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地上は滅んだ ~蒼然の警部~  作者: 武田瑞穂
第1章 斧の魔物
9/13

1-9

 おまえは、おれのものだ。


 ゼインは胸のなかで、そうつぶやいた。

 ゼインは、そのぎらつく目に意識を集中させている。

 彼の前方では、1人の大男が背をこちらに向けて歩いている。

 ゼインは、その巨大な背中を凝視する。

 大男はまったくの無警戒。


 おまえは素晴らしい獲物だ。


 ゼインは、インパラに忍び寄る黒豹のように、まったく音を立てずに前進する。大男はゼインの存在など、塵ほども察知していないようだった。


 仕留められる準備はできているか?


 ゼインは、斧を握る手に力を入れる。斧の柄の固い感触が、ゼインの残忍性を助長する。

 やがて、ゼインは、その背中に手を伸ばせば触れられそうなくらい、大男に近づいた。


 さあ、おれに狩られることを誇りに思え。


 ゼインは斧を高々と掲げる。そして、斧を大男の背中に向かって振り下ろそうとしたそのとき、数日前22口径で撃たれた右腕に、稲妻のような痛みが走った。






 朝食を済ませたジェフ・マクレガー警部は、配電室のドアを閉めて、駅に向かって歩き出す。


 酒造工員アベル・ラッドの失踪は、見張り屋ロイドの死と関係ある。間違いなく。

 今日は、下水道B4居住区の、見張り屋ロイドの家を調査しようと思った。


 女性の大声がシヴィックセンター駅に響き渡った。


「きゃあ! 怪我人よ!」

 

 こんどは男性の声。


「うわ! なんてひどい怪我なんだ! きみ、歩くのをやめたまえ!」


 ジェフは声がしたほうへ走る。


 動揺の表情をあらわにする人々の中央で、大男がふらふらと歩いていた。


 ジェフは大男に向かって全力疾走する。


 大男は消え入りそうな声で言った。


「た……助けて……くれ……」


 大男は、ジェフがたどり着く前に、ばったりとその場に倒れた。






 そこは、シヴィックセンター駅の事務室の中に設けられた診療所。

 診療所の中は、シヴィックセンター駅のほとんどの住居や店舗とはちがい、多くのオイルランプや充電式ランプが灯されているので、明るい。

 診療所の棚には、〝回収屋〟が集めてきた医療道具や薬品が並べられている。


 大男は、ビニールシートが被せられたベッドの上でうつ伏せになっていた。

 ジェフは、医師マクダウェルが、大男の背中の左上を縫合しているのを見ている。

 大男の身長は6フィート4インチ(約194センチ)はありそうだった。

 

 大男が、弱々しい声で言う。


「おれの……名前は……ベン・ミーチャム」


 医師マクダウェルがベンに言う。


「しゃべるんじゃない!」


 それでも、大男ベンは先を続けようとする。


「やつは……音もなく、やってきた……」


 ジェフはベンに聞く。


「相手の顔は見たか?」

「顔は……顔は……」


 そこで、大男ベンは気を失った。


 ジェフは医師マクダウェルに聞く。


「ベンはたすかるのか?」

「傷は致命傷ではないし、縫合も終わった。だが、この男はここに来るまでにかなり出血したと思う。マルタの規定で、輸血パックは1人4パックまでしか使えない。見ての通りベンは大男だ。4パックで命を取り留められるという保証はない」


 ジェフは大男ベンの縫合された巨大な傷を指さす。


「この傷は斧でやられたものか?」


 マクダウェル医師は少しも迷わずに答える。


「そうだ。間違いなく斧だ。それもかなり大きな斧だな」


 ジェフは声に出さずにつぶやく。


 斧で襲われた大男……斧で襲われた大男……。


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