第7話 繋がろうとする思いと想い
ローダとルシア………あらぬ疑いを掛けられた二人。ただ火のない所に煙は立たぬの典型とも言うべきこの二人の立ち振る舞いが悪過ぎた。
サイガンは気を取り直すと「いよいよカノン……。フォルデノ王国を守る最後の砦を奪取する作戦に打って出る」と力強く強者共に告げた。
しかしその前に自分の罪を打ち明けて、それでもついてきてくれるのかを聞きたかったらしい。
ガロウなどは寧ろ楽し気に「何を今さら………」と返答し、ジェリド辺りは「俺は正直未だに納得してはいないが、アドノスを奴等の手から救い出すという意味では問題ない」と少しだけ釘を刺しながら了解した。
他の者もカノン奪還に対して不満は出なかった。
それからサイガンが「そろそろ潮だな………」と気持ちを吐露したもう一つの理由に「私が殺したようなものだ………」と語ったジオーネの死と、エドル自治区のカスード家にまつわる因縁がある。
知って通りサイガンに血の繋がった本当の子供はいない。だがロットレン家の親類がサイガンが生まれるより昔から、後にエドルと呼ばれる地域に多く住んでいた。
彼等にも人工知性プログラムの雛形が巡り巡って回って来ていた。遠い血筋とは言えどサイガンと同じ遺伝子構造を持っていてもおかしくはない。
だから彼等も『接触』などの心を繋いで通じる力を持つに至ったのであろう。
さらにカスード家の初代が不完全な扉の力に目覚め、妻を生き返らせたいと研究を重ねた末に『不死鳥』を創り出したという訳だ。
ただ言うことを聞くとは限らない人工知性が生み出した不死鳥も、結果言うことを聞かなかったのというのは中々に皮肉が効いていた。
◇
翌日から早速カノン攻略のため、各々の準備が始まった。特にドゥーウェンのそれは画期的であった。
彼は既に6つの封印を解いたローダの中に潜むAYAMEに目を付ける。もう半分以上の封印を解いたローダのAYAMEは最も進化している筈。……未知数のマーダを除けばの話だが。
ローダの意識を数値化した次の仕事は、AYAMEのバージョンアップであった。勝手に進化し続けるナノマシンと中に潜むこのプログラムだが、作成者がカスタムをした訳ではない。
ドゥーウェンの試みが成功すればこれはVer2.0と言っても差支えはないだろう。だがそうも易々と熟せる作業であるのだろうか。
カノン攻略戦までの時間はそれ程長くはないのだ。
◇
そしてさらに数日が過ぎ、皆の調整も終わりが見えていた。準備はいくらやっても万全とは言い難いが出来る事はやった。
残り一週間はあえて無理をせず自由にせよというのが、サイガンの指示であった。
ローダは夕飯と入浴を済ませると、さっさと自分の部屋に戻っていた。特に何をする訳でもなくベッドの上で寝転んでいる。
「兄さん……」
一言呟いてみる。俺は兄さんを本当に救い出せるだろうか。仲間達には何の文句も付けようがない、これ以上を望むなど罰が下るだろう。
後は俺の出来る事を全力でこなすだけ。そんな判り切った思いを堂々巡り。そしてそのまま眠りにつく。
これを最近、毎晩取りつかれたように繰り返し、恐らく今夜もそうなるだけと思っていた。
不意にドアをノックする音が聞こえてきた。
「………ご、ごめんね。まだ起きてた?」
尋ね人はルシア、向こうも寝る前らしく、袖は長いが薄い生地の寝間着姿だ。身体のラインが良く判るので、つい目で追ってしまう。
さらに皆から大いに勘違いされたルシアの背面からの抱き寄せを思い出す。あの時の感触がその頼りない生地の中にあると思うと、良からぬことを考えずにはいられない。
今夜はいつもの暗いルーティンが壊れる予感がした。
「あ、ああ。大丈夫だ。なんだい?」
「ちょっと……話がしたいなあって思って………入ってもいい?」
言いながら部屋の中を覗き込むルシア。ベッドと机、剣と鎧。それ以外は何もない薄暗い部屋だ。
一方平穏を装っているローダだが、これも所詮は女性を求めるただの男だ。心臓の高鳴りを顔に出さないよう必死に取り繕う。
「ああ勿論………ところで後ろに何隠してんだ?」
ルシアの背中を覗き込むことで自身の動揺を隠そうとする。
「ジャーンッ!」
ルシアは美味しい方の赤ワインを2本、突き出して見せびらかす。酒があまり好きではないローダ。これにはちょっとクラッと目眩を感じる。
けれどこれは付き合おうと覚悟する。旅装の中からカップを2つ引っ張り出して、そして部屋に上隅に吊るされたランプに明かりを灯す。
その揺らめきを見ながらルシアは、共に焚火を楽しんだことを思い出した。
まるで自分が部屋主の気軽さで、ルシアは勝手にベッドに座った。少し距離を置いてローダも座る。そして互いに飾り気のないカップにワインを注ぎ合う。
「「乾杯!」」
旅装向けの鉄製のカップだ。世辞にもグラスのような良い音は出ないが、お互いの高鳴る想いがそれを補ってくれた。
ルシアの顔がやっぱり直ぐに真っ赤に染まる。
「ゆっくり、ゆっくりやろう……」
「判ってるよ、そんな事」
以前触れたがルシアは酒が弱い癖に呑むのが好き。ローダは飲んでもあまり様子が変わらない。
とにかくローダよりもマウントを取りたいルシアにとって、これが実に面白くない。
だが此処で先に酔い潰れては愚の骨頂だ。渋々《しぶしぶ》部屋主の提案に乗ってやることにした。
「……あれから1年位かなあ? エドナ村で貴方と知り合ってから」
既にほろ酔い加減のルシアに言われて、ローダは少し当時を振り返ってみる。
「そうか、確かにまだ1年だな。あれから色々在り過ぎてもっと昔の様に思えた」
「そう、私もそう思った!」
酒が入ろうとも取り繕うのを諦めないローダにルシアは前のめりで突っかかる。しかし流石に恥ずかしくなったのか黙ってしまう。
ルシアが黙ればローダもまるで人の声を真似るインコのように静かになる。
「………ね、ねえ?」
「んっ?」
「あ、あのね……あの時の私の第一印象ってどんなだった?」
自然先に沈黙を破る役目はルシアに回る。ルシアお得意の上目遣い、エメラルドグリーンの瞳は酒のせいなのかいつもより余計に潤んで見える。
これだけでも赤面ものなのに、出会ったあの頃の想いも重なり遂に平静でいられなくなりそうだ。
「き、綺麗だ。そう……思った」
「どこが、どんな風に? もっと具体的に頂戴っ!」
いよいよ小悪魔ルシア、進撃の合図だ。気がつけばグッと互いの距離も詰められている。
「えっ……そ、そこまで言わせるのかよ」
「うんっ、勿論」
たじろぎ気味で腰毎身体を後ろにずらしたローダだが、相手は容赦なく津波の如く打ち寄せる。
その屈託のない笑顔でローダの心の垣根《堤防》を次々と壊してゆく。
「さ、サラサラな……か、髪の毛が綺麗で………」
「うんっ」
「ボブカットがいいなあって思って、そして緑色の大きな目が……」
「うんうんっ」
ルシア笑顔の進軍は留まる事を知らない。ローダの心中は、ルシアという海中に沈みつつある。
「うわぁ駄目だぁっ! こんなの恥ずかしくて言えるかぁぁ!」
「えーっ! 恥ずかしい!? フーンッ……一体どこを見ていたのやら……」
ルシアが破壊力抜群の赤ら顔をグイッと寄せて来る。遂に二人の距離はゼロになった。
「そ、そんなんじゃないっ! そういう事じゃないっ!」
「ぜ~~たっい、嘘だあ。嘘つきだ。男なんて、大抵こんなとことか、こっちの方とか意識するに決まってるじゃない。ホラッ! 怒らんから正直になれっ!」
両手で突っぱねて、頑なに否定しようしたローダであったが、ここまでされては、正常な男子として意識するなという方が無理である。
ローダは無言でルシアを抱き締めると絡んだまま、ベッドにとうとう押し倒してしまった。




