初依頼③
無事にワイルドボアの討伐依頼を終えた俺は依頼達成の報告をするべく冒険者ギルドに立ち寄ることにした。
「討伐対象である4頭のワイルドボアの右耳です。確認をお願いします」
俺は空間収納から取り出したワイルドボアの鼻4つを受付嬢のアリスさんに渡す。
「はい、確かにワイルドボアの鼻で間違いありません。依頼完了です」
よし、初仕事は無事に成功したな。そうだ、報酬を受け取るついでに今回手に入れた魔物素材も買い取って貰おうことにしよう。
「ついでに魔物の素材を売却したいのですが良いですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
アリスさんが頷いたのを確認して空間収納から討伐したワイルドボアとファングボア、ゴブリンを取り出す。
「これはもしかしてファングボアですか?」
「はい、そうです」
アリスさんがファングボアの死体を見て少し驚いた表情を見せる。ファングボアはC等級魔物。E等級冒険者の俺が1人で討伐したのが相当珍しいのだろう。
「では査定させて頂きますね」
そう言ってアリスさんは今回討伐した魔物達に近づいて選別をしていく。昨日は他の人が査定していたが今日はアリスさんが査定してくれるようだ。
しばらくすると査定が終わったようで、トレイに硬貨を乗せて戻ってきた。
「ルイさん、査定が終わりました。一部損傷が激しい魔物がありますので買取金額は200000リルとなります。そして今回の依頼報酬の40000リルと合わせまして240000リルをお支払いします」
良し、なかなかの金額で売れたぞ! 今日は無事に初クエスト達成を祝して夕飯は少し豪華にするとしよう!
そう内心で喜んでいるそのとき--
「ほう、ファングボアか。それもなかなかの大きさだな」
「--ッ!」
背後からする男の声で我に返る。振り返るとそこには大男が佇んでいた。
年齢的には30代後半〜40代前半くらいだろうか。逆立った藍色の短髪に顔には恐らく魔物との戦闘で負った複数の傷、体格は2メートルは程ある高身長に巌のような筋肉が上等なスーツを今にも千切れ飛びそうなほどにか張り詰めている。そして何より圧倒的な威圧感を纏っているように感じられる。
「ギ、ギルドマスター……」
アリスさんがポツリと呟いた言葉に思わず息を呑む。
まさかの冒険者ギルドのトップのご登場だった。ギルドマスターににして世界でたった6人しか存在しない最強の冒険者の1人か。確かにそれだけの風格と威圧を感じる。
世界最高峰の実力を誇るとされるS等級冒険者のステータス、どれ程のものなかの見せて貰おう。
名前:ドーヴァス=ガオラ
性別:男
種族:人間
適性:地属性
魔力:200000
魔法:ストーンエッジ(小)・ロックストライク(中)・アースクエイク(大)
加護:不撓不屈・英雄豪傑
不撓不屈
自身が受けたダメージを倍の威力にして放つ。
英雄豪傑
3分間の間だけ自身が受けるあらゆる物理攻撃・魔法攻撃を無効化する。
流石はギルドマスターでありS等級冒険者でもある人物。魔力の量、魔法の習得数、そして何より加護を2つも持っている。ギルド職員であるアリスさんもなかなかのステータスだったが、この人のステータスは次元が違う。
俺は女神様によって力を与えられたに過ぎない。けれどこの人は自分の実力だけでここまでの強さを得るに至ったのだ。まさに英雄と言える人物だ。
「お前がルイだな。俺はドーヴァス=ガオラ。冒険者ギルドのギルドマスターをやらせてもらってる者だ」
「初めましてルイです、E等級の冒険者として活動させて貰ってます」
こちらも軽く自己紹介すると、ギルドマスターはまじまじと俺を見つめてくると、「なるほどな……」と呟いた。
「よしルイ。明後日に行われるD等級昇格試験を受けろ」
「「……はい?」」
ギルドマスターの突然の提案に俺だけでなくアリスさんも呆然としてしまう。
「ギルドマスター、流石にルイさんにD等級昇格試験を受けさせるのはまだ早いと思うのですが……」
確かに俺は昨日冒険者になったばかりだ。それにクエストを受けたのは今日が初めてだ。
それなのにこうもあっさりとD等級昇格試験を受けられるのは明らかににおかしいと思う。
「良いんだよ。俺はギルドマスターだ。俺が良いと言えば良いんだよ」
何という豪快な人なのだろう。流石にこの対応にはギルド職員であるアリスさんもやや呆れ気味である。
「で、D等級昇格試験を受けるのか? 受けないのか?」
D等級昇格試験。それに合格すれば俺は晴れてD等級冒険者になれる。そうすればもっと報酬の良いクエストを受けることが可能になる。
「受けます」
俺は即決で受けることにした。
俺の言葉にギルドマスターは笑みを浮かべる。
「試験は明後日の昼から開始する。遅れるなよ」
よし、D等級昇格試験を必ず合格してやるぞ!
その日の夜、風見鶏亭の女将にお土産として活力キノコを渡したら、お礼としてキノコ料理をお腹いっぱいに食べささてくれて、満足した。
◇◇
冒険者ギルドを出ていくルイを眺めながらアリス=レナードは小さく溜息を吐いた。
「ギルドマスター、どうしていきなり彼にD等級昇格試験を受けさせたんですか?」
アリスはルーヴァスを見上げながら質問する。本来D等級昇格試験を受けるには2つの条件がある。
1つ目はE等級依頼5回成功させる。
2つ目はE等級の魔物を10体を討伐する。
この2つを達成させることで初めてD等級昇格試験を受ける資格が与えられることになる。ちなみにこの達成条件はギルド職員にしか教えられていない。
しかし、ルイはどちらもまだ未達成でD等級昇格試験を受ける資格は本来なかった。
「理由は3つだ。アイツはファングボアと戦闘を行ったにも関わらず無傷だった。C等級魔物を無傷で倒すなんてなかなかの実力がある証拠だろ?」
確かにルイを見る限り無傷だったことを思い出すアリス。それにファングボアの死体の傷を見る限り一方的にファングボアは倒された様子だった。
ファングボアはC等級魔物の中でもなかなかの実力を持つ魔物だ。あの交戦的な性格と突進力はおそらくB等級魔物にも引けを取らないだろう。
実際、ギルド職員であるアリスでも単独かつ無傷で討伐するのはなかなか骨が折れる相手である。
「そして2つ目はルイが冒険者登録の時に渡してきた手紙がガンツのものだったことだ」
ルーヴァスによればガンツという冒険者は10年前に活躍していたA等級冒険者だった男の名前で、依頼中に負った怪我が原因で引退してしまい現在は生まれ育った村で武器屋を営んでいるとのこと。
ルイが装備している槍はガンツが冒険者時代に愛用していた物だった。つまりルイはA等級冒険者に認められているという証でもあった。
「3つ目の理由は?」
「俺の勘だ」
「また勘ですか……」
ルーヴァスは良く勘で物事を決めてしまうことが多い。普通なら呆れて何も言えなくなる理由だった。
しかしルーヴァスの勘は良く当たる。それは数々の修羅場をくぐり潜り抜けてきた彼だからこそ持つ優れた直感力とも言えた。
「もしかしたらアイツはS等級冒険者に匹敵、もしかしたらそれ以上の存在なのかもしれないな」
だからこそ、ルーヴァスがそこまで認めているあの新人冒険者のルイにアリスは期待をしてしまう。
彼がいつか、大きな偉業を成し遂げるのではないかと。




