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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第6部『扉の潜む暗躍と暗黒神の忘れ形見』編
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第16話 思い馳せる竜と正義の参戦

「フ、フフフッ……」


 リイナは突然、気でも違ったかのように冷たい笑いを発する。普段の彼女なら決して見せない態度である。


「………回復の機会を与えない? 貴方、不死鳥フェニックスを知っているのかと思いきや本質をまるで判っていないのですね」


「………ごめんね、お父さん」


 それこそ絶対零度のような冷たい顔を黒き竜(ノヴァン)に押し付ける。そう思いきや声色を変え、身をていして救ってくれた父に対し、心からの謝罪しゃざいべるリイナ。

 そして凍傷を負ったジェリドの背中に触れる。一瞬背中が燃えたかに見えたが、火が消えた途端とたん、ジェリドの背中は、あっという間に元の肉体美に戻る。

 次にジェリドを軽く突き飛ばすように離れると、地面へと自ら落ちる。


「回復役は、やらせんと言っている!!」


 ノヴァンがリイナに向けて断続的な冷気のブレスを吐く。リイナの動きを先回りする様に、彼女の目前に冷気を置いていく。

 然しリイナは身体を燃やすと、にもかいさず、それらを突破とっぱして悠々(ゆうゆう)く。


「なっ!? れ、冷気すら効かぬッ!?」

「ほ、炎はおろか絶対零度すら、不死鳥と同化した彼女には、効かないというのですか………」


 これには流石のノヴァンも色を失う。此処まで150年前に魅了みりょうされた不死鳥の力とやり合える喜びが彼にはあった。この瞬間のために自分だけは生かされたと思いたかった。

 だがいざ玉手箱のふたを開けてみれば、此方の力が通用しないことを突き付けられた。

 もしノヴァンが日本の文化を知っているなら、正に自分は浦島うらしま………たもっていたと勘違かんちがいしていた若さはいつわりであったことを思い知った気分になるのかも知れない。


 一方ドゥーウェンは自分の心配が、取り越し苦労である事を思い知らされた。


(加えて不死鳥の回復の力は、詠唱えいしょうすら必要としない。彼女は既に最強なのかも知れない………)


「ご、ごめんなさいガロウさんっ!」


 凍傷で倒れているガロウの上にリイナが落ちる。やはり一瞬炎が大きく上がる。これではまるで死人を火葬かそうをしに行った様にすら見えた。


「な、何てこった………」

「ほ、本当に何度もごめんなさいガロウさん」

「………へっ! 元通りだからいいってことよっ! むしろ美味しい見せ場を貰った気分だ……って言うか余計な世話しちまったんじゃねえのか?」

「そ、そんな事は決してっ! 確かに不死鳥の能力をフルに発揮すれば炎も冷気も防げます。でも不意を打たれ………」


 ガロウはもう二度と動かせないとさえ思えた腕が、全く何ともない事を瞬時に理解した。リイナが目をうるませながらガロウの胸に飛び込む。

 またも在り得ない状況にガロウは、年甲斐としがいもなく少しだけはにかみながら強がって見せた。

 故郷(鹿児島)に残してきた愛娘『華恵はなえ』のことをふと思い出す。

 リイナが懺悔ざんげの代わりのように力の秘密を明かしそうになる所へ、刀蛸かたなだこの出来た無骨ぶこつな人差し指で、そのけがれを知らないくちびるをガロウがソッとふさぐのである。


 神のつかいと恐れられ、自らとて、その自覚とプライドを秘めていた黒き竜(ノヴァン)が少しだけ回想にふける。


 ―…………ば、馬鹿な!? とにかくあの不死鳥の小娘を………。いや違うな……。あの侍は我がブレスを二度も防いでみせた。まるで炎の化身のような男だ。

 ―そしてあの学者風情ドゥーウェン黒い爪(オルディネ)。自在に動き我を貫いたばかりか此方の攻撃すら封じる恐るべき能力。

 ―それにあの金髪のハイエルフ………。見た目は異なるが間違いなくあの傭兵ようへいの片割れ。戦のおける正義とは、こうもめぐるとは、いとおかしものよ……。

 ―そればかりではない………。此奴等の見事な連携で、我はあの子等から貰った翼をあっという間に失った。

 ―…………あの子等!? 嗚呼……竜の娘(リンネ)よ、子供達よ……。そうか………我はお前達から貰ったものを自分の力と勘違いしていたようだ………。


「おっと、余所見よそみはしない方が良いぜッ、竜さんよォ!」


 思い悩み、一瞬動きを止めたノヴァンを嘲笑あざわらうかの様に、ランチアが、脇腹の傷穴に何かを置いてゆく。


「さあっ、ぜろッ!」


 加えて火の点いたマッチも放り込んだ。凄まじい炸裂音が響き渡り、ノヴァンは、脇腹の激痛にうめいた。


「お、おのれっ! 火薬かッ!」


 呻くノヴァンを尻目しりめにランチアは、ニタァと嫌らしく笑うだけで応じない。


(ら、ランチア……アンタ。槍使いの……ラオの団長の威厳は何処いずこに……)


 その様子にプリドールは、呆れた真顔で頭を抱えた。


「最早小賢しい策は不要の様ですね。総員っ! 全力でかかれッ! 竜を駆逐くちくせよッ!」


 どこぞの戦艦の艦長を模したのか、ドゥーウェンが右手を振って命令口調で進撃を合図した。思わず自分の台詞に酔いしれる。

 そして自らも自由の爪(オルディネ)を再び、攻撃へ転じようとした。


「フフッ………ハハッ……フハハハッ!! 認めようではないかっ! 貴様等は我に相対するのに実に相応ふさわしいッ! 暗黒神マーダのためにあらずッ!」

「…………っ!?」

「な、なんだァ此奴っ? 痛みでどうかしちまったのかっ!?」

「我が本来のマスター『ヴァイロ・アルベェリア』とその子等『黒き竜牙りゅうが』の名を背負せおい、堂々と戦ってくれるわッ! 真なる扉使いに与する者等よ……全力で掛かって来いッ!!」


 ランチアの言う通り、急に気でも触れたかのように雄々(おお)しく笑い、宣言するノヴァン。何かが吹っ切れた(リミッター解除)……此処から本気、全開の勝負だと手前勝手に言い切った。


 加えてノヴァンは全方位に炎と冷気のブレスを吐き散らす。こんな攻撃意味を成さないかも知れぬ。

 だがこのまま何もせずに敗れてしまっては、自分を黄泉から見ている連中に合わせる顔がないと知る。


 ドゥーウェンの操るオルディネ達は、ノヴァンの残った左翼の根元に集中し、緑色の光線を放った。


ちろ」


 無常むじょうなるドゥーウェンの一声。余裕がにじみ出た顔つきで決め台詞を言った。残っていた左翼も遂に根元から落ちた。


 然しノヴァンは呻くのすら忘れ、ひたすらブレスに専念せんねんした。彼なりの最後の意地である。

 けれど皆、余裕でかわしてしまうのだ。史上最強の生物とは思えぬ実にみじめな姿である。


 だがこれ程までに全方位に撃ち尽くされてしまっては、自由の爪(オルディネ)によるフィールドか、不死鳥の能力をフルに活かしきれるリイナ以外、実は攻め手に欠けていた。

 しかも屋根や床の石材が炎によって溶岩のようになってゆく。上から降ってくる溶岩、地面も溶かされて降りることも許されない。

 いくら空中戦闘の訓練をして来たからといっても、空間認識能力というのは普段重力のある地面をアテにしている人間にとってそう簡単にやしなえるものではない。


「ウグッ!?」


 その時だった。オルディネ達を踏み台にして駆け上げる素早い人影。ノヴァンの顔の正面に出ると連続する銃声と、空になった薬莢やっきょうが地面に落ちる音がした。


 ノヴァンの両目が自身の血にまみれる、今度は光の精霊によるまぶしさなどによるものではない。永遠に両目を失った。

その痛みと驚きにノヴァンの声が漏れ、永遠かと思われたそのブレス攻撃が一瞬そのなりを潜めた。


 このアドノス島で拳銃を使ってこんな芸当が出来る者は、ただ一人しか居ない事をここにいる皆が知っていた。

 ただ……まさか彼女がノヴァンを標的にする事は、完全に予想の範疇はんちゅうを超えていた。


 わずかに溶け残った地面に余裕で降り立つと、彼女は次弾のカートリッジを装填そうてんしながらこう言った。


「何だ何だァ? どいつもこいつも楽しそうにしやがって。俺の撃つ所も残しておいておくれよ。これじゃあ弾が余っちまうぜっ」


 ニヒルに笑ったのは、間違いなくヴァロウズの二丁拳銃使い、スペイン語で法を意味するレイであった。

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