始まりの町_4
異世界への転生を果たした恭介は、魔王の力を試しながら人類の生存圏を目指していく
「おったまげるな…これがビギンズシティか」
街の中は完全なる先進都市であった
ただ階層が高いだけではなく、常識では考えられないような形状の建物が立ち並び、見たことのない生物が馬車のようなものを引いている
翼の生えた馬や、小型のドラゴンのようなものが空を飛びかい、地上では数多くの人々が行き交っている
「何がビギンズなのか知らないけどさ、こうも凄いと完全におのぼりさんになっちゃうよ
どこに行けばいいもんか…」
『…い…おい…』
「…あ?なんだ?」
どこかから何かが聞こえるが、街中は騒音であふれている
恭介はあたりを見渡すが、音の正体を見つけることはできない
「気のせい…か?」
『…い!…の…い…では……!!』
「やっぱり何か聞こえる…こっちか?」
頭の中に直接何かが響く気がする
恭介はそれが魔力によって自らのもとに届けられたものだと感覚的に気が付いた
その魔力の方向を追い、恭介は歩き出した
「…誰かが俺に話しかけてるのか
魔法か…技能か…
魔法だったら構築式がわかれば逆探知できそうなんだけど、技能だとわからないな」
『…気に…るな…そ…じゃ…そのま…進め…』
徐々にクリアになってくる声
美しく通ったその声はどこかで聞いたことがあるように感じた
『そこで曲がれ…その…かい…建も…じゃ』
「そのでかい建物じゃ…かな?
…え、これ?」
そこははるか遠くの砂丘地帯からも見えていた、街の中心にそびえ立つひときわ大きな建造物だった
入り口には見たことない文字が刻まれているが、恭介はなぜか読むことができた
「ビギンズシティセンター…なんで読めるんだろ?
こういう時だけアイナス様様か…にしても勝手に入ってもいいのか?
…あっちの影に隠れよ…よし「[幻魔夜光]」
恭介は建物入り口の影に隠れ、誰も見ていないことを確認すると自らの姿を消す技能を使用し、そっと入り口から中に入った
『入ったな…そのまま図書館へ向かえ
そこにわしがおる』
「お、近くに来たからかだいぶクリアに聞こえるな
館内地図は…えっと服に雑貨、武具防具店…ほぼショッピングモールなのになんでもあるじゃん
なのに図書館併設なのすごいな
ん?…冒険者…ギルド…?何それ何するとこだよ…で、図書館どこ?」
『入り口入って右にまっすぐじゃ』
「あぁ、はい、どうも
…ずいぶんババ臭い話し方だな
誰なんだあんた…頼まれても無いのにホイホイここまで来ちゃったけど、俺を呼んだってことであってる?」
『あっているとも…わしのことをアイナスから聞いていないのか?』
「アイナスから…?あ、もしかしてお前が力を失いつつある、この世界の神の分身ってやつか」
『…そうじゃ…わしがこの地の神よ』
「へ~…どこかで聞いたことあるような気がしたけど、アイナスに似てるんだな…
ビギンズシティにいるのは聞いてたけど、そっちから話しかけてくれるなんてありがたいね
まぁ…今や神を名乗るには力不足なんだろうし、そんだけ必死ってことかな?」
『口が減らんガキめ…なぜアイナスはこんな奴をよこしたのか…』
「助けてもらう側のくせに文句言うなよ」
『貴様が生意気すぎるんじゃろうが』
「悪いな、神様ってやつにはいい思い出がなくてね」
『ふん、貴様の目的は勇者を殺し、わしを救うこと…ひいては世界を救うことじゃろう
黙って協力せい』
「俺の目的はその先…この世界で、誰からも奪われない第二の人生を謳歌することだ
そのために提案を飲んだってことを忘れるなよ」
『どのみち協力せねば世界は滅びる
お前もそれを忘れるな』
「そうかよ…にしても魔王ってのは世界を支配する存在だろ?
それに世界を救ってくれだなんて、改めて考えたらおかしな話だな」
『魔王から世界を救う…か
そんなものは人間の尺度よ、神の考えではない』
「へぇ…尺度ねぇ」
『わかっていないようじゃな…
世界は脆い…わしの使命は世界の崩壊を防ぎ、文字通りこの世界の全てを救うことなのじゃ
大地震、気候変動、流行病…人間という一種族のみならず、この世界そのものが続くために力を振るうことこそが我ら宿地神の役目よ』
「ふん、当たり障りないことばっかりだな
うちの世界にいたイカれてる環境活動家と同じようなもんだ
神って奴は力があっても思ったより大したことないんじゃないの?」
『神は、人間が自らの人生の幸せのために都合よく創り出したものではないということじゃ』
「そうかよ神様…てめえの御託はどうでもいいけど、人間は救いもしない神なんて崇めないぞ
それに俺に助けてもらう立場だってこと忘れんなよ」
恭介は声の主と言い争いながらも、図書室にたどり着いた
綺麗に並べられた本棚には無数の本が並べられている
上を見上げると、高い天井ぎりぎりまで本棚が設置されている
「空中に棚が浮いてる…空飛べる奴じゃないと読むこともできないな
いや、引き寄せる魔法なんかがあれば…」
『そこではない…奥に来い
閲覧禁止の本が保管されている部屋がある
そこなら人も来ないし、邪魔が入ることも無いじゃろう
…貴様にとっても有益な情報がわんさかあるしの』
「閲覧禁止?」
言われるがまま進むと、厳重に鍵や鎖で施錠された扉があり、【関係者以外立入禁止】と看板がつけられている
「…入れないじゃん
この鎖、魔法が込められてる…鎖だけじゃない、鍵もだな」
『中から開ける…少し待て…よし開いたぞ』
その言葉と共に、恭介の視界が一瞬暗転する
次の瞬間、薄暗く狭い図書室に立っていた
「扉自体も魔法で創り出したダミーだったのか…鍵や鎖を解除しても意味がない
別の魔法で禁書の棚に移動させるためのゲートみたいなのが隠されてるってわけね…
ふ~ん、閲覧禁止の本か…ぜひとも読ませてもらいたいな
コピーなんかが作れればベストだけど…」
『そんなのは後にしてもらおうか』
今度は頭ではなく、ちゃんと耳に聞こえる声が恭介の前方から響く
「…神様か?どこだ」
『ここじゃ』
「ん?」
少し目線を下げると、小さな鳥がちょこちょこと歩み寄ってきた
「え、まさか…この鳥が?」
『悪いか?いろんなところに入れて便利じゃぞ?鳥は
魔力を使わんでも空も飛べるしな』
「マジかよ…盛大に小ばかにしてやろうと思ったのに…神の正体がまさかこんな小鳥なんて…」
『姿なぞ、与えられた使命を果たすことができればどうでもよい…志島 恭介じゃな?
アイナスより神託があった
このくそったれな状況を打破するために、人間を送るとな
すぐにわかったぞ?砂丘地帯で魔王の力を使ったじゃろう?』
「え?あぁ、まあね
ちょっと試してみたくて」
『そのおかげで魔王は生きていただの、新たな魔王が誕生しただのこの街のお偉い方は大騒ぎじゃ
軽率じゃったな』
「マジかよ…勇者を殺すのに目立つのはまずいな
警戒してくださいって言ってるようなもんだ」
『まったくじゃ
だが、おかげでわしはお前をすぐに見つけられた…
不幸中の幸いじゃな』
「…見つけてくれたのはありがたいけど…どうしようかな」
『それを一緒に考えるためにここに呼んだのじゃ
人も来んし、世間の一般常識や基礎的な知識…いわゆる普通というやつは邪魔されずに教えられる…
そして、この場所には普通じゃない知識が山のように眠っている』
「そりゃあ魅力的…でも鍵開けたんだから、誰かが様子見に来そうなもんだけど?」
『わしは神じゃぞ?力が失われたとしても細工しながら鍵を開けることくらい容易いわ
しかも内側からじゃしな』
「頼もしいことで…んじゃ、まずは勉強の時間だ
色々教えてもらうぞ
あのアホ神のせいで、いきなり異世界に放り込まれて困ってたんだ」
『アイナスはわしの根源であるが、わしはあんなにちゃらんぽらんではない
安心して任せるがいい』
目の前の小鳥にそう威張られても不安しかないだろう…
恭介は大きくため息をついた