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プロローグ



――初めて聴いた死の音は激しい炎の音だった――



長い人生の中、何度も日常への期待を人はする。


それは人が聞けばとてもくだらないことに思えたとしても、考える当人にとってはとても重要で真面目な妄想だ。


例えば、いきなり空からお金が降ってきたり、自分の前世が過去の大英雄だったことが発覚したり、気になっていた子からいきなり告白されたり。


そんな、くだらなくも実現してほしい。


大人も子供も関係ない、そんな夢絵空事を誰しも一度は考えてしまう。


学生なら退屈な授業を壊してくれるテロリストを、大人なら一獲千金を願い宝くじを。


叶えばいいなと考えながらも、実現しないことが分かっているそんな現実逃避の妄想を。



俺も子供の頃は考えたことはある。


実はこの世界にはまだ知られていないだけで、何か特殊な力を持った人はどこかに居る。


昔アニメで観たように、いずれ自分の前にも特殊な力を持った人が現れる。


そんなことを考えながら小さいころは生きてきた。



ただ、そんな非日常はいつまで経っても自分の前には現れない。


小学生三年生あたりでそんなことは分かり始めていて、小学校を卒業するころには昔思い描いた想像の出来事は全てテレビや漫画の中の出来事だとわかるようになっていた。


中学校を卒業するころには、昔考えた想像の出来事は人に話すことが出来ない黒歴史になり、高校へ入学した後は昔想像した記憶は頭の片隅へと消え、無理やりにでも現実へと思考を切り替えていった。



アニメや漫画のような非日常はなくても友人たちと楽しく成長していく、そんな日常もいいものだと思えるようになったことで少し大人になったような気もしていた。



ただし、そんな日常も少しの非日常で大きく変わってしまった。



朝、いつもと同じ時間にスマホのアラームが鳴り響き目は覚めた。


カーテンを開け、朝日が部屋を明るくし寝ぼけた頭が少しずつ目覚めていった。


見慣れた部屋、クローゼットに掛けられた着慣れた高校の制服。


隣の家の赤い屋根、窓から見慣れた昔から住んでいる地元の風景。


そんな見慣れた地元から離れた位置にある、見慣れない大きな建物。



「…………なんだ、あれ?」



 いつもと変わらない風景にある異物。

 

自分の中の記憶と確実に一致しない、見慣れない大きな建物がいつの間にか街中に建っていた。


「昨日まではあんなところにあんなものなかったし……、そもそも一日であんな大きい建物出来るわけないのに……」


 寝起きだった頭は一気に冴えわたり、目の前の異常な光景で頭はいっぱいだった。


「彰人! いい加減に起きないと学校に遅刻するわよ!」


母の声が一階から響きハッとした。


それは間違いなくいつもと同じ日常のやり取りで、変わらない日常を知らせているようだった。

 

気になることは沢山あるが一人で考えても仕方ないため、部屋を出て階段を下りた。

 

そこにはいつもと同じように朝支度をする母の姿と、朝食を食べながらテレビを見ている父の姿があった。


「彰人、今日は遥香ちゃん来れないって言ってたんだから、いつもみたいにダラダラせずに早めに準備しないと学校に遅刻するわよ!」


「……遥香ちゃん?」


 聞きなれない名前に首をかしげてしまった。

 

普段からアラームで起きられないことも多いし、そのたびに未だ母親に起こしてもらっているが、遥香なんて人に起こしてもらったことは今まで一度もない。


「何不思議そうな顔してるのよ……。まあいいからさっさと顔洗って朝ごはん食べなさい」


 母にそう言われ、納得がいかないながらも顔を洗いに洗面所へと足を運んだ。


 冷たい水で顔を洗いながら言われた名前について考える。

 

聞きなれない名前だったが、知らない名前ではない。


 小学校から中学校まで一緒の学校に通った、所謂幼馴染というやつだ。


 ただ、その幼馴染との付き合いも中学校までであり、今は違う学校に通っている。


 顔を合わせれば話はするし、仲が悪いわけでもない。


 両親同士も仲が良く近所で会えば長話をして、子供の頃はその長話がいつ終わるのかと考える程度には仲は良かったと思う。

 


 ただ、中学校を卒業して以来親同士はともかく、俺達ではそこまで交流はなかった。


 家が近いため顔を合わせることはあったが、それもなくなり今では一年に一度顔を合わせるかどうかといった程度だ。



 その幼馴染とは名ばかりの知り合い程度だったものが今まで迎えに来ていたという。



 窓から見える建物といい、幼馴染といい明らかに自分の今までの日常とは大きく異なっている。


 物語によくある記憶喪失とは違い俺は今までのことはしっかりと覚えているし、自分のこともはっきりと自覚できる



 志木彰人、十七歳、男子校に通うごく平凡な男子高校生。


 両親は共働きで、普段は電車で高校まで通っている。


 バイトも部活もしていない、少し悲しい青春を送っているが、下校時には友人と学校近くのゲームセンターで遊ぶ程度の青春は送っている。


 そんなどこにでもいるただの高校生のはずなのに、昨日までの記憶と今の状況は一致しない。


 水で濡れた顔を拭き、リビングに戻るとテレビではニュースが写っていた。


 ただそのニュースの内容は俺の知っているものとは大きく異なっており、今いるこの場所が自分の知っている場所でないことがはっきりと告げられていた。



『昨日午後、覚醒者により都内の建物が爆破される事件が発生いたしました。犯人は未だ逃走を続けており対策課の捜索が続けられています』



 淡々と告げられる、知らない単語とテロのような事件。


 まだ夢を見ているのかと思うほど日常からかけ離れたニュースが映っていた。


 夢ならばと思い頬をつねっても痛みはあり、明晰夢のような物かと思ったがそれを確かめる方法もない。



「母さん……、窓から見える大きい建物って何の建物だっけ?」



 夢ならば自分の知っている建物か、昔想像したようなとんでもない建物かと思いそんな質問を母に問いかけた。



「なんの建物って、あれは警察の対策課のビルじゃない。彰人が小さいころにはあそこに建ってたし、昔一緒に見に行ったりもしたじゃない」



「…………そっか、……そういえばそうだったよな……。ごめん、ちょっと寝ぼけてたみたい……」




 昔考えた想像上の世界。子供の頃、まだ世界を知らなかった頃にあったらいいなと思い大人になるにつれて忘れていった漫画のような非日常がはびこるような。


 ――そんな世界に俺はいつの間にか来てしまっていた。


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