一分違いの幼馴染
幼馴染同士の男女の会話。
「理不尽だよな」
「何よ突然?」
「お前、来年には大学だろ?」
「ええ、そうだけど?」
「なのに俺は来年もまだ高校生だ」
「まあ、そうね」
「理不尽だろ?」
「何がよ?」
「ほんの少し産まれた時間が違うだけで一学年違うんだぞ?」
「一日遅れて産まれたあんたが悪い」
「それこそ理不尽な物言いだなおい」
「事実でしょ」
「その事実が理不尽なんだよ」
「我儘ね」
「それと、一日違いじゃなくて、一分違いだ」
「そうだっけ?」
「お前が四月一日の二十三時五十九分産まれ、俺が四月二日零時零分産まれだ」
「細かいわね」
「だが事実だ」
「そんな事実はどうでもいいわよ」
「理不尽な」
「そればっかりね」
「うるさい」
「細かい男はモテないわよ」
「うるさい」
「口五月蠅い男もね」
「うるさい」
「それにウザいし」
「……」
「キモいし」
「…………」
「本気で落ち込まないでよ、それこそウザいわ」
「我が幼馴染どのはもっと人の気持ちを考えるべきだと主張します」
「我が幼馴染殿はもっと大らかになるべきだと進言します」
「理不尽な」
「同じことばかり言ってると語彙の少なさが露呈するわよ」
「うる……っ黙れ」
「それも稚拙なことに変わりないわね」
「……」
「あら、返す言葉もありませんって感じかしら?」
「ふん」
「もっと色んな言葉を使って罵れないの?」
「罵ってほしいのか、Mだな」
「いいえ、どちらかと言うとSね」
「だろうな、さっきからの会話だけでもわかるよ」
「でしょうね」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………で、結局何が言いたいわけ?」
「さあな」
「私だけが大学に行くのが寂しいの?」
「…バカ言え」
「今一瞬、間が空いたわよ」
「アホか、大学っつってもすぐ近くのだろ?」
「そうよ」
「引っ越すわけでもないんだから、会おうと思えばいつでも会える」
「いつでも会いたいんだ?」
「……うっせえ」
「拗ねないでよ」
「からかうなよ」
「ふふ」
「その余裕の笑みがムカつく」
「年上の余裕ってやつよ」
「お姉さんぶるなよ」
「あたしの方が一つ年上だから良いでしょ」
「一つも違わない、たった一分だけだ」
「やっぱり細かい」
「やっぱりうるさい」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………大学で浮気すんなよ」
「あら、あたしは付き合ってる人なんていないから浮気のしようがないわよ?」
「……わかってんだろうが」
「ん、何が?」
「……」
「はっきり言わないと伝わらないことってあると思うわよ」
「…………」
「あら、顔が赤いわよ、風邪かしら?」
「……うっせえ」
「なによ、せっかく男の方に花を持たせようとしてるのに」
「……その上から目線がムカつく」
「じゃあ、私から言っちゃっていいの?」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………俺は、さ」
「うん」
「なんつーか、ずっとコンプレックスみたいのを持ってるんだよ」
「…うん」
「たった一分産まれが遅かっただけで、年下扱いでさ」
「…うん」
「全部お前が一年先を行っててさ」
「……うん」
「今、お前が先に大学行くのもそうだし」
「……うん」
「あー、だから、なんつーか……」
「……」
「俺はお前のことがす」
「あたしもよ」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………返事早えよ、俺まだ言い終わってないだろ」
「…だって今までずっと待たされてたから待ちきれなくて」
「そりゃ悪かったな」
「……」
「……」
「…………ふふ」
「…何笑ってんだよ」
「あら、あたしの笑顔見て照れてるの?」
「うるさい」
「恥ずかしがり屋ね」
「さっきからずっと顔真っ赤にしてる奴に言われたくない」
「五月蠅いわよ」
「同じことばっか言ってると語彙の少なさが露呈するぞ」
「私はまだ一回しか言ってないでしょ」
「稚拙なことに変わりないがな」
「ああ言えばこう言う」
「お前に鍛えられたんだよ」
「ならあたしを師匠と呼んで敬いなさい」
「師匠、いくら限界まで照れたからって人の告白の言葉を途中で遮るのはよくないと思います」
「………ホント、腹立つわね」
「お互い様だろ」
「ふふ」
「ふん」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「ところで今の告白は台本通りに言えたの?」
「何だよ、台本って」
「臆病なあんたのことだから事前にイメージトレーニングぐらいはしたんでしょ?」
「……」
「ふふ」
「笑うな」
「しかも悩みすぎて、気づいたらさぞやクサイ台詞になっていたんでしょうね」
「ほっとけ」
「で、本番になって実際に言おうとすると、考えてた言葉が浮かんでこなくて、結局は即興で言った」
「…………」
「これも図星か」
「ほっとけっての」
「支離滅裂だったしね」
「うるさい、こんなこと初めてだから緊張したんだよ」
「言葉の繋がりが全く見えなかったわよ」
「頼むからこれ以上蒸し返さないでくれ」
「……」
「……」
「ちなみに、どんなこと言うつもりだったの?」
「もう言う必要はないだろ」
「いいじゃない、減るものじゃないんだから」
「笑われるから言わん」
「いいじゃない、別に」
「よくない」
「笑わないから」
「嘘つけ」
「嘘だけど」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………一分」
「え?」
「お前が先に産まれた最初の一分以外、ずっと俺はお前の傍にいるから。これからもずっと」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……っ………っ…」
「……笑いたきゃ笑えよ」
「……っぷ、あっはははははっ」
「…………」
「あはっははは、何、それ、クサイとかいう次元じゃ、っふふ……っ……」
「知らねーよ、ったく」
「っ、っ、…っ……ごほん」
「……」
「ごめんって、いや、悪気はなかったんだけどね」
「悪気なしに笑う方がよりタチが悪いだろ」
「あっはは」
「……」
「……」
「…………」
「…………でもそれ、ちょっと言って欲しかったかもしれないわ」
「嘘つけ」
「ふふ、どうでしょうね」
「…ふん」
「……」
「……」
「…………まあ、なんにしろ」
「…………ええ、そうね」
「「これからも、よろしく」」
・構想時間:家からコンビニまでの往復時間
・執筆時間:カップラーメンを作って食す時間+コンビニで買った菓子を食いつぶすまでの時間+α
・結果:片手でキーボードを打つのは存外難しいと判明
構想はほとんどなしに、どれだけ早く書き上げられるかに挑戦した習作。案外時間がかかってしまいました。+αが一時間以上ってどういうことなの……。菓子食いながら片手打ちしたせいもあるけどw 行儀も効率も悪いので良い子は真似しないでください。
拙作を読んで少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
追記:会話文オンリー作品がシリーズになりました。そちらも合わせてどうぞ↓