いつまでもいっしょに
東太島の国の城は、想像していたより大きかった。
門番はマーブの顔を知っていたようで、すぐに通してくれた。ただしマーブが騎士服を着ているせいで、門番は何度も首をかしげていた。
城の中には騎士が大勢いて、マーブは
「バランスが悪いんだよな……」
とつぶやいていた。確かに、城の中ばかり守っていて、街中の治安が悪くてはどうしようもない。そういえば、盗賊が落としていった金貨は、どうなったんだろう。
私たちは国王様へ謁見するための手続きをし、変装をしていることを説明した。「謁見の前に着替えたい」と申し出ると「そのままのほうがいい」との伝言があった。どうやら国王様は風変わりな人のようだ。
謁見の間は、広い、でも飾り気のあまりない部屋だった。国王様と思わしき人が大きな椅子に座り、ゆったりした服を着て、おおらかそうな笑顔をうかべていた。
「国王様、お久しぶりでございます」
「マーヴィン王子、久しぶりじゃな。すっかり大人になられたな。そういう服装も、たいへん似合っておられる」
「ありがとうございます。今回は国王様に、お渡ししたい物があります。私の父からの手紙でございます」
マーブは両手で国王様に手紙を差し出した。
「おお、これは、これは。ありがたく、ちょうだいいたすぞ。ところでマーヴィン王子」
「はい」
「そなたは、やがてネノニーア王国の国王となり、民を治めることになるであろう。だが、それは先のこと。今は我が国の客人として、ゆっくり、くつろがれるが良い」
「僕は休んでなんか、いられません。こんな時に」
「マーヴィン王子が勇敢な方であるのは、知っておる。でも今は生きてくれれば、いいのだ……」
「父と同じことを言うんですね……」
国王様は満足そうに、うなづいた。マーブは国王様に真剣な口調で言った。
「僕は、ここにいる間、この国のことや外交の仕方などを学びたいです」
「本当に、すっかり大人になられましたな。美しいパートナーまで連れて」
(パートナー? 私のこと? 護衛騎士のことをパートナーと言ってるのよね?)
「並んでいると夫婦のようじゃ」
「ええっ?」
私はあわてて、つい口をはさんでしまった。
「想い合っているのがわかるぞ。表情に出ておる」
国王様に、そう言われて私はマーブのほうを見た。マーブは、とても嬉しそうな笑顔で私を見つめ返した。
謁見の間を出て、やっと着替えさせてもらった。私は騎士服に。マーブは王子の服に。客間で、私は護衛騎士としてマーブのそばにいた。
「アンジェは、どちらの服も似合うね」
「マーブも似合いますよ」
「もっと……ほめてくれよ」
そんなこと出来ない。本当は恥ずかしくて仕方がないのだ。
「アンジェ。父も母も賛成してくれてるんだ」
「えっ?」
マーブは、ひざまずいて、私に手を差しのべながら言った。
「アンジェ、君の全てを愛してる。僕と結婚してほしい」
「マーヴィン王子は幼すぎます。もう少し大人になったら、同じ言葉をください」
「それは……僕と結婚してくれるってこと?」
私は顔が熱くなって、下を向いた。
「アンジェ……」
マーブに抱きしめられた。その腕は、もう子供じゃなくて、男らしくて……きっと、すぐに大人になるだろう。
私はマーブのことが好き。はっきり、わかった。嬉しい。それが、とても嬉しい。
少し体を離した、マーブがささやいた。
「キスしていい?」
「うん……」
唇が重なった。それは、ふれるだけの優しいキスだった。
今は、このままでいい。
ずっと、ずっと、いっしょだから。
【終】
騎士の話が書きたくて、書いた作品です。楽しく書けました。読者のみなさんも楽しんでいただけると幸いです。
◆以下、後日談のショートショートです。◆
アンジェが本を熱心に見ている。
「アンジェ、これ和の国の本? 僕には読めないけど」
「和の国の本よ。私も言葉がわからないから、絵だけを見ているの。私たちの結婚式の服の参考にしようと思って」
アンジェ、可愛い。もうそんなことを考えているなんて。
「どれ? 僕にも見せてよ」
アンジェは笑顔でニンジャの絵を僕に見せた。




