和菓子みたいに甘くして
『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
今回のなろラジ大賞はここらで打ち止めかなと思いますが、その分色々込めたので、よろしければお楽しみください。
「付き合う前に言っておくわ。私はべたべた甘いのは苦手」
「そうか」
俺の告白に頷いた後、彼女はそう言った。
「付き合う以上好意を示すのは必要だと思う。でも周りからバカップルと言われるような振る舞いはしたくないの」
「それは俺もだ」
「そう」
頷く俺に、彼女は少し顔を綻ばせる。
「例えて言うなら、和菓子みたいな甘さがいいわ」
「和菓子?」
「そう。砂糖を控えめにして、塩で甘さを引き立てるような、そんな甘さ」
「まぁわかるような気もする。べたべたしない感じな」
「そ。脂っ気のない爽やかな甘さ。付き合っていくにしてもそんな関係でいたいの。それで構わない?」
「あぁ、わかった」
そうして俺達は、手を繋ぐ事もなく駅へと向かったのだった。
「と、そんな事を言っていた時代もあった訳ですが」
「んー?」
酒の入った妻は、俺の肩に頬を擦り寄せている。
あの時のクールさはどこへやら。
結婚してからというもの、外では自制しているものの、家ではでれでれだ。
別に嫌ではない。
全然嫌ではないのだが、あの時距離を置かれたようでちょっと傷付いた事を思うと、若干納得がいかない。
「なぁ、和菓子みたいな甘さってのはどうなったんだ?」
「え?」
「だって今これ、ケーキみたいな甘さだろ。嫌ではないけど」
「あぁ、あれ? ちゃんとしてるでしょ?」
どこがだろう。
「あなたが服をすぐ洗濯に出さない事とか、会社の飲み会でつい飲み過ぎる事とか、ちゃんと注意してるでしょ?」
「あ、うん、それはなかなか治せなくてごめん」
「いいの。そういうのをちゃんと伝えるのが、私は塩だと思ってる」
「塩?」
「そ。甘いだけだと飽きちゃうけど、ちゃんと引き締めるところは引き締めておけば、それ以外は好きって気持ちが引き立つでしょ?」
「……成程」
そういう意味でだったのか。
確かに妻は俺にも「何か不満があったら言ってね」と言ってくれて、料理の味付けなどは希望を伝えている。
不満が解消されれば、たとえされなくてもちゃんと伝えられたという事実があれば、後は好きな気持ちが残るだけだ。
「だから和菓子のように、か」
「そうよ。でもたまにはケーキみたいにどっぷり甘やかしてくれてもいいのよ?」
「……そうだな」
期待した目で見つめる妻に、俺は深呼吸すると、
「俺と結婚してくれてありがとう。心から愛してる」
妻の望む甘い言葉を耳元で囁いた。
「……やっぱりたまにでいいわ」
「……うん」
……俺達には、やはり和菓子の甘さが良いらしい。
読了ありがとうございます。
最初『和菓子の恩』とかで考えてて、洋菓子が抹茶や小豆の力を得て和風スイーツを発展させていった話とか書こうと思ったんですけど、感謝を述べながらもクリスマスに態度が豹変するケーキさんとか誰得だよと思い、真っ当な方向で書いてみました。
……うそ、私の描きやすいジャンル、甘すぎ……?
お楽しみいただけましたら幸いです。