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始まりの町_6

異世界への転生を果たした恭介は、ビギンズシティと呼ばれる都市で神の分身と出会った


『…予想外じゃったな』


「どうしたんだ?」


『恭介…こちらに誰かが向かってきておる』


「なに?ここって人来ないんじゃないのかよ…せっかくいいところなのに…」


ナノは神といえど世界の全てを知るわけではない

現地の人類が確立させた知識や技術を知ることは今後の大きな助けとなることを恭介は予想していたからこそ、この禁書に価値を見出していた

それを読めるチャンスを失うのはあまりに惜しい


『おそらくはアイズ…ここの冒険者ギルドの長を務める男じゃろう

魔力の感知に優れた奴じゃ

鍵開けの際のわずかな魔力の揺らぎに気づいたのかもしれん』


「そうか…弱ってるとは言え神の魔力操作を見破るなら相当な使い手ってことなのかな…?」


『どうする?戦うのか?』


「いや、相手の実力もわからないし…まだ闇の魔力の使い手が俺だって割れたわけじゃないんだ…リスクをとるくらいならやりすごしたい…本は諦めるしかないな

幻魔夜光はちょっとだけど魔力をまとわないと発動できないから怪しまれそうだな…

仕方ない…早速禁術を役立てよう

はぁ…憂鬱だな…[破壊錬成はかいれんせい]」


恭介は体内に魔力を巡らせ始めた

すると、骨や肉がバキバキという異常な音を立てながら変形してく


「うぐああぁぁあ…!?いってえ……!!」


痛みに身をよじりながらも、叫ばぬよう静かに痛がりながら恭介は床に倒れ込んだ


『恭介!大丈夫か!』


「ぐ…が…あ…」


徐々に体が縮み、爪が鋭く尖り、皮膚は変色を始めた


『恭介…っ!?…扉が開くぞ!!』


瞬間、禁書の入り口付近に魔力でできた影のようなものが現れ、そこから人が入ってきた

もちろん、ギルドマスターのアイズである

その後ろにはアメリア、そして心配そうな顔をした60代ほどの男性が続いている


「誰もいないか…?」


アイズの目の前には誰もいないが、アイズはすぐに異変に気付いた


「…このにおい…生き物だ」


「生き物ですか?」


アメリアがすぐに戦闘の構えをとる


「本の位置は…はぁ…ここはいつ来ても綺麗だな、部門長」


「…本の劣化を防ぐために、汚れやほこりがつかないよう魔法がかかっていますからな」


「おかげで本を動かしていたとしてもわからないな…だが、においは隠せないぞ…

どこだ?どこからにおってるんだ?…そこか!」


アイズが棚の隙間を勢いよく覗き込んだ

体には魔力が満ちており、瞬時に敵を殺せるよう構えている


「………」


「どうしました…?マスター?」


「鳥だ」


「鳥?」


目の前には二匹の小鳥が動いていた


「魔力も感じない…変化魔術の類じゃない…本当にただの鳥だ…

どこから入ったんだ?」


鳥は勢いよく飛び上がると、そのままゲートに向けて進みだした


「しまっ…!?捕まえろ!!」


「えっ…はっ、はい!」


アリシアがはっと気づいたときにはもう鳥は部屋の中から消えていた


「ちくしょう…!」


「ただの鳥です…部屋のどこかに穴でも開いていたのでしょう」


部門長と呼ばれた男がおずおずとそう言った


「…なぁ、あんたはこの部屋がどこにあるか知ってるか?部門長」


「いえ…知りませんが…」


「だよな、センターの図書館に転移ゲートつけてるけど、この部屋が一体どこにあるのかはこの部屋をお造りになったフューズ様のみぞ知ることだ…あと知ってるとしたら勇者のパーティーの他のメンバーくらいか?

アリシア、この部屋のある場所にさっきの鳥と同じ種が生息しているのかすぐに確認してほしいと伝えてくれ…それとすぐに兵に声をかけて鳥を探せ…捕獲する」


「アイズ殿…なぜ鳥如きにそこまで…」


部門長がそこまで言った瞬間、アイズが勢いよく部門長に顔を近づけた


「なぜ一般開放している図書館に入り口があると思う?

それはな…いつ何時なんどきこの本の知識が必要になるかわかんねえし、その何時が起きた時は国民のために使われなければならないからなんだよ…それが政治的なアピールにもつながる

だからわざわざ、世界有数の封印魔法をかけてまでこの保管方法を採用してんだ…

しかも、そこには冒険者ギルドのお膝元っていうお墨付きまで付いてる…だってのに小鳥2匹の侵入を許した…!!

仮にあの鳥が敵の調教テイムした魔物だった場合、損失は計り知れない!!」


アイズが体から大量の魔力をほとばしらせ、怒りをあらわにするのを見て、部門長は顔を青くしながら後ずさった


「マスター…それ以上は

部門長が怯えています」


「おっと…悪い悪い…

アメリアと部門長はここの調査後、必ずさらに強固に封印魔法を行い俺に報告してくれ…場合よっては頭を下げてフューズ様を呼ぶ

俺はもう一度お偉方に連絡を取って、禁書の保管場所の変更の可能性がある旨の相談をしに行く

はぁ…やれやれ、嫌になるぜ…俺もそうだが、平和ボケは捨てなきゃな

魔王だけが人類の脅威じゃないんだ…」


アイズはそう言うと、ゲートから戻っていった


「…はぁ~…怖かったぁ…」


魔法部門長はそう言うとその場に座り込んだ


「先代の部門長から聞いていましたが…アイズ殿は恐ろしいですな…

ギルドの魔法部門を取り仕切る長として、気を引き締め直さなければ…」


「怒りっぽいのは昔からですが…しかしあれだけ怒るのはそれだけの事態だからということ…私も少し気を抜きすぎていたかもしれません

きちんと今できる職務を全うしましょう」


「は、はい…わかりましたぞ、アメリア殿」



そのころ、二匹の鳥はセンターから離れた裏路地の隅にいた


「…うまくいったな」


『禁術は危険じゃから禁術指定されておるのに、こうも簡単にやるとはさすがじゃな』


「俺の力じゃない…異能が教えてくれるんだ

どうすればいいのかを感覚的に示してる感じがする」


ナノはその言葉を聞いた時、わずかではあるが恭介に対して異質なものに対する恐怖を感じた

破壊錬成は一度身につけている物も含めた肉体を分子レベルで分解したのち、完全に別の生命に変化する魔法だ

失敗すれば崩壊した肉体は二度と戻らないかもしれないし、肉体を変化できても記憶や言語能力などを失うかもしれない

魔力に保存した元の肉体データを再構築できなければ人間にも戻れない

あまりにも危険な禁術である


こやつは異能に備わる記憶からくる、なんだかできそうだという感覚のみで禁術使用に踏み切った

こいつは…いかれておる…


『それが、アイナスがお前を送り出した理由か…』


ナノはその無鉄砲ぶりに呆れながらそう呟いた


「あの男…アイズって言ったっけ?さすがにおっかなかったな…殺してやるみたいな感じは父親から向けられてたから初めてじゃないけど、比べ物にならなかった…」


『この世界でも戦闘力はトップクラスになるじゃろうからな』


「…怪しまれないように気をつけなきゃな

禁書が中途半端にしか読めなかったのは痛いけど…この世界の重要な知識が手に入ったのは大きな成果だ

禁書以外も気になるし、あの図書館は通いたなぁ」


『…今まで以上に気を張られれば姿を消す魔法も見破れてしまうじゃろうし…どうしたもんかの』


「禁書を読むわけじゃないし、普通に入ればいいだろ」


『入館料がかかるぞ?金は持ってるのか?』


「お前持ってないのか?神なのに」


『なんで神が金持ってるんじゃ』


「…確かにそうか

まぁ、金は奪えばいいか…」


『この街の入口でハンコを押したじゃろ

あれを押されたまま悪事を働けばすぐに騎士団がやって来るぞ』


「まじかよ…ガチガチの管理体制ってことね…」


『悪事と判断する材料は法に基づいてるし、うまい塩梅にしているんじゃと

導入してしばらく経つが意外と文句は少ないそうじゃ』


「ふ~ん…まぁでもそこは問題ないかな

入るときにあのハンコに刻まれてる式を書き換えたんだ

俺が何をしようとバレやしないよ」


『それって、お前が入ってきた関所だけざるになってるということじゃないのか?』


「………そうだね」


『はぁ…かわいそうに

そこの関所番はクビじゃろうな』


「運が悪かったってことで

それじゃ悪いことする前に…やるべきことがある」


『なんじゃ?』


「魔力の隠蔽いんぺい…性質変化だ」


ほとんどの生物の持つ魔力は何かしらの色がある

大して個体差の無いその色は異能によって色を変える事がある

魔王の異能が持つ闇の魔力は濃い黒をしており、感知されやすいという欠点がある


「魔力の色を変えることで、闇の魔力の持ち主だってバレないようにする」


『しかし闇の魔力を封じてしまえば異能も使えなくなってしまうぞ?』


「そこは知恵と工夫と魔法技術でカバーする

魔王の異能に刻まれた先代魔王の記憶があればできるはずだ

本当にやばくなったら闇の魔力を解放するよ」


『大層な自信じゃな

常時相手を舐めてるようなもんじゃ』


「人の自信なんて、生まれてから今までの環境で培われるもんだよ

その点、今世の環境は最高だからな」


恭介はそう言うと楽しそうに笑った


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