第10話 輝きの進軍 そして噛み合う二人組
ローダとルシアの初めての営みが、他の者に知られてきたのかは定かでない。時間は無常。あっという間に過ぎ去り、作戦当日の朝を迎えた。
闇属性の者達を相手にするのに夜襲という選択肢は有り得ない。日が登ってからが良いのである。
「……さあ皆の者、その陣の中に入るのだ」
サイガンが珍しく司令官の様な指示を送る。
大広間に彼が描いた複雑で、とても大きな魔法陣の中には、自ら戦陣に飛び込むことを名乗り出た面子が揃う。
ラオの守備隊団長、青い鯱ことランチアと、赤い鯱プリドールのコンビ。
元ヴァロウズのナンバー2の学者ドゥーウェンと、ハイエルフのベランドナのコンビ。
エディウスの天才少女司祭、森の天使ことリイナと、その父で元フォルデノ王国騎士団長ジェリドのラファン自治区出身コンビ。
エドナ村の民衆軍リーダーで『示現流・真打』を操るガロウ。
精霊魔法を身体に付与し、全身を武器にする武闘家ルシアと、完全なる扉の封印を6つ開封し、その際の相手の能力を引き継いでいるローダ。この9人の精鋭である。
「良いか、この転送の術は相手を急襲出来るのは勿論だが、万が一命に関わりそうな事があればこちらに連れ戻す事も出来る。寧ろその引き際の備えだ」
「こんな便利な術があったとは驚きだ。ローダ、これお前も使えるのか?」
ガロウがサイガンの解説を聞いてから、興味本位でローダに話を振ってみる。
「いや、残念ながら使えない。この力はおそらくサイガンが最近身につけたものだろう」
力なく首を横に振ってローダは、それに答えるのである。
「そういう事だ。私とてこの戦いのために思考と準備をしていたのだ」
「……後は全力で思う存分やって来い、そう言う事ですな。良いでしょう、もう文句は言いますまい」
ジェリドは微動だにせず、いつ転送されてもいい様に意識を高めていた。
「それにしてもこの鎧、軽いなあ……チタンって金属なんだってな? しかも俺の青い鎧と副団長の赤い鎧をしっかりと再現してくれている。実にありがてぇこった」
自分の鎧の胸を叩きながらランチアは素直に感心し、感謝を述べる。
「その辺りは2092年から持ってきた技術ですね。元々このベランドナに着せている物です」
ドゥーウェンから振られたベランドナが軽く会釈する。彼女は元々高貴な紫を基調とした装備であったが、今回から長い金髪に合わせたのか金色の肩当てと胸当てに変えている。
益々その神々しい美しさが際立つ装いである。
「皆、基本は此方の指示した通りの戦術だが、当然思惑通りには往かぬであろう。臨機応変な対応を期待する。では……そろそろ行くぞ」
そう言ってサイガンは両手を広げ、周囲の目には映らないキーボードを叩く。
叩いた所だけボタンの様な形をした光が飛び散る。皆の緊張が最大限に高まり、思わず息を飲む。
「プロトコル起動、転送位置へのルートを確認、接続完了……『転送』!」
老人は見えざるキーボードを一際力強く叩いた。
普段は手元なぞ確認せずに叩けるのだが、この時ばかりは思わず自分の手元を見てしまった。
この将来有望な若者達を戦場に送り出す事に戸惑いを感じたのだ。
そんなサイガンの気持ちを他所に、強者共はあっという間に光の粒となってその場から消えた。
◇
「うっ!」
フォルデノ城、王の寝室でほぼ全裸同然で横になっていたマーダは、一瞬頭痛の様な……然し初めての感覚に襲われた。
「ど、どうなさいましたかマーダ様」
フォウ・クワットロは主の異変を心配する。マーダは何も答えず、代わりに微笑みと抱き寄せで応じた。
(遂に動き出したか、これが彼等の圧力……ククッ、やる。恐らくカノンは支えきれまい)
◇
「な、何ぃ……」
カノンの砦に通じる道に土嚢を積んで作った塁に身を隠していたヴァロウズ3番目のトレノと5番目のティン。
ティンが思わず大きな声を漏らしそうになる所をトレノが手で制した。
10m位しか離れていない所に光の粒が現れたかと思いきや、その光は瞬時に集合し、2人の形を成したからだ。
代わりに無言で2人に飛びかかったのは、石で出来たゴーレムの一団。30体程もいる。そこいらの兵士であれば葬るのに釣りが出る戦力だ。
「炎の精霊達よ、我が拳に宿れっ!」
無手の女が精霊に呼び掛ける。白に赤い装飾が施された肩当て、胸当て、上腕部を覆った小手に、膝から下にはブーツを履いている。左胸に狼らしき影絵も描かれていた。
実に軽装であり、燃え盛る両拳を振り上げる所から想像するに全身を武器にする武術家でありそうだ。
1体のゴーレムが何も出来ぬまま左ジャブ一閃で爆散する。それを見て怯んだ次もお構いなしに右ストレートを叩き込む。
(へぇー、アイツやるじゃないか。あれが炎の拳闘士ルシアか)
ティンは身を隠しながらアレは俺が相手すると、ニヤつきながら勝手に決めた。
一方、もう1人の騎士風情の男。全身鎧でこそないが、上半身から腰の辺り、そして膝からブーツ状になった金属で被っている。
下地はやはり白ベースで赤い淵模様が入っている。腰には2本の鞘が刺してあるのが見える。此方も同じ狼が描いてある。
女の側と装いを揃えて如何にも白側を主張しているらしい。
その1本を右手だけでスラリと抜いた。青白く輝いている刀身。
気合の声も上げずに黙って剣を頭上高くまで振り上げると、襲いかかるゴーレムを頭の先から紙切れの如く斬って捨てた。
加えて振り下ろした剣を返す刀で次は上まで振り上げた。2体のゴーレムの切れ跡が信じられない程に美しかった。
(ほぅ……此奴がマーダ様を斬った剣士か。それにしてもこの2人だけなのか? 心地良い程に我等と噛み合うではないか。これは完全に見透かされたな)
この剣士も相当出来るが、向こうには余程頭のキレる奴がいるらしいと、トレノは勘づいた。
恐らくこの二人を相手取るのが石くれのゴーレムでは、話にもならないであろう。トレノとティンは暫し高みの見物を洒落込むと決めた。
白い女拳闘士の方は信じられない程に無駄な動きが一つもない。余り自分からは動こうとせず襲い来る敵を炎の拳一撃で仕留めてゆく。
まるでこの後に控えている敵との戦いを見越して温存しているかのようだ。いや、実際そうに違いあるまい。
第一同じ拳闘を得意とするティンが殺気立つ興奮を抑えきれていない。抑える気もない。
一方白の剣士は終始一貫、最上段からの振り下ろしと返す刀で最下段からの振り上げだけを一見馬鹿のように繰り返す。
女拳闘士とは真逆の相手を力で捻じ伏せる戦いぶりを魅せつける。
(……そうかっ此奴、一見派手の無駄打ちと見せかけてこれ以上の手の内を晒さない了見か。……にしてもこの最上段の打ち込み何処かで……。ハッ! 得物こそ洋刀なれどこれは示現かっ!)
トレノが剣士の思慮深さを隠していることと、その太刀筋から流派を見抜く。彼も気配を消す努力を無駄だと悟った。
この余興が終わった後にすべきこと……トレノはこれだけは譲れぬと早くも覚悟を決めた。




