縁切り様
私はくーちゃん。
とある田舎の村に住んでいる。
この村には縁切り様、という神様がいる。
縁切り様は悪い縁を切ってくれる神様、らしい。
縁切り様はすごい神様で有名で、その噂は他県に広がるほど。
「くーちゃん!」
「うーちゃん!お待たせ!」
「大丈夫だよ!早く行こう!」
私たちは今から、縁切り様にお詣りに行く。
切って欲しい縁があるから。
私はお母さんとお兄さんとの縁を切って欲しい。
お母さんが男の人を家に連れ込んで、そのお兄さんに殴られたり蹴られたりするから。
うーちゃんは、おばあちゃんとの縁を切って欲しいらしい。
そのおばあちゃんがうーちゃんのお母さんをいじめていて、うーちゃん以外誰もお母さんの味方をしてくれないかららしい。
ただ…ひとつだけ心配なのは、縁切り様は『悪人』と判断した場合『この世との縁』を切ってしまうらしい。
祈った人でも、縁を切られた人でも。
私たちが悪人と思われたら、この世との縁を切られちゃう。
「くーちゃん、ちょっと怖いね」
「うん。でも、うーちゃんと一緒なら大丈夫」
「うん!」
そして私たちは、縁切り様の神社にお詣りした。
縁切り様の神社は小さいけれど立派で、とても綺麗。
参拝客が多い証拠だって。
「「縁切り様、縁切り様。どうか私たちを助けてください」」
なけなしのお小遣いをお賽銭箱に入れて、手を合わせる。
お願い事をして、私たちは頷き合って帰った。
帰りはお互い無言だった。
「せっかくお前の内縁の夫になってやったのに、コブ付きなんて聞いてねーよー」
「だって、あの子がいないと元旦那から養育費がもらえないでしょう?あなたを養うにはあの子も必要なのよ」
「ふーん」
夜、内縁の妻…もとい寄生先の女とデートして、家に帰る途中。
愚痴をこぼすが仕方がないことだと言われ、まあしばらくはあのガキの存在も我慢するしかないかとぐっと堪えたところで…変な音が聞こえた。
『しゃん…しゃん…』
「なんだ?」
「鈴の音?」
『しゃん…しゃん…』
「え、え、なに?」
「こわい…」
『しゃん!!!』
一際大きな音が鳴る。
目の前に突然よくわからない化け物が現れた。
「え、え…」
「…あ」
化け物は六本の足の生えた白い狼のような見た目の獣。
俺たちは、その化け物に踏み潰された。
「まったく、使えない嫁だよ!」
ぶつくさと文句を言いつつ、散歩から帰る。
この時間の散歩は日課だ。
使えない嫁に日々苛立つ。
男の子を産めと言ったのに、女の子一人しか生まないなんて。
息子は長男なのだから男を産めと言っても、聞きゃしない。
「いっそ事故に見せかけて殺してやろうか。そしたら保険金も入って息子に新しい嫁も見つけてやれる」
そこまで言ったところで、しゃん…と音が聞こえた。
「ん?」
『しゃん…しゃん…』
「な、なんだい?」
『しゃん…しゃん…』
「ま、まさか…」
『しゃん!』
六本の足に、白くてふわふわの凛々しい毛並み。
「縁切り様…!!!」
あの嫁、まさか…縁切り様にお詣りしたのか!?
私は、私はなにも悪くない!
悪人じゃない!
「あ、あ、あ…」
けれど私は、縁切り様に踏み潰された。
「うーちゃん、バイバイ」
「うん、くーちゃんもバイバイ」
縁切り様にお願いしたあと、私はお母さんを亡くした。
お父さんに引き取られることになって、転校することも決まった。
お父さんは幼い頃離れ離れになる前と変わらず優しくて、安心して引っ越せる。
うーちゃんはおばあちゃんを亡くした。
嫌味で意地悪な人が居なくなると、家庭が明るく優しい雰囲気になったらしい。
だからうーちゃんはこの土地に残るそう。
スマホは持っているので、メッセージアプリでこれからもやりとりはできるから寂しくはない。
「また遊ぼうね」
「うん!」
私たちは縁切り様のことはもう言葉にしなかった。
このまま穏やかな日々が続いて欲しいから。
けれどそのためにも、これから先は縁切り様に悪人と思われないように日々を正しく過ごさなければ。
「くーちゃん、そろそろ出発だよ」
「元気でね」
「元気でね」
手を振ってバイバイして、本当におしまい。
村を出たあたりで、最後に縁切り様に助けてくれてありがとうございましたとお祈りした。
あのままでは辛い日々が続くだけだったから。
縁切り様に、伝わるものがあるといいな。
だけど…人を呪わば穴二つ。
私やうーちゃんは、いつかしっぺ返しを食うかもしれない。
それを忘れないように、日々を大切に過ごして少しでも悔いのないようにしないと。
そう思って、新しい生活への一歩を踏み出した。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
楽しんでいただけていれば幸いです!
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