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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第6部『扉の潜む暗躍と暗黒神の忘れ形見』編
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第5話 神を否定した老人が認めた奇跡の存在

 このマーダとルイスの邂逅かいこうについて、他の者は誰も知らない。けれどもこうしてマーダ……というよりルイスによって、黒い剣士の扉は既に開かれていた。

 そのようにサイガンとドゥーウェンは確信している。

 加えてその扉によって、サイガンの良い加減な世界史を元に、この世界が再構築されたこともだ。


「ところで最初のマーダを創ったと言っている西暦2092年だが、この現在から何年前を指しているのだ? 何せあたいはアドノス歴354年という物差ししか知らんのだ」

「ああ……これは済まない、確かにそれを伝えておらなんだ。丁度、354年前。要はマーダの生誕がアドノスの歴史そのものと言って差し支えない」

「さっ、350(さんびゃくごじゅうぅ)!?」


 眉をひそめながら未だに判らんといった顔で質問するプリドール。これに対し首だけを下げて、正解を述べるサイガン。ガロウがその年数に驚き舌を巻く。


「説明をおぎなわせて頂きますと、色々な人間との意識を共有し、|完全な扉の力を開く可能性を秘めた《ローダのような》存在が、出現にするのに350年はかかるという試算が出たのです。これはいよいよ60年以上に待っていられないということで……」

「……御二人はまたもコールドスリープとやらを使ったということですね」


 サイガンの言う354年間もの時間について、ドゥーウェンは付け足しをする。リイナが呆れ顔でその説明を勝手にうばう。


(正直在りえない……この二人はどうかしている。人々をだまして最初のナノマシンを接種したことは自分達が最初の実験台になったのだから百歩譲るにしても……)

(マーダが怒りに任せ世界を破壊し始めたというのに、最初の候補者が出現するまで自分たちは寝て待っていようだなんて……)


 これはリイナの二人に対する本音である。次の自分からの質問に対する返答次第によっては二人のことを支持しじ出来なくなるであろう。


「そうまでして御二人が見たいとする10の封印全てを解いた真の扉使いの力とは一体何なのでしょう?」

「リイナよ、お前さん怒っておるな……まあ無理もなかろう。真の扉使いとは、前にも触れた通り、この世に生ける全ての者達と考えを理解出来るようになるだけでなく、如何いかなる力を発揮はっきするのか……」


 これこそリイナが二人にたずねたい本来の内容である。勿体を付けてサイガンは中々正答を出そうとしない。


「これまでに実在した個人の力や兵器だけなく、とある物語上にしか登場しない想像上だけのものすら具現化ぐげんか出来るようになる」

「す、全てのありとあらゆる力を自由に……!?」

「うむっ……。故に我等は、資格のない者が覚醒かくせいすることを恐れ、10の封印を設けることで試すようにしたのだ。それこそ一体何の権限あってまたも勝手なことを……。そうせきを問われても仕方がないが」


 自分の行いで生まれつつある真なる扉の力について、被告人のようにサイガンが述べる。

 しばらくの沈黙……。此処にいる誰しもがどう話を続けたら良いのか。いや、独りだけ喋りたくてウズウズしつつもその時(タイミング)を見計らっていた者がいる。


「……何となくさっきまで聞いた内容で話は読めた。マーダ……いや、正確には兄がマーダとこれまで彼が得た能力者達に働きかけ、かなり強力な扉を開いたのだな」

「ろ……」

「「「ローダッ!?」」」


 ルシアが驚き声の方を振り向きざま、名前を言い掛ける。それに被せて皆が驚きの声を隅にたたずんでいた青年に浴びせた。

 サイガンとドゥーウェンの頭の中を読む……。そんな芸当は今の彼には未だ出来やしない。しかし最初の真の扉を開く権利を有する彼ならば、その位の考察こうさついとも容易たやすい。


「俺は他国からこのアドノスに来た人間だ。幼き頃に学校で習った世界史は酷く曖昧あいまいなものではあったが、東国の侍達と幕末の戦乱……。それはもう500年は昔の出来事だった……」

「な、何だとっ!? 俺がうそをついているとでも言うのかローダっ!」

「いや……そうは言ってない。サイガンが特に愛し、マーダも望んだ日本に書き換えられた所からガロウは、此方アドノスへやって来たのだ」


 ローダは勝手に理解したことを説明する。それに腹を立てたガロウであったがさとされると「判らんっ! ……が、もうどうでも良いっ!」と開き直って床の上に転がった。


「しかも得た能力、一つではないらしい……。そうだなサイガン?」

「ハァ……。いやあくまでも全て憶測おくそくの域を出ないのだ。だがそうでなくては説明がつかんことが多過ぎる。例えばつい今しがたまで戦っていたオーグリスのセイン……」

「……セインっ! あの変身能力を有していた……」

「化けるだけならただのオーガにも出来る。だが相手の能力をコピーする……あんな芸当出来る訳がなく、恐らくマーダが分け与えたと考えるのが自然なのだ」


 真の扉の継承権を持つ男に質問をされて困り果て、サイガンは溜息ためいきと共にドゥーウェンと顔を見合わせる。

 最早もはや、扉の力という未知の能力を持ち出さないとどうにもならないという無能さを露呈ろていしているのに過ぎないのだ。

 リイナが先程の奇妙きみょうな戦いを思い出す。マーダは既に覚醒かくせいしている。完全に覚醒する予定のローダ程ではないにせよだ。


「エドナ村で奴と戦った時の記憶は、狂戦士バーサーカー化の影響で未だに思い出せないが、俺は中にひそむ兄ルイスの声を聴いた……」

「あ……前にもそんなことを言ってたね」

「……だがそこまでルイスが干渉かんしょうしたのだとすれば、今頃マーダの意識と入れ替わっている可能性が高いな」


 淡々(たんたん)と考えられる状態を口にするローダだが、ルシアには彼の苦悩が透けて見える気がした。

 兄と戦うのではなく、兄=マーダと判り合える存在になりたいと力強く語った当時のローダ。

 しかしいよいよ次に相対するときには、尊敬する兄として接して来るかも知れないのだ。

 そうなったとしてもローダは甘っちょろい理想を、果たしてつらぬけるのであろうか……。


「先生や私のしてきたこと……。そしてローダさんを始め皆さん、いや、世界中の人間にナノマシンを植え付けたことで巻き込んでしまったこの結果。これを罪を言うのではあれば当然それは受けます。ただ……」

「ただ……何ですかドゥーウェンさん?」


 師であるサイガンと異なり、人工知性を生んだ功績こうせきを盾に誇った物言いを続けてきたドゥーウェンであったが流石に少し落ち込み始めてくる。

 話を切るように「何ですか……」と強い口調で口をはさんだのはリイナである。やはり彼女にしてみればこの二人が技術を傘にやってきた行いの罪は大きい思わざるを得ない。


「……話に割り込んで済まないが、これだけは私から言わせて欲しい。『loader(ローダー)』という言葉がある。これはコンピュータプログラムの種類や機能の一つで、データやプログラムを外部から読み込むものだ」

「ローダー……。まるでローダの名前そのものじゃないか?」

「そうなのだよ赤い鯱(プリドール)。ローダよ、お前がその名前で私達の前に現れた時、あれ程毛嫌いしていた神を信じざる得なくなった。マーダの方は恐らく私が付けた名前ではないかと邪推じゃすいしたことであろう」


 此処は……此処だけは特に自分の声で想いを届けたいと、ドゥーウェンの言葉をさえぎった老人サイガン

 さらにエンジニア時代の専門用語を持ち出す訳だが、それが余りにもこの寡黙かもくな青年と酷似こくじした名称なので、判らないなりに聞き漏らすまいと、他の連中は聞き耳を立てる。


loader(ローダー)……。外部から読み込む()が現れた。似たようなことを幾度いくども言うが、真なる扉の力を得れば、如何なる力、存在、それが無尽蔵むじんぞう()()()()()……」

「す、すげえ偶然だなッ! そいつはッ! 俺様ですら神様に手を合わせそうになるぜッ!」


 サイガンの受けた印象を聞いて興奮する青い鯱(ランチア)。大きく何度も頷いて、思わずニヤついてしまった。


「そう……そうなのだ。ローダ……。お前ならばこの子供の妄想のような想いを現実カタチにしてくれやも知れん。正直救われた想いがしたのだ」


 改めてローダの方へ身体毎向き直り、声を掛けるサイガン。その背中には神の如き力を編み出した者の自信は皆無の丸びを帯びた、ただのくたびれた老人の姿があった。

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