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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第6部『扉の潜む暗躍と暗黒神の忘れ形見』編
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第9話 黒き竜の治める地

 カノン……アドノス島の南西に位置する山岳さんがく地帯。フォルデノ王国にとって自然の要塞ようさいとなっている場所である。

 その山はラファン自治区のそれとは、全く異なる切り立ったがけの様な岩肌だらけの様相ようそうである。


 フォルデノ王国が反乱を起こす前は、むしろ王国に対してにらみを効かせていた場所であったのだが、今ではすっかり王国を守備する場所と成り果てた。


 マーダはこの山に神竜……神のつかわし黒い竜を降臨こうりんさせたく用意したらしい。

 だが当時のマーダにはそこまで強きドラゴンを用意する所まで、なかなか力が及ばなかった。


 しかし意外な形でドラゴンが登場する。あのリイナが信ずる女神エディウス。

 彼女は不可全な扉を持って150年程前にこの地に現れた。その錬成術れんせいじゅつで白鳥の如き白い竜を錬成し、騎馬きばならぬ騎竜きりゅうとした。


 加えてもう一人、今やマーダすらその力をたよる暗黒神ヴァイロ。

 彼もエディウスと同じ錬成術に彼なりのひと手間(ユニークさ)を加え、黒き竜を召喚した。黒き竜……ノヴァンと命名されたそれは、エディウスの白い竜……シグノの力を凌駕りょうがする。

 このノヴァンこそマーダが欲していたドラゴンをそのものを体現たいげんしていた。

 黒き竜(ノヴァン)に単騎で劣勢のエディウスは、何と白い竜(シグノ)を量産しこれに対抗したといわれる。

 こうして後世こうせに語られる神竜戦争が勃発ぼっぱつする。


 大戦というのは悲しきかな、いつの世でも人間を発達させる。この戦の最中さなかで不完全な扉の力に目覚めた者が数人現れ、そのはかなき命を散らしていった。


 エディウスはその者達を取り込み、さらなる強大な力を手に入れたと後世に伝えられている。

 この二人の争いをマーダはたくみに利用し、暗黒神ヴァイロの乗っ取りを計画し見事に成功した。


 この戦争の勝利者となったエディウスは、ロッギオネ神殿にまつられ、アドノスで初めての神となる事を許された。


 暗黒神ヴァイロを取り込んだマーダは、暗黒神マーダと自らを改め、黒き竜(ノヴァン)もそのまま彼の者となった。しかし此処で一度、彼は歴史の表舞台から姿を消す。


 彼はこのアドノスが誰か一人の強大な手に落ちようとした際、こうして現れては、治めを繰り返して暗躍あんやくしたと伝えられている。

 だが本来の目的は既出きしゅつした通り、不完全な扉使いを一人でも多く取り込んで自分の力とするためであった。


 ただこの島の創造主として護ろうとする意識もあったらしい。所詮は周囲を海に囲まれた島国だ。島の平和が乱れている際に他の大陸から攻め込まれては一溜り(ひとたまり)もない。


 この辺りからフォルデノ王国と6つの自治区による他を侵略しない歴史へと移行するのだが、この歴史にもひっそりと関わって天秤てんびんのような役割をしていた。

 かつてガロウが語った通り、乗っ取った相手の姿形で。


 話がカノンの事から外れてしまったが、その黒いドラゴンが今、カノンを守護しているヴァロウズ9番目の竜『ノヴァン』である。


 暗黒神ヴァイロから神の遣いと言っても過言かごんではない能力と、人語を容易よういかいすドラゴンであるが、マーダにとっては何故か9番目なのである。

 勿論ノヴァンとて面白くはないが、彼にとって人間の考えることなぞ児戯じぎに等しい……正直どうでもいい。


 そこに援軍えんぐんとして現れた3番目の剣士(トレノ)5番目の女戦士(ティン・クェン)にも興味は皆無かいむ。それはトレノとティンにとっても同様である。


 主人マーダの命を受けない限り、基本単独で好きに戦うのがヴァロウズの戦士達なのだが、トレノとティンはずっとコンビで行動している。

 ……と、言うよりティンが勝手に付いていってる感じであった。


「しかし納得いかないねえ……」

「何がだ?」


 カノンの急斜面に立った砦でノヴァンの黒い巨体をながめつつティンは舌打ちする。

 隣のトレノは顔を向けずに抜いた愛刀の刃を眺めながら不愛想ぶあいそうに応じる。


「だってそうだろ? これから例の剣士達が攻めてくるんだ、どうせなら最終決戦ラストバトルで全力の奴等と戦いたい。そうは思わないかい?」


 ティンにしてみればこんな辺境へんきょうでなく、敵の本拠地(フォルテザ)あるいは自分達の居城であるフォルデノ王国で戦いたい。

 これではまるで厄介払やっかいばらいで飛ばされたようなものだと言いたいらしい。


「何を言うかと思えば……奴等を此処で、しかも()()だけで迎え撃って倒してくれと言われたのではないか。ほまれではないか」


 呆れ顔で「我等だけ……」と言い放つトレノは、そこのドラゴン(ノヴァン)を数にすら入れていない。とんでもない豪胆ごうたんさである。


「そっ、そうかも知れんが、じゃあマーダは自分の守りすら要らんって言うのかい?  まさか、あの4番目の情婦(フォウ)にやらせる気か?」


 両腕を組んでほおふくらませるティン、まあ彼女の言うことも一理ある。ヴァロウズの数は残りわずか。

 彼女の知る限り、残るは4番目の魔導士(フォウ)と得体の知れない1番目。それに雑兵だけの筈。

 マーダをして「我の元で大いにはげめ……」と言って欲しかった所だ。


「……お前、まさか知らんのか? マーダ様をフォルデノ城で常に守るヴァロウズのナンバー1、『ノーウェン』の事を……」

「あっ? そりゃあ名前位は知ってるさ……そいつそんなにやべぇのかよ」


 先程まで全く興味のなかったトレノの声量が急に上がる。対するティンの方が如何にも面白くないとつばを吐く。


「俺は一度だけ姿を見た事がある。他のヴァロウズが束になってかかっても、歯牙しがにもかからない程の実力者らしい」

「いやいや……お前言ってる事可笑(おか)しいだろ? 姿を見ただけで何で言い切れるんだ?」


 実に至極しごく真っ当なティンの疑問がぶつけられる。


「……あんな者は見た事がない。一見ただの魔道士風……なれどアレは普通の人間が放つ気配けはいとは明らかに異質……一瞬で身が凍りつく思いがした」


 実に気味が悪いと言いたげに、トレノが身体を少しふるわせる。ドラゴンすら眼中がんちゅうにしない男が、ただの人間一人を恐れている光景は、確かに異常だった。


「……お前ほどの男ですらそう思うのか。そいつは確かにヤバそうだな」


 言葉とは裏腹うらはら舌舐したなめずりするティン。俄然がぜんナンバーワンとやらに興味がいてきた。


「一応忠告するが変な気は起こさない事だ。アレは俺達のはかりに載せられるものではない。何より先ずはこのカノンでどう戦うかだけに集中しろ」

「へいへい、判ってるよ……トレノ殿」


 ギロリッとにらんでトレノが告げる。肩をすくめてそれを受け流すティン。これにてこのお喋りは幕を閉じた。


 ◇


 場所は再びフォルテザの砦。カノン攻略戦を明日に控えた状況下でルシアは一人、途轍とてつもないことに気付く。

 自室でこれまで経験したことのない奇妙きみょうな体調の変化を感じていた。


「こ、こんな日が私に訪れるだなんて……。た、タイミングが悪過ぎるよ……」


 本来なら喜ばしいことなのかも知れないが、この状況ではそうとも言いがたい。そもそも自分の身体にこんな事実が降りて来ること自体が想定外なのだ。

 今の気持ちをどんな感情で表せば良いのか判らず、真っ直ぐな彼女らしくもなく途方とほうれる。


「これを告げようものなら私は戦列から外されるかも知れない……」


 ローダの背中を守る役目を果たせなくなる……。それは彼女にとって存在意義そんざいぎ喪失そうしつを意味する。


「で、でも……言わなきゃ。あの人にだけは……」


 ルシアは自分の身を引きずるように自室を出てゆくのであった。

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