プロローグ
「……最悪だな」
まるで今の自分の心境を表すような、どんよりと曇った空を見上げながら俺--神代ルイはそう呟いた。
何故、俺がこれほどまで落ち込んでいるのかというと、先程3年も付き合っていた彼女に突然振られたからだ。
理由を聞いても「ごめんなさい」としか答えてくれず、訳が分からないまま破局することになった。
一体俺が何をしたというのだろうか?
こう言っちゃ何だが、俺は彼女に相応しい彼氏であろうと努力してきたつもりだ。
猛勉強した末に彼女と同じ高校を受験して合格し、身だしなみには気をつけ、スポーツもそれなりに嗜み、何より好きな彼女のことをとても大切にしてきたんだ。
そんな思いとは裏腹に理由も告げられずにあっさりと振られる。
何とも惨めなものだな……。
まるで心に穴がいたかのような感覚を感じていると、突然ザーザーッと雨が降ってくる。彼女とのデートを考えて選んだ服装も瞬く間にずぶ濡れとなってしまう。
「……最悪だな」
俺はそう呟くと、急ぎもせずに歩き始める。
今は雨に打たれたい気分だ。そうすれば少しはこの虚しい気持ちを和らげてくれるかもしれない……。
そんな思いながら暫く歩くと、人気の少ない交差点へと着く。
そう言えば先ほど別れた彼女とはデートでよくこの交差点を渡っていたな。本当なら今頃、彼女とデートをする予定だったのにな……。
彼女のことを思いながら歩行者専用信号機が青色なのを確認して渡ろうとしたその時だった。
「--はっ?」
普段ならもっと早く気づいていただろう。しかし、今の俺にはそんな余裕もなくその異変に気づくのが遅かった。
本来なら停止線に止まるはずの大型トラックが、減速ませずに俺の方へと突っ込もうとしている。運転手が慌てている様子から、何かしらのトラブルが起きたのだろう。
「--ッ!?」
無駄な足掻きというよりは、反射的な動きで俺は腕を交差させる。既に目の前まで近づいている大型トラックを避けることの出来ない今の俺にはそれぐらいしかできなかった。
痛みは一瞬だった。
バキィッ! という聞いたことがないような音を立てながら俺の身体はあっさりと宙を舞い、鮮血が一面に飛散する。その光景は見るも無惨な光景だったと言えるだろう。
猛スピードの大型トラックに轢かれた俺は数メートルも吹き飛んだ。おそらく複数の骨は骨折、いたるところから大量の血が流れ出ているのだろう、全身に耐えがたい激痛が走る。
ああ、これが死ぬということなのか……。
先程までの激痛が徐々に薄れていく。それと同時に俺の意識は朧げとなっていく。
それにしても本当に今日は散々だなぁ……。
好きだった彼女には理由も分からずに振られて、雨でびしょ濡れになって、最後はこんな結末かよ……。
本当に今日という日は……。
「……最悪、だ、な」
それが俺の人生最期の言葉だった。
◆◆
目を開くと、見知らぬ空間にいた。まるで宇宙を思わせるほどのたくさんの星々が水平線の彼方まで広がっている。その光景は幻想的と表現した方がいいだろう。
「……ここは何処だ?」
周囲を見渡しながら俺は呟く。
冷静になって思い返してみよう。確か俺は彼女に振られて……そして意気消沈の中俺は大型トラックに轢かれた筈……そうだ、怪我はどうなっているだ?
ふと怪我のことを思い出して俺は自身の身体を見てみる。
「 何だよこれは!?」
思わず叫んでしまう。何故なら俺は手も足もなければ、顔すらもない光球のような存在なっていたからだ。けれど、周囲は確認できるし声も出せる。
もしかして、これが魂というものなのではないだろうか? それが本当だとしたら、ここは天国という場所になのか?
「違います。ここは次元の狭間です」
「--ッ!?」
いきなり聞こえてきた女性の声に思わず俺は驚き、声のした方へと振り向く。
そこには美しい女性が佇んでいた。いや浮かんでいるという方が正しいだろうか。
煌びやかな銀色の長髪に瞳、透き通るような白い肌は同じく白い衣によって包まれている。その姿はまさに絶世の美女と言えるだろう。
「……一体、貴女は誰なんですか?」
俺がそう尋ねると、女性は優しく微笑んで小さくお辞儀する。
「初めまして神代ルイ様。私の名はレイシア。貴方が住む世界--地球とは全く別の世界を治める女神です」
「…………………………はい?」
予想外の返答に俺は思わず俺は呆気にとられる。別の世界? 女神? いやいや、流石にそれは話しがぶっ飛び過ぎだろう。
「……冗談、ですよね?」
「いいえ、冗談ではありません。これは現実です」
けれど目の前の美女はふざけた様子を見せずにそう答える。どうやら本当のようだ。そうだとしたら今の状況にも一応の説明がつくな。
「それで、俺はどうして次元の狭間? とやらにいるんでしょうか?」
先程から疑問に思っていたことを女神様に尋ねる。
「はい。実はルイ様には頼みたいことがあってここへ呼び出しました。どうか私の世界を救って下さい」
「俺が女神様の世界を?」
話を聞くと、どうやら女神様が創造したとされるルファディアと呼ばれる異世界(剣や魔法が存在する世界)が滅びの危機に瀕しているようだ。
原因は邪神と呼ばれる悪しき存在の復活である。
邪神は遥か昔に女神様の世界を征服するべく別の世界から現れて女神様に戦いを挑むが敗北して封印されたが、悠久の時を経て邪神を復活させようとしている者が現れた。
女神は俺にその邪神復活を阻止して貰いたいとのことだ。
本来なら女神様がこの問題を対処したいようだが、神という存在は自ら創造した世界に直接干渉は出来ないらしく、手が出せない状況だった。そこで自身の代わりに邪神復活を阻止してくれる者--女神の代行者を遣わそうと考えたらしい。
しかし、ルファディアの住人は大なり小なり女神様の恩恵を必ず宿して生まれる為、代行者にはできないらしい。
ならばルファディアとは違う世界の人間を女神の代行者として遣わそうと考えた。
それで選ばれたのが俺というわけだ。どうやら俺の魂は女神様の恩恵を受け取るのに適しているらしく、最も女神の代行者として相応しいようだ。
「もし、邪神が復活すればルファディアだけでなくあらゆる世界が滅びを迎えることになります。どうか私の代わりに邪神復活を阻止して欲しいのです」
そう言って女神様は深く頭を下げて俺に懇願する。
「……大体の話は理解できました。それで一つだけよろしいでしょうか?」
「はい、何なりと」
「断れば俺はどうなるんですか?」
「別にどうにもなりません。再び地球の世界で別の存在として生まれ変わるだけです。そして私の願いに応えて下さる場合は貴方の生前の姿をベースにした特殊な肉体を構築してそちらに魂を移して蘇生させます。身体能力の底上げ、莫大な魔力、強力な加護のおまけ付きで」
前者の方、つまり輪廻転生といつやつか。それはもう俺ではなくて別の存在になるということだよな。
けれど女神様の物言いだと、俺が転生するのは何も人間だけとは限らない。もしかしたら動物や虫、魚かもしれない。
おそらく前世である神代ルイとしての記憶はないだろうが、それでも良い気分ではないな。
後者の方、住む世界は違うが俺--神代ルイという存在のまま第二の人生を続けられるということだ。
それは非常に魅力的な提案だな。それに地球に未練があるわけでもないしな。地球での人生はそれほど良いものではなかった。
ああ、思い出しただけでも悲しくなる。
よし、決めたぞ。
「分かりました。貴女の申し出を受けます」
俺がそう言うと、女神様は安堵の笑みを浮かべる。
「感謝しますルイ様。それでは転生の儀を始めます」
女神様が手を掲げる。すると光の粒子が放たれて俺を包んでいく。とても暖かく、とても安らぐ気持ちだ。
「準備が整いました」
光の粒子は徐々に強くなり、俺の視界が徐々に遮られていく。
「ご武運を祈っております、ルイ様。どうかルファディアをよろしくお願いします」
女神様のその言葉と同時に、そこで俺の意識は途切れた。
初めまして。初の投稿になります。少しでも楽しんでくれたら嬉しいです。




