船上にて入れ替わり作戦
僕とアンジェは港に来ていた。港にはたくさんの人が訪れていた。
僕は、つばの広い騎士帽をかぶって馬車から降りた。これで僕だとわからないはずだ。
「キャーッ! 王子よ!」
「キャーッ! 騎士服だわ!」
「キャーッ! キャーッ!」
「キャーッ! 仮装大会にいらっしゃるのかしら! キャーッ!」
……いつの間にか若い女性たちに囲まれてしまった。
「アンジェ! 走るよ!」
僕とアンジェは港の中を走り、急いで船に乗りこんだ。大きな荷物を持って走るなんて普通の人じゃ無理だけど、僕とアンジェなら出来る。体の鍛え方が違うから。
船の上で僕とアンジェは2人きりだ。もちろん他の乗客もいるんだけど。
化粧のせいかアンジェの頬は、ほんのり赤くて可愛かった。まるで「恋する乙女」みたいで、ずっと見ていたいと思った。でも
「慣れない服を着て疲れました。早く休ませてください」
とアンジェが言い出した。まだ昼間なのに。きっと動きやすい服に着替えたいんだろう。
「アンジェ、食事は? どうするんだい?」
「携帯食料が荷物の中にありました。それを食べます」
「そうか……。残念だな」
「私はニンジャになれませんでした……」
「そんなに落ち込むなよ。ニンジャだって失敗する時があるさ」
「いいえ! ニンジャに失敗は許されません! あしたは必ず変装しますから……」
「わかった。ゆっくり休むといい。その前に」
「なんですか?」
「部屋を入れ替えよう。アンジェのこと『すごい美人がいる』って噂になってたから。用心のために」
「必要ないと思いますが……マーブがそう言うなら、そうしましょう」
優れた騎士はいつでも眠れるらしい。僕の船室でアンジェは眠りについたようだ。
僕も騎士服からカジュアルな服に着替えた。騎士服は一人だと目立ってしまうし、ドレスコードはなかったし。
東太島の国の人々が船に乗っているのだろう、僕が王子だとバレることはなかった。時々、不思議そうに顔を見つめられたけど……。僕は、それから食事をしたり、楽団の演奏を聞いたりして楽しんだ。
夜になって、僕はアンジェが泊るはずだった船室のベッドで寝た。昼間の緊張感から、なかなか眠れなかったけど、うとうとと眠りについた。
しかし、鍵をかけたはずの船室のドアが乱暴にこじ開けられる音がした。やはり入れ替わって正解だった。
僕はそれでも目を閉じて寝ているふりをした。大丈夫、気配でわかるのだ。
敵は1人……。こちらに近づいてくる……。
「へへへっ、美人の姉ちゃんよぉ……」
物盗りでは、なさそうだ。
僕は目を開けて相手を見た。今夜は満月だから、ドアの隙間の光でも相手の様子がわかる。騎士に憧れた王子の実力を甘く見るなよ!!
男がベッドへと近づいていくのが見える。
僕は身を起こすと、男へ飛びついて、正面から羽交い絞めにした。
「ね、姉ちゃん!? む、胸がない……股間に俺と同じ物が……?」
混乱している男の腕を片手でねじり上げ、そしてランプを点けた。
「あなたは……王子……!?」
僕は腰の短剣を抜いて男の顔に近づけた。
「アンジェを襲おうとした罪、貴様の命でつぐなえ……!」
「おゆるしくだせえ! 俺は酔っていました! どうか命だけは……」
「では2度と酒を飲むな! ……見逃すわけにはいかない、船長室まで来い」
僕は短剣を男の首元に近づけながら、船長室まで連れて行き、船員に男を引き渡した。
……アンジェが危ない所だった。入れ替わりを提案して、本当に良かった。