加速する戦争
1904年9月20日、大和は旅順での任務を終え、佐世保海軍工廠に帰投した。
黄海海戦に続き、旅順での連勝という幸運に軍港は賑わい立っていた。
伊藤は数日前、佐世保の海軍工廠で、陸軍参謀総長の山縣有朋元帥が大和の管制室を訪れた事を思い出す。
彼は旅順攻囲戦に同席し、大和の46センチ主砲の威力に感嘆していた。
山縣は管制室の巨大な射撃管制装置や、未来の技術を反映した装備に目を輝かせる。
「伊藤殿、この戦艦の火力は、まさに我々への天佑…神の力だ。東鶴山や水師営の堡壘が一撃で崩れるとは、プロイセンやイギリスでも見たことがない威力だ。」
と褒め称えた。
しかし、山縣の目は鋭く、伊藤を射抜くように見つめた。
「だが、私は貴官の黄海海戦に関する発言が気になる。なぜ、聯合艦隊の勝利をあれほど確信していたのか?そして、何故ロシア艦隊の動きが分かった? あの戦いはまだ終わっていないはずだ。」
伊藤は一瞬言葉に詰まったが、平静を装って答えた。
「元帥、私はただ我が海軍の実力を信じていただけです。東郷提督は名将で戦術は盤石であり、勝利は確実だと確信していました。」
山縣は目を細め、疑念を隠さなかった。
「ほう…確信、か。」
山縣は納得しなかったが、さらに追及するのを控え、静かに管制室を去った。しかし、彼の目は伊藤を疑念の視線で射抜いていた。
その時、大和司令室の扉が叩かれる音がした
音の主は山縣
山縣は伊藤に近づき、静かに言った。
「伊藤殿、話がある。少し歩かないか?」
伊藤は警戒しつつも、元帥の言葉に従い、山縣とともに佐世保の港近くを歩いた。
山縣は穏やかな口調で話を続け、伊藤を人気のない倉庫裏に誘導した。
そこには、山縣の部下である陸軍の将校数名が待ち構えていた。伊藤が異変に気づいた瞬間、山縣の部下が素早く動き、伊藤の腕を押さえた。
「元帥、これはどういうことですか!?」
伊藤は驚きを隠せず、声を上げた。
山縣は冷ややかな目で答えた。
「伊藤殿、貴官は何か隠している。黄海海戦の結果を事前に知っていた理由…そしてあの船の秘密を、はっきり話してもらおう。普通に尋ねても、貴官ははぐらかすばかりだ。ならば、大本営でじっくり話を聞くしかない。」
伊藤は抵抗を試みたが、部下たちに囲まれ、馬車に乗せられた。馬車は佐世保から広島の大本営へ向かい、伊藤は事実上の拉致状態で連行された。
倉庫裏での短い対峙の後、馬車の中で山縣は改めて尋ねた。
「伊藤中将、貴官は未来を知っているのか? 戦艦大和の技術も、この時代のものではない。率直に話せ。」
伊藤は覚悟を決め、静かに答えた。
「元帥、貴官の疑念は正しい。私は1945年の帝国海軍の将校です。戦艦大和は、1945年の特攻作戦中に雷に打たれ遭難し、1904年に現れました。」
山縣は目を丸くしたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「時間を遡っただと? 荒唐無稽な… だが整合性はある。話が本当なら、貴官はこの戦争の行方を知っているはずだ。」
伊藤は頷く
「その通りです。私は日露戦争…そしてその後に起こる事を知っています。日本は勝利しますが、大きな犠牲を払います。私はその知識を帝国のために役立てたい。」
山縣はしばらく黙り、考え込んだ。
「…ならば、大本営でその知識を詳細に話してもらおう。貴官の話が本当なら、帝国の未来を左右する力になる。」
臨時首都広島 大本営
会議室には、陸軍大臣寺内正毅、海軍大臣山本権兵衛、元老伊藤博文、聯合艦隊司令長官東郷平八郎大将、そして山縣有朋が座っていた。
重厚な木製のテーブルを囲む高官たちの視線は、伊藤に注がれ、部屋は緊張感に満ちている。
寺内が口を開いた。
「伊藤中将、貴官の黄海海戦に関する発言は、聯合艦隊の士官たちを驚かせた。山縣元帥によれば、貴官は未来を知っていると主張している。事実か?」
伊藤は深呼吸し、落ち着いて答えた。
「はい、長官。私は1945年の帝国海軍の将校です。戦艦大和は、1945年の特攻作戦中に不可解な現象により、1904年にタイムスリップしました。」
山本権兵衛が鋭い目で尋ねた。
「タイムスリップ? 荒唐無稽な話だ 証拠はあるのか?」
伊藤は静かに答えた。
「証拠は大和そのものです。この艦の46センチ主砲や射撃管制装置は、1904年の技術を遥かに超えています。それが私の話の証明、信じてもらう以外に方法はありません。」
伊藤博文が興味深げに尋ねた。
「1945年とはどのような時代だ? 特攻作戦とは何か?」
伊藤は一瞬目を閉じ、過去の記憶をたどりながら答えた。
「1945年、日本は第二次世界大戦でアメリカと戦争していました。戦争は長期化し、資源は枯渇、帝国は敗北寸前でした。特攻作戦は、敵艦隊を攻撃するため、飛行機や艦船で自ら突撃し、犠牲になる戦法です。大和もその任務に就き、沖縄へ向かう途中で雷に打たれ、この時代に来ました。」
東郷大将が眉をひそめる
「日本が敗北する? 帝国海軍の誇りを傷つける話だな。貴官の話は信じがたい。」
寺内が口を挟んだ。「未来の戦争について、もっと詳しく話せ。どのような戦いがあった?」
伊藤は深く頷き、説明を続けた。
「1914年、欧州で第一次世界大戦が始まります。ドイツ、オーストリア、対するイギリス、フランス、ロシアが戦い、日本は連合国側で参戦。ドイツの極東植民地を占領しますが、戦後の国際秩序は不安定になります。1939年には第二次世界大戦が始まり、日本は中国や東南アジアで戦線を拡大。1941年にアメリカと開戦しますが、資源不足と連合国の圧倒的な物量に敗れ、1945年に降伏します。」
山縣が静かに尋ねた。
「その敗北は避けられなかったのか?」
「ええ… 残念ながら」
伊藤はこの4年間の記憶を辿り、苦しそうに話す
「ゴホン…ま、あくまで未来…それも仮定の話だ。 今そのような事を話しても意味が無いだろう?」
伊藤博文は会議室の重い空気を切り替える様に咳払いをして明るい口調で話を切り替えた。
寺内は頷き質問する。
「それでは本題、この戦争はどうなる?」
伊藤は深く頷き、説明を続けた。
「私は海軍の出なので陸については詳しくはないですが… 次に起こるであろう戦いは''沙河会戦''
沙河付近で戦果を急いだクロパトキン大将が本渓湖に向け攻撃、しかし日本軍が反撃するも砲弾不足により戦線は膠着。 次に戦いが起こるのは''黒溝台''
日本軍は奉天占領のため、西方にある黒溝台より攻勢を開始、大きな戦いを奉天を占領します。
その後バルチック艦隊を聯合艦隊が破る事でこの戦争ら終わりました」
伊藤は淡々と知っている事実を話していくと、寺内が話へ割り込んできた
「確かに非常に正確、だがしかし、一つ聞きたいことがある。 沙河側近くへいる第二軍には大山巌殿下が満州軍経由で伝えてきた分の砲弾を第三軍の余剰分から輸送した筈だ。 砲弾不足に陥る事はないだろう」
「いや…これは確かに正しい筈なのですが」
山縣は少し考え込み聞く
「そもそも、旅順要塞は本来ならあの時期に落ちていたのか?」
「なる程…そういう事か…!」
本来なら1905年年明けまで続くはずの旅順攻囲戦は、大和の砲撃により数カ月攻略が早まった、その影響が早くも他の戦線へ影響し始めていたのである。
大和の漂流により、日露戦争の歯車は加速し始めていた。




