嘩はやめるだろう。
「……済まん。少し頭に血が昇ってたようだ……」
「……チッ」
俺の言葉にクードは申し訳ないと言った表情で謝罪し、ガイはばつが悪そうな表情を見せるとそのまま離れてしまった。
「大丈夫か?」
俺は突き飛ばされたエリオに手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます……」
エリオは俺の手を取り立ち上がると、頭を下げて俺に感謝してくる。
「くそ、何なんだアイツ! 1人であんなに多くキラービーを倒したのは凄いと思うが、それは全部あのフレイムアックスのお陰だろ!」
未だにガイの態度に腹を立てている様子のクード。確かに一理あると思った。
先程のキラービー戦を見ていると、ガイはフレイムアックス頼りの戦闘を行っていた。アイツが倒したキラービーの全てが灰となっているのがその証拠だ。
あんな戦い方をしていたらいつか痛い目に遭うだろうな。それにしてもあんなにフレイムアックスの効果を発動して魔力は大丈夫なのだろうか?
ま、そんなことよりもキラービーだ。俺は自分が討伐した8匹のキラービーの死骸を回収する。
それを見ていたエリオが目を丸くして驚いていた。
「ルイさん、もしかしてそれは加護ですか?」
「そうだ。生き物以外なら際限なく収納することができる加護だ」
「へー、凄い加護ですね!」
エミリが感嘆の声を上げる。すると彼は俺にある提案してきた。
「ルイさん、お願いがあります。僕が討伐したキラービーの回収もお願いしてもよろしいでしょうか?」
「エリオが討伐したキラービーを?」
「はい。僕にはルイさんのような加護はありませんから魔物をそのまま持ち運ぶことが出来ません。そのお礼として売却できた時の金額の1割をお支払いします」
「そんなに貰ってもいいのか?」
「構いません。魔石だけ回収して売るよりも討伐した魔物をそのまま持ち帰る方が断然高額で売却できますから」
「あ、じゃあオイラもお願いしようかな!」
と、エリオの提案に乗っかってクードも懇願してくる。本当にちゃっかりしてるな、こいつは。
しかし売却したキラービーの1割の金額か。俺としては回収しておくだけでそれだけの金額を貰えるのは得でしかないからな、申し出を断る必要は皆無だ。
「分かった。それで手を打とう」
交渉が成立し、俺とエリオとクーが討伐した合計18匹のキラービーの死骸を回収することにした。
当然ガイの討伐したキラービーは回収しないでおく。別にあいつから頼まれたわけではないからな。
それを見ていたガイがこちらを睨んでいるが無視だ無視。そもそも灰化したキラービーなんて売れるわけないしな。もしかしたら体内の魔石は無事なのかもしれないがそれは自分で回収してくれ。
「それにしても変ですね……」
キラービーの回収をしていると、エリオが呟いた。
「変って何が?」
クーがエリオの言葉を聞いて不思議がって尋ねる。
「キラービーは狩りをする時は基本的には単独で行います。けれど先程のキラービーは群れで行動していました。それが少し気掛かりで……」
「確かにそうだな……」
俺が地球にいた頃、蜂は何度も見たことがあるが群れで飛んでいるところは見たことはなかった。
そう言えば聞いたことがあるぞ。確か蜂は巣が手狭になると群れの半分が新しい巣を作るために移動を開始することを。
もしキラービーも同じ習性を持っているとしたら……。
--警告。大量の魔物がこちらに接近しています。
--ッ! また大量の魔物だって!
「おい皆、気をつけろ! また魔物の群れがこっち来るぞ!」
「「「--ッ!」」」
俺の言葉で全員に緊張が走る。そしてその脅威は凄まじ数の羽音共に現れた。
「ギギギギギィッ!!」
目の前に姿を現したのは先程よりも遥かに多いキラービーの大群だった。
「おい、嘘だろ!?」
「あんな数の魔物は見たことありません!」
「冗談はやめろよな!」
夥しい数のキラービーの大群に驚愕する冒険者達。この距離では流石に逃げられる状態ではないので迎え討つしかないか。
「全員馬車を囲うように陣形を取れ! モートンさんを守るんだ!」
すぐさま状況を把握した俺は指示を出す。俺達は四方向それぞれ陣形をとり、迎撃体制に入る。
「モートンさん、念の為に僕の魔法で防御しておきます。ウィンドウォール」
詠唱が終えると、モートンさんの周りに風で形成された壁が覆われていく。
「おお、これは心強いです! ありがとうございますエリオさん」
よし、エリオの魔法のお陰で多少のことならモートンさんの身は安全だろう。これでキラービーに集中できる。
「いくぞ!」
キラービーの群れとの再戦が始まった。




