4.日常
・side R
彼らとの旅は想像以上に苦痛だった。
クライスくんは長話しないなんて言っていたのにつまらない話をずっとしている。リィエくんはずっと監視しているし隙あらば破壊者の内情を知ろうと質問してくる。莉乃ちゃんは戦うのが好きなはずなのに全然壊し合ってくれない。そのうえ――。
「もう甘い物食べたくない!」
日が沈み馬車を止めて野営をして出てきたのは果物の砂糖漬けだった。彼らが出してくる料理は甘い味付けばかりでわたしはもう飽きてしまった。
わたしの言葉に莉乃ちゃんは心底驚いた表情をする。
「え!? この世界って甘くない食べ物存在するの!?」
その顔にはありありと『この世界に来てから甘い物しか食べていない』と書いてあった。
わたしは思わずクライスくんとリィエくんを凝視する。
すると2人はしまったという顔をしていた。
「すみません、配慮不足でした……!」
「魔力補給の事しか考えていなかった。悪い」
「魔力補給……?」
莉乃ちゃんがきょとんとしてリィエくんの言葉を繰り返す。
夕食を食べ終えたクライスくんがうなずく。
「はい。この世界で最も魔力を含む食材が砂糖なんです」
「へえ。だから砂糖を使った料理を食べると魔力を補給できるって事?」
「そういう事だ。ちなみに魔糖は魔力を操りやすくするために調整された砂糖で食用ではない。食べると胃に穴が開くから食べるなよ?」
「こわっ! 絶対触らないよ。ごちそう様」
「次の町でいろいろ買い足しましょう。明日の日中には着きそうですし」
「その前に路銀稼ぎだな。そろそろ資金が危うい」
食器を片付けながら話す2人に莉乃ちゃんはまた黒い目を丸くした。
「お金! そっか、そりゃあ稼がないとなくなるよね!」
わたしは首を傾げた。
「なんでお金が必要なの?」
今まで必要なものはなんでもいつもジィが出してくれた。そういえばあれらはいつどうやって用意していたのだろう。まあどうでもいいか。
川からくんできた水で食器を洗っていた3人が変な顔で動きを止めた。それで普通はお金が必要なのだと理解する。
「あんた今までどうやって生きてきたんだ?」
洗った食器をクライスくんに手渡しながらリィエくんがあきれ顔で言う。
受け取ったそれの水気をふき取って莉乃ちゃんに渡しつつクライスくんは首を傾げた。リィエくんとは違い純粋に不思議がっている表情だ。
「お金がないと買い物ができないじゃないですか。欲しいものはどうやって手に入れていたんですか?」
食器をおっかなびっくり収納水晶へ仕舞いながら莉乃ちゃんもうんうんと無言でうなずいている。
「え? 頼むか奪うかすればいいでしょ? あ、そっか。奪えない人がお金を使うのね?」
また変な顔をされた。予想は外れだったみたいだ。
「……辺境の村や集落なら物々交換する事もあるが、大抵は金での取引だ。その様子だと、莉乃の世界も金銭取引だったか?」
「うん、お金でやり取りしてたよ」
「ふむ、なるほど」
使い終わった水を捨てながらリィエくんは考える顔になった。
それはさておき。
「お金を稼ぐって何するの?」
やった事はないけれども面倒くさそうだなと思い聞いてみた。
「それはあたしも気になってた。あたしにも手伝える事あるかな?」
「そうですね……。お2人は歌が得意だったり、楽器の演奏ができたりしますか?」
「うた。がっきのえんそー?」
聞いた事があった気もするもののそれらがなんだったか思い出せない。首を傾げて莉乃ちゃんの方を見てみる。
「いやあ……。人前で歌うのは無理だし、楽器なんて使った事ないよ」
彼女もバツの悪そうな顔をして首を横に振った。
するとクライスくんはあごに手を当てて難しい顔をする。
「うーん……じゃあダンスとか、何か披露できる一芸とかはないですか?」
「……全然、ないね……」
莉乃ちゃんが申し訳なさそうに黒い目をそらす。
「別に無理する必要ないぞ。俺とクライスだけで十分事足りる」
いろいろな葉っぱや道具を取り出しながらリィエくんが言った。
「いや、でも……何もしないのは申し訳ないし」
「それって……あれよね。だいどーげーにん?」
どこかの町の広場でナイフを投げていた人に対してジィがそう言っていた気がする。
「そんな感じです。見る人が驚いたり楽しんだりできそうな催しですね」
「ふーん。それなら、わたしと莉乃ちゃんで壊し合ったらいいんじゃない?」
わたしの提案に3人はそろって顔をしかめた。
「あ、違う違う! 本当に壊し合うんじゃなくて、壊し合うフリするのよ」
「壊し合う、フリ?」
「そう!」
声を合わせて尋ねてくる3人にわたしは笑ってうなずいた。
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