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17.睨み合い

 可愛い女の子達が、レオンハルトの美貌に見とれている。


 実に羨ましい。

 当て擦りもいい加減にしてほしいものだ。


 自分が声をかけても、彼女たちはああはなるまい。

 別に女性に対しての恋愛感情などはないのだが、自分には見せない表情を容易く引き出してしまうのは、男性の特権というものだ。


 何だか悔しくて、ルイーズは半泣きになる。


「な、何でしょうか」

「可愛い顔をしているぞ」

「……っわ、分かっております!」


 見れば分かる。あのうっとりと頬を染めている女の子たちの、何と可愛らしい事か。


 分かった。

 自慢がしたいのだ、この王太子は!

 性格が悪い。


 すると、ふっとレオンハルトの目が冷めたものに変わった。

 まるでつまらない物を見るような、そんな目だ。


 どうやらまた不興を買ったらしい。そう言えばこの王太子も心が読めるのだった。


 でも、思ってしまったものは仕方がないし、口外していないからお咎めなしだろうと考えたが。


「俺が気になるなら、思わせぶりな態度を取るな」


 おかしなことを聞いた。これは断固として抗議すべき事案である。


「……恐れながら、私の言動の一体どこでそのように思われたのですか?」

「いちいち言わせるな。それに、お前に限った事じゃない。普通だ」


 面倒くさそうに言われ、ルイーズはさらに困惑した。


 大変、心外である。だが、面と向かって罵る相手ではない。


「それは失礼しました」


 自分が微笑めば、どんな女性でも虜になるのが普通だと言いたいのであれば、何とも傲慢な事である。

 その上、自信過剰とくれば大問題だ。


 今からでも遅くは無いから、そんな態度は改めた方がいい―――と心の中で告げる。


 すると伝言が伝わったのか、レオンハルトは笑みを浮かべた。


 それはもう冷ややかなものだったが、ルイーズは全く気にならない。


 むしろ、満面の笑みを浮かべて返してやった。


「分かればいい」

「はい!」


 その言葉、そっくりお返し――――いや、待て。まだ絡まれるのは面倒くさい。


 ルイーズはそう思い直して一礼してやると、レオンハルトはすっかり興味をなくしたのか、部下達を連れて去っていった。


 そして王太子の姿が見えなくなると、彼に見惚れていた令嬢たちも残念そうにしながら去っていく。それを見て、ルイーズは盛大なため息をついた。


「本当……信じられない。どこがいいの。ねぇ、リュン」


 ずっと黙って傍らで立っていた弟にルイーズが話を振ると、彼は苦笑している。


「レオンハルト殿下と長々と見つめ合っていたかと思ったら、そんな事を考えていたのですか」

「変な言いかたしないで。あれは睨み合いというやつよ。視線を逸らしたら負けというか」


 きっぱりと言い切ったルイーズに、リュンクスは感心したように頷いた。


「さすが姉上です。我が国でレオンハルト殿下に落ちない女はいないと聞き及んだ事がありましたが、姉上は揺るぎなかったですね」

「なに、その噂」


 確かに外見はいい。体格にも恵まれている。そこは否定しようがない。


 だが、万人に愛されるような人間などいるはずがない。


「まぁ、殿下もあの美貌ですからね。恋仲になった女性は数えきれないという噂もありますし」

「ははぁ……」


 要するに、女たらしか。性格が悪い上に遊び人とは、何たることだろうか。


「なに。姉上は今のように、にっこりと微笑まれていればいいのです」

「そうだね。余計な事は言わないに限る」


 ルイーズは頷いて、王宮を後にした。

 数日後、自らその誓いを破る事になるなど、この時は思ってもみなかった。

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