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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第6部『扉の潜む暗躍と暗黒神の忘れ形見』編
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第18話 150年後の黒き後追い

 リイナとレイ……二人の強者を導いてあの黒き竜に引導いんどうを渡すと決めたランチア等4人の大人達。


「そらっ! こっちにいるぜッ、暗黒の竜ッ!」


 ノヴァンの後方に周り、ワザと大袈裟おおげさな声を張り上げるのはガロウである。

 既に示現じげん真打しんうちを二度に渡って繰り出した彼だ。流石にまだ次弾用のチャクラが溜まっていない。

 彼に今すぐ出来る事は視界しかいを失った相手に対し聴覚ちょうかくへ訴えることだ。

 それも座っている事しか敵わないノヴァンの背後へ注意をきつけるという、言ってしまえば姑息こそくな手段。


 ノヴァンとて馬鹿ではない、さしたる有効な攻撃手段を持たぬ敵なぞ相手にしない。

 だがほんの一瞬でも気をとらわれたことが重要カギなのだ。


「むんっ!」

「ウグッ!」


 お次はジェリドだ。大胆にも前から一閃いっせん、風の精霊術『自由の翼』の効力が途切れたことすら利用する。

 重力任せに戦斧を振り下ろす。やられると手痛い右前脚のひざにザグリッと見事にヒットするが、これだけで動けなくなる程ヤワではない。


 だがほんの少しだけその膝が落ちかける。そこを見逃す程赤い鯱(プリドール)ゆるくない。


「うおりゃァァァッ!!」

「お、おのれそんな低い位置にせていたかッ!」


 溶解した石床から50cmの程の位置でランスを構え、その美味しい瞬間を待ちわびていた。

 膝が落ちかけた所へ突き出したランスが、完全につらぬいて向こう側に槍先を覗かせる。

 本来ならば足元から燃やされても仕方がない所を、ドゥーウェンの自由の爪(オルディネ)で張りめぐらした光の膜(シールド)が受け止めていた。

 ついでに言えば、先程墜ちる寸前だったジェリドも共に受け止めている。


「グッ! 最早もはや座っていることすら叶わんのかっ!」


 これで左後ろ脚に続き、右前脚すら自由が効かなくなったノヴァン。

 25mもの巨体からくる重量が左前脚にのしかかる。もう無理かに思われたが、右後ろ脚と負傷している長い尾をたくみに使い、前倒しになることだけは防いでみせた。


「クッ! にしても此奴等、耳頼りの我に対し、声すら隠さんとはッ!」

「何だ何だっ? められてるとでも言いてえのかい? 賢い竜さんよォォォ!」

「……戦乙女ヴァルキリー!」


 ランチアとて自由の翼が時間切れだが、まるで申し合わせ済みかのタイミングで、ベランドナが詠唱を止めていた勇気の精霊を代わりに付与する。

 カモシカが俊敏しゅんびんがけを駆け上がるかの如く、ノヴァンを足場に飛び跳ねるランチア。

 触れている至近距離ではどうにも反撃のしようがないノヴァン。それはランチアとて判っている筈なのだからこその、この綱渡りなのだが、何故かポロリポロリと火薬玉を落としながらだ。それも全く見当違いな所にである。

 そもそもどれだけ火薬持ってんだという話だが、この爆ぜる音にノヴァンはどうしても反応してしまう。

 さらに加えてこれもノヴァンの居所でない場所に次々とワイヤー付きのジャベリンを投げ込んでゆく。

 これが残りわずかとなった砦の石床や石柱にことごとく突き刺さっている。この音の方にはノヴァンが反応出来ない。


成程なるほど……火薬の音でジャベリンの仕込みをかき消しているのですね。大した小技ですが、今のノヴァンにそこまでの大仕掛けが必要なんでしょうか……)


 一度フォルテザの砦にてランチアと共闘きょうとうしたドゥーウェンは直ぐに気付いた。電子機器にジャベリン……まるで毛色の違う武器を扱う両者。

 けれども頭脳に頼った戦闘スタイルという点で、互いに通じるものを感じているのだ。


 ―リイナさんにレイ……さん。見えますか、あの青い鎧の男(ランチア)が刺したジャベリンから伸びているものを。


「…………っ!」

「何だあっ、ドゥーウェン。手前テメェもあのローダって野郎の()が使えんのかよ?」


 不意に接触コンタクトで話し掛けられ戸惑とまどうリイナとレイ。特にレイに至っては慣れてないので、不気味がるのは止むを得ない。

 二人共、一度冷静に立ち返って、言われたままにジャベリンの辺りを凝視ぎょうしする。


「こ、これは……」

「へぇー、あの槍投げ野郎。これなら空中戦が苦手でも問題ねえって訳か」


 二人共、ランチアが用意したお膳立ぜんだてに気がついた。もっともリイナは不死鳥の力で自由に空を飛べるので、これはどちらかって言えばレイ向けといった所か。


「よっし、じゃあ俺が直々《じきじき》に援護射撃えんごしゃげきしてやっから、トドメは嬢ちゃんがやるんだぜ。判ったな?」

「……え、あ、は、はいっ!」


 一瞬リイナは戸惑ってしまう。この戦いにおいての彼女は少し力におぼれてる感がいなめない。

 それをリイナも反省していたからこそ、主役を張れという振りにどうしたものかと思ったのだ。しかし自分の頬をパンッと叩いて気合を入れ直した。


 ランチアが張ったワイヤーを蹴り上がりつつ、得意の拳銃で弾幕だんまくを張る。弾幕と言っても一撃が全て必殺の威力いりょくがある。

 しかも爆発音がすさまじく、レイがワイヤーを飛び移る音をノヴァンは拾うことが出来ない。


 まあどのみちノヴァンに出来ることは最早一つだけ。身体で唯一まともに動かせる首を上下左右に振りながら、炎と冷気を吐いてゆくだけだ。


竜の娘(リンネ)よ……せめてお前の目さえあれば……)


 いよいよらしくないことをノヴァンは思う。150年前には、首に騎乗きじょうしていた緑髪の娘に、つい想いをせてしまう。


 レイは自分に降りかかるブレス攻撃にすら、炎の精霊で強化した銃弾を連弾で浴びせて悉く貫きつつ押し通る。 

 リイナの方は常に気を張っているので通じすらしない。

 他のやかられていった分は自由の爪(オルディネ)のシールドが防ぐ。


 完全に万策ばんさく尽き果てた神竜。なれどそこは暗黒神ヴァイロつかいとしての意地を通す。


「オラオラオラオラオラオラッ!!」

「とりゃあああああ!!」


 ノヴァンの首を目掛けて、レイの銃弾爆撃が降り注ぎ、さらに拳を突き出したリイナが今にも当たろうとしている。

 ノヴァンの頭の中には、過去の思い出が走馬灯そうまとうの様によみがえった。


 ◇


「………ノヴァンよ」


 その名を呼んだのは、彼をこの世に召喚しょうかんしたヴァイロであった。


「ん、なんだ?」


 ノヴァンは主の顔を見る事なく、気のない返事をするに留まる。


戦の女神(エディウス)、そして奴のドラゴン。あれは強い。暗黒神などとまつり上げられてはいるが、俺はお前がいてこその存在なんだ。まるで自信なんかないんだ……」

「何だ、貴様程の男もそんな下らぬ事で悩むのか?」


 そう言ってノヴァンは目を細める。口でこそあおるようなことを言っているが、周りの子供達《愛弟子達》には見せない姿をさらしていることが少しだけこの竜は嬉しいのだ。


「………下らないか?」


 ヴァイロが固い表情のまま、質問を質問で返す(オウム返しする)


「嗚呼、実に下らんな……不愉快ふゆかいだ。私をこの現世げんせ投影とうえいしたのは貴様ではないか? 言わば我は貴様の現身うつしみ、我の力は貴様の力だ。その逆もしかり」

「……い、言いたいことは判るけどさっ」

「貴様が自分の力を信じないと言うのは、我の力も信じないのと同じ事」


 憮然ぶぜんとした態度のままにこの気弱な神に応えるノヴァン。言葉通りノヴァンとはヴァイロの影というべき存在。

 この優しく気勢きせいだけを張っている主の気持ちは聞くまでもなく理解している。この会話……実は独り語りをしているようなものなのだ。


「フッ……成程。すまなかったノヴァン。俺とお前でこの世で唯一の神になろう」


 ノヴァンの固い皮膚を愛しい家族のように撫でるヴァイロ。また心にもないことを自分は告げている。

彼も()()()()、可愛い弟子達(子供達)さえ守れればそれで充分満たされるというのに……。

 ノヴァンはフンッと鼻を鳴らすだけであった。


 ◇


(嗚呼、ヴァイ……我の片割れよ。我は先にき子供達と待つとしよう。何故マーダなぞに魂を奪われた? これでは未来永劫みらいえいごうえぬではないか。願わくば貴様の魂が解き放たれんことを。来世でまた共に暴れようぞ……)


 物凄い轟音ごうおんがノヴァンの喉を貫いた。不死鳥の力を借りたリイナの燃え上がる拳だ。

 彼女は拳を突き出したままの姿で、その鋼の喉に飛び込んだのだ。ノヴァンの首は自身の重い頭を支えきれず前に倒れ、引き千切れてゆく。


「ヴァイィィィィッ!!」


 ノヴァンがこの世に残した最後の言葉は、今のマスターではなく、過去の相棒の愛称あいしょうであった。黒い神の竜と恐れられたドラゴンの最期は、14歳の少女の手によって訪れた。

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