03 現実
体感ではでは久しぶりに会った遥香を家まで送った後、来た道を戻り自宅に帰った。
今日あった事はいつも通りと言えばそうだが、覚醒者や窓から見える対策課の建物、それに遥香との関係などいつも通りとはとても言えない出来事も多くあった。
今までは関わり合いなどほとんどなかった遥香との会話も、なるべく違和感を与えないように平静を装って会話したつもりだが正直自信はない。
覚醒者になっていたこともそうだが、普段話している内容も知らなければ高校生になった遥香との会話など数えるほどしかなかったのだから普段の遥香の様子など到底わからない。
今日あったすべての出来事を夢だと割り切ることも出来るかもしれないが、明日起きた時今日と変わっていなければ、その時は今起こっている出来事は現実だと受け止めるしかない。
自分に何が起こっているのか、変わったのは自分ではなく世界なのか、それとも今まで過ごしてきた現実が長い夢だったのか。
部屋のベッドに横たわりながら考えるが思考は纏まらず、夕飯を食べることもなくそのまま意識は夢の中へと落ちていった。
朝、いつもと同じ時間にスマホのアラームが鳴り響き目は覚めた。
考えているうちに眠ってしまったためカーテンも開いたまま太陽の光が部屋を明るくしている。
寝起きで擦れた視界のまま外の景色を見ると、そこには昨日見た大きな建物がそのまま建っていた。
「やっぱり昨日までのことは夢じゃなかったのか……。ならここは一体どこで、俺はどうなってるんだ……」
外の景色を確認し、現実逃避していた今までの出来事がすべて現実だということを再確認し、自分の知っている日常は音を立てて崩れて行くのを聞こえたような気がした。
今までの全てが現実だったとして、自分の知らない世界になっていたとしても日常は過ぎていく。
世の中の学生が平日に学校に行くことが当然のように、どこにでもいるような学生の自分も同じように学校に行く必要はある。
現実が受け入れられないからと言って、体調が悪いわけではなく他から見ればただ憂鬱な気持ちになっているような状態で学校を休むことは両親が許す訳もなく、今朝も一人で通学路を歩いていた。
登校中色々なことを考えてしまう。
なぜこんなことになっているのか、なぜ自分は知らない世界にいるのか、今まで自分がいた世界が夢でこちらが現実なのか。
どれも考えたところで答えが出るような問題ではないがそれでも思考を止めることは出来ない。
学校に着いてからも他のことに意識が向かず答えの出ないことを延々と考えてしまう。
自分が答えを持っていない自問自答を繰り返しているうちに太陽は傾き気づけば放課後になっていた。
周りを見ても誰も教室にはおらず、いきなり時間が放課後に飛んでしまったように思えたが、思い返せば藤田が話しかけてきたり、授業を受け昼には昼食を食べた記憶はあるが考えることに夢中になってしまい、どれも半分無意識に行動してしまっていたようで机に出しているノートは白紙の状態で開かれていた。
「あー……、やっちまったな……。こんな状態じゃ何も手は付かないと思ってたけど、こんなにも時間が経っているような感覚初めてだ。明日藤田に頼んでノート貸してもらわないとやばいな」
他のことなど考えられないような状態だったこともあるが、それでもここまで色々なことに手が回らないことは生きてきた中で初めての経験であり、逆に半分無意識でも学校生活を送れたことに少し驚いてしまった。
だが長い時間考えることが出来たおかげで、答えが出ることはなかったが一つだけ重要な問題が出てきた、そしてそれに関しても答えは持ち合わせていないが、これからこの世界で生きていく上で重要なことを見つけた。
この世界は自分にとって現実でなく知らない世界である。
これは間違いなく言えることで、自分の知らない出来事や交友関係が存在している時点で今まで送ってきた生活とはかけ離れた世界にいるのだと思う。
だがその世界に自分の居場所があったのはなぜなのか。
両親が居て、友人や遥香がいる、だが本来居るはずの志木彰人の居場所には違う世界の自分がいる。
似て非なる世界だが、細かいことを除けば今まで生きてきた世界と同じように生活してきたのが分かる。
だが、この世界で生活していたのは今この場にいる自分ではなく、この世界にいた志木彰人だ。
気づけばその立ち位置に自分が立っていたが、元々いた自分は一体どこに行ったのか、自分と同じように元居た世界で困っているのか。
確認することが出来ないためその問題に答えを出すことは出来ないが、この世界にいるうちは今までのことを改めて知る必要があることも事実だ。
誰かに話して信じてもらえるとは思わないがこれまで過ごし、変わった関係性などを再確認しなければならない。
スマホを取り出しメッセージで会うことが出来るか、確認の連絡を送った。
すぐに返事が来て問題ないことが確認できたため俺は荷物をまとめ席を立った。
誰かに確認をする必要があり、今までと関係性が大きく変わりそれなりに事情が分かる人物は一人しかいない。
俺は遥香に会うため学校を出た。