第4話 黒い剣士は既に覚醒していた?
人に対して絶対服従の人工知能に違をとなえ、人工知性なるものを開発。
それをウイルスのように人々を感染するナノマシンに載せて自己進化させる道を選ぶ。
こうして無事進化した人工知性を載せた人造人間マーダを製造。
これで終わりかと思いきや、進化したナノマシンと人間の意識が繋がる事で、人間一人では到底成し得ない奇跡の力『扉』を偶発させることに気づいた………。
余りに話が辺鄙でかつ、飛び過ぎているので理解が中々追いつかない聞き手側である。
「……ま、待って下さい。宿主である人間とナノマシンが統合する事で発生する可能性がある『扉』……」
「……そうです、リイナさん」
「…で、あればマーダには人側の意識が存在しない。だから『扉』は発生しないのでは?」
実にもっともらしい疑問を投げかけるリイナ。これでローダの疑問であるマーダが開いた不完全な扉の話に辿り着くかと思われた。
だがそうではない。この先サイガンが答える辺りは、ローダとて知り得てる話なのだ。
「そう……その通りだ。だが想定外が起きた。いや…寧ろ奴の側に立てば、そう動くと我等は気づくべきだった…………」
此処で以前、ガロウがローダに語ったマーダという特異な存在の話を思い出して頂きたい。
ローダが暴走のうちにマーダと相対した後、ルシアからその一部始終を聞いた。
さらにその後に現れたガロウが告げた怪しげな語り「マーダとは他人の身体を乗っ取りながら生き続けている……」この件である。
これは真実であり、ローダとてサイガンの意識の海の中で既に拾い上げたことなのだ。
「意識も魂すらも持ち得ないあの黒い剣士は、自らより優れた能力者……即ち不完全な扉を持つ者を見つけては、乗っ取りを仕掛け続けたのだ……」
「然しこれでは扉の力に目覚めたとは言えません……」
「あっ…………」
「そうです、扉の力を強奪する道を彼は選んだのです……」
相変わらずサイガンの顔は、曇り続けたままである。一方、生徒であるドゥーウェンの方は、悪びれた様子もなく淡々と、それこそAIの返答といった声で、他人事として語る。
生まれたときこそ持てはやされたマーダであったが、扉を持てない存在であることが判明後は次第に相手にされなくなっていった。
実に不愉快極まりないマーダは、出来損ないとしての存在を発揮してゆく。
他人を魂と肉体ごと奪い、扉の力を得ようとしただけでなく、手にした力をフル回転させ当時はまだ、アドノスではなく『イタリア』の『シチリア』と呼ばれた島から順に、破壊の限りを尽くしたのだ。
今のアドノス島、エドル自治区の東に存在したというエトナ火山が、地図から消えていることだけでも、彼の暴れようが尋常ではなかったことが窺い知れる。
彼は現在、暗黒神マーダと名乗り、その魔法をフォウなどの魔導士達にも与えているが、この暗黒神の力とて、かつて他の者から横取りした力の一つに過ぎないのだ。
「お、俺が風の噂に聞いた色んな姿で現れたマーダってのは、実際の話だった!?」
「……全てが合っている訳でない。例えばカノンで猛威を奮ったのは、竜騎士ではなく竜を生み出した魔法剣士だ。それに猛威を奮ったというのも誤解だ」
ガロウが一人興奮し、拳を握って立ち上がろとしたが、冷ややかな声と視線でサイガンが指摘を入れた。
とにかくそれ程までに不完全な扉使いの力を得ようとも、結局自分の力だけでは扉を開けないことに絶望したマーダ。
だが約4年前……丁度ローダの元を去った兄ルイス。彼を手に入れてから運命は変わり始めた……。
◇
4年前、ルイスの類まれなる近衛騎士の才能ごと奪い取ったマーダは、自分の奥底にしまい込んだ者から声を掛けられる。
― 本物の力が欲しいかい? 黒の剣士。
唐突に若い男の声がマーダの頭に直接響いてきた。暗黒神ですらある自分を小馬鹿にした態度が透けて見える。
「……な、何奴だ貴様っ! 我の中から話し掛けるなどとっ!?」
―フフッ……そうかい。やはり君は名前通りの出来損ないだ。僕はルイス・ファルムーン。たった今、君がお気に入りにしている身体の元持ち主さ。
「フンッ、身体を我に奪われた負け犬が一体何用か」
―扉の力……欲しくはないかい? 出来損ないの君。
「と、扉だと!? クッ! 何を言い出すかと思えば……。そもそも何故貴様如きがその力を知っている? 貴様、ハズレではなかったのか!?」
―失礼なことを言う……。まあ……そんなことは、この際どうでもいいさ。10人には満足らず、ハッキリ言って質も悪い。
マーダが何故ルイスを制したのか? 彼はルイスこそ真の扉を開けられる可能性のある最初の人間であると見誤ったのである。
なれどあろうことかこのルイスという輩。マーダが取り込んだ不完全な扉使いの数を理解し、そのランク付けすら終わったような事を言ってのけた。
―僕なら彼等を纏めあげて、そこから限りなく本物に近い扉を生み出せる。
「ぬかせ………。そ、そんな話誰が信用するものか」
本来なら欲しくて仕方がない提案だ。何しろマーダはサイガンに創られて以来、実に350年程もそれを望んできたのだから。
―信じて貰えないならこの話は終わりだよ。ま、もっとも僕がこれをやったが最後。君の意識はジワジワと失われ、やがて僕のものにすげ変わる。
「ま、待てッ! 信じて良いのだなその話」
―嗚呼、良いのであれば着実にやり遂げるさ………。でも本気かい? 君が世間から失われても?
一応の確認をする思念体のルイス。尋ねられた側は、引きつった笑いを見せた。
「………我の手だけでは何れにせよ手に入らぬ力だ。もう追うのも飽きた、何しろ良い加減出来損ないを卒業したい」
―了解したよ、成程………曲がりなりにも神になった君さえ届かぬ力か。良いだろう、ではせめて君の意識が削がれる前に、一つだけ扉の力を選択する権利を与えよう。
「権利……我が扉に望むものか……」
この提案にマーダが暫く両目を瞑って黙り込む。例え力を手にしても自分は何れ使えなくなる。
「ならばこの我に世間の時代を好きに決めさせてくれ」
―………ちょっと話が見えないのだが。
「例えば此処より遥か東に位置する日出る国、幕末と呼ばれたこの国で最も戦乱と進化、そして世界的に比べても崇高なる意志を持つ戦士である侍が生き残っている時代にしてくれ」
―ふむ……?
それからマーダはさらに世界中の様々な国々の時代を指名していった。
イタリアはマフィアが最も栄えた年代、スペインでは警察に自動小銃が配備され始めた頃……と、いった具合だ。
―……一向に構わないけど、何故そんなものを望むのか聞いても良いかな?
思念体のルイスが頭を大いに捻る。見えない存在だから捻るというのが適切なのかは判らない。
「判らんだろうよ貴様には。………我はこれ迄この島国のみならず、全世界の創造主になりたかった。だから爪痕位残したいのだ」
苦笑混じりに答えるマーダ。実を言うとこの偏屈な世界観は、幾ら殺しても飽き足らないサイガンから継いだものだ。
そればかりは口が裂けても言えやしない。そして心の中に住むルイスにバレないようにと願うのだが、これは流石に叶わないだろう。
これこそがドゥーウェンが「先生の適当な世界史に塗り替えられた」と言っていた話の真相なのだ。
ちなみにその後マーダは、世界を転じて、ヴァロウズになる連中を拾って来る。
ガロウが幕末に揺れる故郷を後にしたのも大体この頃という、何とも都合のいい奇跡が、世界を繋いだのであった。




