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本当は、第三王子。レオンハルト=アリヴェール

 その青年の名を知る者は少ない。だが、冒険者ギルドで、その顔を知らぬものはいない。どうしても、隠しきれない。誰もが、彼のことを、只者ではないと気づく。


 銀灰色の髪に、深く澄んだ翡翠の瞳。整った顔立ちと隙のない所作。彼、レオンハルト=アリヴェールは、エリート冒険者パーティー「暁の帆(あけぼののほ)」リーダーの、若干二十歳の剣士だ。


 彼の冒険者ランクは、S級に迫る勢いだと言われている。群を抜く剣技、冷静な判断力、仲間への気遣い。まさに模範のような冒険者である。


 加えて・・・彼は、王国の第三王子だ。本名は、レオンハルト=ルクレール=セントリアである。


 だが、その素性は誰にも明かされていない。王家の責務と格式から離れ、この国の誇り高き王や兄たちの勧めもあって、ただ一人の平民として、自らの意志で、この地に身を置いている。


「王子として守られるだけの人生では、本当の力も得られない。国民の気持ちもわからない」


 そう語り、名を隠して平民の冒険者となった。王や兄たちも、この決断を、王族として誇りに思うといってくれた。十分な修行をして、いずれ王となる兄を支える、有能な弟になりたい。


 彼についた二つ名は「蒼閃(そうせん)」。剣を抜けば、一閃、空気すら裂くような鋭さを持っている。その身のこなしは風よりも静かに、確実に敵を討つ。


 仲間を守るときの構えには、王家の血筋らしい気高さが滲み出てしまう。とにかく、敵の攻撃が通ることを怖がらないのだ。戦場における彼の存在は、まさに「蒼き閃光」そのものだった。


 彼のユニークスキルは「雷翔ノ剣(らいしょうのけん)」。剣を振るうと同時に、雷の魔力が走り、斬撃と同時に、麻痺効果を発生させる。さらに、空間に蓄積された雷力を、自分の駆動力とし、瞬間的に、雷の速度で、高速移動できる。ティセとは違い、発動時間も長い。



 以下、やや先走った余談になる。


 レオンハルトによる「雷翔ノ剣(らいしょうのけん)」は、ティセの『瞬きの氷(ブリンケン・アイス)』との相性がよい。氷の表面に薄くはった水の膜を、強烈な電撃が走ると考えれば、それがイメージできるだろう。水の膜が薄いからこそ、伝わる電撃の威力が失われにくい。


 この二人の剣技を組み合わせれば、敵を麻痺させ、同時に凍らせる「時の止まる共鳴(デザイ・レゾナンス)」を発動させる。ユニーク・スキルの掛け算だと考えてよい。


 麻痺と氷結によって敵の動きが封じられ、そこに電撃と氷撃という伝わるスピードがもっとも早い技が通る。デバフとバフが、瞬時に起こる。それが「時の止まる共鳴(デザイ・レゾナンス)」である。



 どんな依頼もそつなくこなし、人当たりも穏やかで、誰にも礼を欠かさない。まさに「完璧な冒険者」と称される男だが、その目は時折、遠い場所を見つめるように沈んでいる。


 王子として、守るべき国も家族もある。だが、ひとりの人間として、何を成すべきか。それが彼にはまだみえていなかった。


 生まれながらに与えられた立場、剣の才、周囲の期待。それらに応えるだけの日々に、確かな意味を見出せずにいた。


 誰かのために戦っているはずなのに。それが誰なのか、具体的な顔を持たないものになっていく感覚がいつもあった。守ることと、誇ることと、生きることがすれ違うたびに、心の奥に小さな空白が広がっていった。


 だからこそ、彼はこの地に降りた。名を伏せ、階段を降りてきたのは、自分自身が何者であるかを問い直すためだ。そんな彼が、ふとした偶然から、返り血を拭いながら市場を歩く少女、ティセに出会う。


 そのとき、ラインハルトの心に生まれたもの。それが何だったのか、彼自身にもまだわかっていない。

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