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浮き砲台「大和」?

1904年当時の呉鎮守府の長官は柴山矢八長官でした

訂正致しましたが大変申し訳ございません

呉鎮守府の会議室は、重厚な木製のテーブルを中心に、海軍士官たちが集まる

部屋は煤けた提灯の明かりで薄暗く、壁には帝国海軍の軍旗と日本国中の海図が飾られている。

窓の外では、戦艦大和がドックに横たわり、月明かりにその巨大なシルエットが浮かんでいた。 

1904年の日露戦争の海軍の最前線とも言える呉、この異様な艦の出現は海軍全体を揺さぶっていた。


会議の議長は、呉鎮守府司令長官の柴山矢八中将

彼の隣には、伊藤整一中将と戦艦大和の艦長、有賀幸作大佐以下重要士官が座る。

さらに、呉海軍本部長の山内万寿治、呉鎮守府の運用主任である加藤友三郎中佐、そして大和を解析した造船技師ら呉の技術者、陸軍からの代表として、留守第五師団の参謀長、野島忠孝が同席している。


柴山長官が口を開いた。

「諸君、戦艦大和の出現は我が海軍にとって未曾有の事態だ。技師の報告によれば、この艦の技術は我々の時代を遥かに超えている。問題は、この艦をどう運用するかだ。意見を聞きたい。」


山内万寿治中佐がまず手を挙げた。

「長官、この戦艦が何であれこれの存在は、ロシアのバルチック艦隊が日本近海に到着する前に、我が海軍の戦力を飛躍的に向上させる好機です。

現在聯合艦隊は戦艦「初瀬」と「八島」の撃沈により戦力が大幅に制限されている、

この艦を聯合艦隊に編入し、対馬海峡でバルチック艦隊を迎え撃つべきです。あの巨体と主砲なら、一撃で敵艦隊を壊滅させられるでしょう。」


加藤友三郎中佐が慎重に反論した。

「山内君の意見は理解できるが、この艦の存在を公にすれば、ロシアはおろか、英国や米国も我が国の動向に目を光らせる。スパイの疑いを完全に払拭できていない現状では、戦艦大和を隠匿し、極秘裏に運用する案も検討すべきだ。少なくとも、敵にその存在を知られる前に、戦略を固める必要がある。」


柴山は頷きながら、伊藤中将に視線を向けた。「伊藤中将、貴官はどう考える?」


伊藤は一瞬考え込み、ゆっくり答えた。

「戦艦大和を隠すにせよ、戦闘に投入するにせよ、まず直面する問題がある。艦長、説明を。」


有賀幸作大佐が手を上げ、静かな声で切り出した。

「諸君、我々の戦艦大和は、確かに強力な戦力だ。しかし、最大の問題は燃料だ。

この艦は重油を動力源とする蒸気タービンで動く。が、現在の我々の在庫は、1945年の基準でも数日分の航海にしか耐えられない。それに…この時代に我々の重油と同等の品質の燃料は存在しない。」


会議室にざわめきが広がった。加藤中佐が驚いたように尋ねた。

「燃料がない? しかし、ここは呉だ。海軍の補給拠点だぞ。石炭ならいくらでも用意できるのではないか?」


有賀は首を振った。

「加藤中佐、貴官の言う燃料は石炭だろう…しかし戦艦大和のタービンは重油、それも特定の精製度と粘度を要求する。現在の呉の施設では、そのような重油を生産する技術も設備もない。」


平賀譲が静かに手を挙げ、発言を求めた。

「有賀艦長の言う通りだ。私は大和の機関室を検証したが、蒸気タービンの構造は我々の想像を絶する。燃料の精製度が低ければ、タービンはすぐに故障する。現時点で呉海軍工廠にそのような燃料を供給する能力はない。ロシアはおろか、英国にもないだろう。」


会議室に重い沈黙が流れた。山内万寿治が苛立たしげに言った。

「それでは、この巨大な戦艦はただの鉄の塊に過ぎないのか? なんのためにこの時代に現れたのだ?」

野島が皮肉っぽく口を挟んだ。

「陸軍としては、こんな得体の知れない艦を信用する気はないが、もし動かせないなら、解体して鉄でも売ったらどうだ?」


その言葉に、伊藤中将の目が鋭く光る。「野島参謀長、貴官の軽口は聞き流すが、戦艦大和は帝国海軍の誇りだ。鉄の塊呼ばわりは許さん。」


柴山長官が手を挙げ、場を静めた。

「諸君、議論が逸れている。動かせないなら、動かせないなりに運用法を考えねばならん。誰か何か案はないか?」

部屋の中は静まり返る。

初めにその静寂を止めたのは平賀譲技師だった

「戦艦大和を動かすのは難しいが、完全に動かせないわけではないでしょう。曳航すれば、移動は可能だ。提案したいのは、戦艦大和を浮き砲台として運用する案だ。港や要塞の防衛、あるいは特定の海域で固定砲台として使用すればあの主砲の威力は桁外れと思われます。」


会議室に失笑が漏れた。加藤中佐が苦笑しながら言った。

「浮き砲台? 平賀技師、そりゃあまりにも無防備だ。敵艦に接近されたら、ただの標的になるぞ。」


山内も同調した。「確かに。戦艦とはいえ、動けなければ敵の巡洋艦や水雷艇に魚雷で簡単に沈められる。そんな危険な案は採用できん。」


しかし、有賀艦長が意外な反応を示す。

「いや…案外、悪くないかもしれない。」

彼は立ち上がり、砲術長の黒田吉郎中佐を呼び寄せた。「黒田、諸君に大和の主砲について説明しろ。」


黒田吉郎中佐は、落ち着いた態度で前に進み出た。背筋を伸ばし、自信に満ちた声で話し始めた。

「戦艦大和の主砲は、45口径46センチ3連装砲、計9門である。その最大射程は42,026メートル。命中精度は、20キロメートル以内で敵艦を確実に撃破可能だ。砲弾の重量は1.5トン近く、装甲貫通力は現存するどの艦の装甲をも貫く。これだけの射程と威力を持つ砲は、この時代に存在しない。」


会議室が静まり返った。山内中佐が目を丸くし、呟いた。「42キロメートル…? そんな射程が本当にあるのか?」


黒田は頷いた。「本当だ。しかも、大和の射撃管制装置は、高度な光学照準器と連動している。この時代では考えられない精度で、遠距離からでも敵艦を仕留められる。」


柴山長官は感嘆の息を漏らした。「…驚くべき性能だ。もしこれが本当なら、浮き砲台としても、敵艦隊を近づける前に壊滅させられる可能性がある。」


その時、野島大尉が突然立ち上がった。

「ならば、陸軍から提案がある! 戦艦大和が動けないとしても、その主砲の射程を生かせば、旅順攻囲戦で我が陸軍を支援できるのではないか? 旅順のロシア軍要塞は堅固で、現在の我々の砲では二十サンチ砲以外歯が立たん。あの46センチ砲なら、要塞を粉砕できるはずだ!」


会議室に新たなざわめきが広がった。山内中佐が渋い顔で言った。「陸軍の支援か…。確かに旅順の攻略は急務だが、海軍の戦艦を陸軍の砲台代わりにするのは、いささか屈辱的だな。」


柴山長官は静かに手を挙げ、議論をまとめる。

「諸君、戦艦大和の運用は、帝国の勝利に直結する可能性がある。浮き砲台としての運用、そして旅順攻囲戦への支援…これらは検討に値する案だ。燃料の問題は、平賀技師と呉の技術者たちに引き続き調査を依頼する。伊藤中将、有賀艦長、貴官らの意見も聞きながら、早急に具体案を固める。」


伊藤は静かに頷いた。


会議は深夜まで続き、戦艦大和の運命は新たな局面を迎えていた。呉のドックでは、技術者たちが大和の構造を解析し続け、乗組員たちは未知の時代での使命に備えていた。1904年の日本海軍に、未来の戦艦がもたらす影響は、まだ計り知れない

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