王都へ。俺、やっぱり村人だと思うんだが
「……というわけで、王都に来ていただきたく」
あれから一時間後、姫様――クラリスさんは護衛騎士たちに保護され、
ついでに俺はなぜか姫を助けた英雄として丁重に扱われていた。
「いや、俺ほんとにただの村人なんだけど……」
「魔獣を一撃で討伐しておいて“ただの村人”などと……!」
護衛騎士の一人が言う。
その目は、何か“神の使い”でも見ているようだった。
なんか、やばい宗教が始まりそうで怖い。
「ねえ姫様、俺、本当に行く必要ある? 畑が……」
「あるのです。あなたは王国にとって重要な人物。
魔獣を倒したその力、そして――」
クラリスがこちらをじっと見て、少しだけ目を伏せた。
「……わたくしの命を救ってくださった、恩人ですもの」
……その言い方、なんかズルくない?
* * *
そして翌日。
馬車での強制送還――もとい、丁重な護送の末、俺は王都に着いた。
初めて見る王都は、とにかくデカかった。
人も多く、建物も高い。畑が、ない。
完全に俺のホームではない。
「改めまして、王都へようこそ。アイン様」
宮殿の正門で出迎えたのは、銀髪の執事のような男性だった。
無駄のない所作、剣気すら感じる威圧感。絶対強いタイプだ。
「お初にお目にかかります。王家直属騎士団副長、ヴァルトと申します」
「……あ、どうも村人です」
「いいえ、“救世の剣士”アイン様と、我らはお呼びしております」
「その呼び名、誰が……?」
「王国全土に、すでに広まっております」
広まるの早すぎでは?
しかも、そのまま王宮へと連れて行かれ――
「おお、貴公がアイン殿か!」
王様に謁見することになった。
豪奢な玉座、老いてなお威厳を失わぬ眼光、
そして、その隣には正装したクラリス姫。
「娘の命を救ってくれたばかりか、魔獣を一撃で屠ったその実力。
まさしく、王国の希望よ!」
王様は満面の笑みで言った。
「よってアイン殿、貴公にはこの王国直属の“騎士教導官”としての任を命ずる」
「えっ」
「王立騎士学校にて、貴公の剣を、若き騎士たちに伝えてほしい」
「いやちょっと待って、俺ほんとに村で畑耕してただけで……」
「実るは命、育つは力。その剣こそ、真の実学であろう!」
ノリと勢いで国家方針を決めないでいただきたい。
こうして俺は、王国で最も権威ある騎士学校の教官に就任することになった。
明日から、生徒に剣を教えるらしい。
でも、俺が誰かに剣を教えたことなんて――
……一度もないんだが。