水沝淼㵘【スイズイビョウバン】
単身者用のアパート。6畳1間で母とあたしの2人だけで暮らしていた。母は世間でよく語られるような、娘の進学のために身を粉にして働くというタイプではなく、働きには出ずに生活保護受給。ずっと家で横になりTVやスマホを眺めており、あたしには最低限といえる衣食住の支出しかしてくれないような母だった。
学校や勉強の話題もしてこずに、視線は常にTVやスマホの小さな画面にあった。
物心がついた頃からあたしには父がおらず、小学生の頃、母の機嫌が良さそうな時を見計らって父の事を尋ねてみたが完全に無視される。しかもその存在の無視はその瞬間から数日に渡って続く。その期間は夕食も母の分だけしか用意されない。これは聞いちゃいけないんだ、聞いても何も返ってこないんだと学び以降は話題にしないようにしていた。
学生時代は同級生にこのような極貧生活をしている事を悟らせないように必死だった。小学生の時から拾った服飾雑誌から流行を学び、ほつれや破れている部分をワッペンで隠す。物を長く使えるように大切に扱う中で慎重な性格を獲得した。裕福そうな友人を作り褒めて褒めてお金や服をそれとなく拠出させる。友人があたしの家に来たいだなんて言い出した日にはあの手この手で妨害して来させないようにしていた。幸い母は学校の行事ごとには無頓着で学校には全く来なかったので、あたしの母が知り合いに見られる事は無かった。
中学3年の頃。皆が高校進学を考え勉強・スポーツにと努力する中で、あたしは一人暮らしをするというのが至上であった。母が働きに出てくれていたらあたしは部屋でしたいことができるのに、母はずっと家にいるのだ。勉強や課題の最中であっても母はあたしにやれ買い物に行けだ、部屋を片付けろだ、夕食を作れだ、命令してくる。口答えしても「関係ない」「食費を出している分働け」だそうだ。ずっとそれが腑に落ちずイライラさせられていたのだが進路を考える際。母はあたしに関心が無いからか「早く出ていってくれると部屋が広くなって良い」「お金は出さないけどね」とあたしの一人暮らしの夢を後押ししてくれた形となったのは意外性は無いのだが意外と言えた。
中学を卒業とともにあたしは家を出た。ガラス・プラスチック加工の会社をやっている友人の伝手を頼って事務の手伝い。夏休みや冬休みといった長期休みを活用して既にバイトに入らせてもらい戦力になる事を示せているので、そのままコネ入社の形で2か月の研修期間の後に社員として雇ってもらえた。学生時代の長期休みの際のバイト代は母に全額を巻き上げられていたが、家を出てからはそのような事は無い。社員寮が完備の会社ではあったが、男性向けに建てられていた寮であり、セキュリティーが甘かった。そこで少し会社からは遠くなるが、あたしがアパートでの一人暮らしを希望したことで、会社から2km程離れたアパートを借りて生活を開始した。ロフト付きの洋室8畳なので長年を母と共に暮らしてきた部屋よりも広かった。あたし個人の部屋をあたしの趣味のモノで埋められるのだという開放感やら充実感で新生活はとても瑞々しいものに感じられた。
あたしには人には無い特殊な力があるのよ。気付いたのは小学2年の時ね。あたしの趣味は生き物を殺すことなんだけど、色々な殺し方をしている中で、特に水死というものに魅かれていたの。
というのもね、小学校の頃は物を買うお金なんて無かったから、捨てられていた雑誌を拾って読んでいたの。確か少年JUM〇だったわ。その漫画の1シーンで坊主の少年が頭を掴まれて、湖だか海だかに顔を突っ込まれて。ゴボゴボゴボッ!・・・ そして動かなくなった少年のシーンがあったの。衝撃だったわ。
何年も生きて、色々な事を考えて、ただ生きるために他の何千、何万の生命を殺して食べて、、、なのに、こんなあっさり人って死んじゃうんだぁ。って笑っちゃってね。
同時にゾクゾクと興奮したのよね。それ以来、あたし自身もお風呂場で週1回程の頻度でゴボゴボと死の一歩手前まで水中で藻掻いてみて死というものに向き合ってみたのよ。自傷行為という自覚は無かったけどね。
一人暮らしを始めてからはそんなもったいない事はやっていないけど。
あ!そうそう、あたしが持ってる特殊能力の話!
で、、、他の生き物が水死する様子を見たくなったの。どこかで手に入れた汚れた金魚鉢があったから手短に昆虫とかを片っ端から水に沈めてみたわ。でもね、呼吸の体系が違うのか水の中でもバタバタはするんだけど死なないのよね。それで次は犬を川まで連れて行って、首を持って、えいって顔を沈めてみたの。すると案の定暴れてガボガボと苦しんだわ。あ、友人が飼ってた小さい犬をこっそり持ってきたんだけどね。
ガボガボ…
ガボガボ…
ガボガボ…
なかなか死なないから飽きてきたわ。
あたしの興奮は高まって来てるんだけど、やっぱりぐったりして動かなくなる所まで行かないと満足できないし…。
ガボガボ…
ガボガボ…
ガボガボ…
ガボガボ…
ガボガボ…
いやいや・・・。もう20分以上やってるような気がするんだけど。あたしなんてお風呂で1分も経たずにやばくなるのに、、犬ってそうなの??
ガボガボ…
ガボガボ…
ガボガボ…
ワンちゃんも苦しんでるし、それなりに暴れはしてるけど疲れてるんだろうなー。あたしの両腕もすでにパンパンに疲れている。
もういっか。
あたしはその犬を水上に持ち上げる。もう一暴れするかと思ってたらぐったりしてる。
呼吸が出来ず苦しんでいたというよりも体温が下がって動けなくなっただけみたい?
ちゃんと急所をナイフでトドメを刺しておいたわ。
こっちは10秒くらいですぐ動かなくなったわ。
……うーん、、、でも違うのよね。
そういう動かなくなるってのはもう興味ないのよ。
この一件からなお水死というものに関して興味と疑問が湧いたわ。
一番気になる相手にだけ振り向いてもらえない感じ?
それからというもの小学校高学年~中学と野良猫や友人が飼ってるハムスターとか色々な生き物をまず川に沈めてみたけどやっぱりガボガボするだけで水死してくれない…
上に全力で投げて地面に落としてみたり、固定して火にかけてみたり、毒を盛ってみたりと色々な方法で結果としては殺すんだけど、水死させられないとやっぱり消化不良なのよね。
でも貧乏なあたしには素敵な趣味よね。サッカーだってボールが1つあれば大勢で遊べる貧者のスポーツって言われているけど、あたしなんて川とそこら辺にいくらでもある命だけだよ。ボールも手に入らない家庭ならお勧めね。
そうだわ。あたしが手にかけても水死させられないという特殊な能力は
きっと長く長く味わい尽くして欲しいという神様からのプレゼントなんだわ。
さぁ。
これであたしが一人暮らしをしたがった理由は分かったかしら?
うふふ。
今、あたしの部屋は9割が水に覆われているの。水浸しって訳じゃないわよ。50cm×50cm×210cmっていう棺桶より小さい強化ガラス式の水槽を沢山作ってもらって、そこに人間を何十人も飼ってるの。あたし自身のスマホを持てるようになってからは簡単に人を集められるようになったわ。特にあたしが15歳の女子っていうのは凄く大きな釣り餌になるみたい。
朝、目が覚めて耳栓を外すと四方八方から
ゴボゴボッゴボゴボボゴボゴッボゴボゴボゴボ
って聞こえるの。みんなおはよう!
毎日目が合うようになったねお母さん!
じゃ今日も元気に仕事行ってくるね!
ママ!〇〇ちゃん!〇〇さん!〇〇君!〇〇君!〇〇さん!〇〇ちゃん!えーと…〇〇さん!〇〇君!〇〇さん!〇〇さん!〇〇さん!〇〇さん!えっと誰だっけ君!〇〇さん!〇〇さん!〇〇君!〇〇さん!〇〇さん!〇〇氏!〇〇さん!〇〇君!〇〇君!〇〇さん!〇〇君!あとみんな、いってきま~す!
ゴボボゴボッゴボゴボゴボゴボゴッボゴボゴ…
㴇(ショウ) 横並びの水水水 この漢字も面白いですよね。こちらの漢字はクビの無い3人が川の字になっているように見えます