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8.かわいい王子様

 ルイーズ、リュンクス姉弟は、ずっと会場で目立ち、あちこちで話題になっていた。


 田舎育ちで貴族社会には不慣れで、夜会も初めてのはずだというのに、彼らの所作に鄙びた所がない。テーブルマナーを含めた礼儀作法も完璧だ。


 五大家のロワ伯爵家を率いる身であり、決して軽んじていい姉弟ではない。しかも、国王や王太子とは直に挨拶を交わせる立場だ。王族と話した際も姉弟は決して媚びず、怯まず、万事落ち着いていた様子であったことも、遠巻きに見ていた周囲の者たちの評価を高めていた。


 間違いなく将来有望な姉弟の一挙手一投足が注目されているなか――二人は人々の度肝を抜いた。


 実父や兄から冷遇されていると専らの噂であった少年、アルエ第二王子のもとに、いち早く挨拶に出向いたのだ。古参の貴族たちでさえも怯み、二の足を踏むなか、姉弟の足は止まらない。


 どうしても人々の目を引いたのは、男装の麗人ルイーズだ。


 アルエもよもや自分に意気揚々と近づいてこられるとは思わなかったようで、戸惑った顔をしながら、姉弟に声をかけた。


「あ……えぇと……君たちは?」

「お初にお目にかかります、アルエ殿下! ロワ伯爵家のルイーズと申します。これは弟のリュンクス。弟はまだ成人前で私が代理を務めておりますが、いずれは伯爵家を継ぐ者となります。以後、お見知りおきください」


「うん、聞いているよ……お父上は気の毒なことだったね」

「お心遣い、ありがとうございます。志半ばであったかもしれませんが、最後まで国のために尽くしていたそうですから、父も満足な人生を送ったでしょう」


「でも、田舎でのんびりと暮らしていた君たちは、突然招かれて戸惑うことも多かっただろう」


 アルエはあまり表情を変えなかったが、自分たちの境遇を気づかう言葉をかけてくれるのがルイーズには嬉しくて、顔をほころばせた。貴族たちは、自分たちの出自を暗に小ばかにしてくることもあった。


 レオンハルト王太子はそうではなかったから珍しい部類だが、やはりアルエは別格だ。


 なぜだろう、とルイーズは考える。


 やっぱり、可愛いからだろうか。

 小さくて、愛らしいからだろうか!


 ルイーズは顔がにやけそうになるのを懸命にこらえながら、

「弟ともども必死で拒絶しましたが、根負けしてしまったので致しかたありません」

 と言うと、アルエは軽く目を見張った。


「そんなに嫌だったの? ロワ伯爵家ともなれば、我が国の名門なのに」

「迷惑でしたね。私どもは父親が何者か知りませんでしたから、なおさらです」


 きっぱりと言い切ったルイーズに、リュンクスも苦笑して頷き、

「それなりに裕福そうな貴族のお坊ちゃま、程度の認識でしたね」

と追従する。


 さすがに呆気に取られた顔をしたアルエは、二人をまじまじと見る。

「……本気のようだね。うん……興味深い」


 アルエはどこか考え込むようにして呟く。ルイーズは不思議に思って尋ねた。


「そんなに珍しいでしょうか?」

「そうだね。特に貴女は少し変わっているかな」


 衝撃である。


 ルイーズはみるみるうちに顔を強張らせ、半泣きになりながら、弟をきっと睨みつけた。


「リュン! 貴方、いつもより三倍マシだって言ったじゃない!」

「はい、申し上げましたよ。ですが、男装だけはどうにもなりません」


 ぐっと詰まったルイーズは、必死でアルエに言い訳をした。


「お待ちください。私は確かに変わった服装をしておりますが、女です!」

「うん。見れば分かるよ」


 短髪が目をひきやすいが、細くしなやかな身体でありながらも女として求められる場所は見事に膨らみを持っている。手足は長く、リュンクスと同じくらいの高身長だ。周囲を圧倒するような存在感のある美女である。


 だが、ルイーズ本人は、あまり自覚がない。


「服装のことはご容赦頂ければ、私がただの変人ではないと、分かって頂けるのではないかと期待しているのですが!」


「いや、別にそういう意味で言ったんじゃないんだけど……そこまで気にするなら、貴女もドレスを着たらどうかな? せっかく夜会に来たというのに男装しているなんて、もったいないよ。ダンスを踊らないつもり?」


 ルイーズは真っ赤になって、目を輝かせた。


「も、もし、私が恥を忍んでドレスを着たら、踊ってくださいますか⁉」

「え。僕と……? いや、やめた方がいいよ――」


 目を丸くして即答されたルイーズが目に見えて落ち込んだので、アルエはまた戸惑った。自分と踊りたいと願う時点でおかしいのだが、彼女は気にしていないようだ。


 そもそも踊ること自体が難しい。なぜなら……。


「――僕と貴女では、背の丈が違いすぎるもの」


 アルエは少年で華奢だ。対するルイーズは自他ともに認める大女である。まるで釣り合わない。


 するとルイーズは本気で泣きそうな顔をして、弟に真剣に嘆いた。


「リュン、私は自分が大女であることが憎い!」

「図体ばかり大きかった父上のせいですよ」

「まったくだわ!」


 真顔で頷く伯爵令嬢に、アルエは呆気に取られた。

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