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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第5部『不死鳥』編
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第13話 ジオーネ・エドル・カスード

 翌朝、此処はフォルテザ砦の遺体安置所。ジオーネが綺麗きれいな顔で永久とこしえの眠りについていた。ローダ、リイナ、ルシア、ジェリド、ガロウ、プリドール、そしてサイガンがその安らかな死に顔を複雑な思いで眺めている。


 ローダとリイナは昨夜の出来事、そしてそもそもジオーネが彼等《エディンの連中》に帯同たいどうを申し出た本来の理由を説明した。


「そ、そんなの、あ、余りにも悲し過ぎるじゃない。こんな小さな身体で全てを背負って……」


 ルシアは悲しさの余り、すすり泣きながら言った。皆の顔色も雨雲がかかった様に暗かった。


「そう……ですね。でも、私は彼の気持ち、少し判る気がするんです」


 リイナはその雲間に光を指す様な事を告げる。


「ど、どうして?」


 涙をぬぐいながらルシアは、リイナの次の言葉を待った。


「確かに元々は一族に押し付けられて、始めた事だったのだと思います。でもそれが最早もはや自分の存在意義になってしまった……」

「だ、だからそれが在り得ないって話を……」

「ただもし仮にルシア姉さまが、今の能力と引き換えにその命を削られると知ったら、寿命と力、一体どちらを選択しますか?」

「そ、それは………」

「俺なら力を選択するな、存在意義……ってのは良く判らんが、仲間や家族の命を守るために必要な力だ。到底とうてい捨てる訳にはいかん」


 自分の力……それはすなわち存在意義。自分を示すものと残りの命を天秤てんびんに掛ける。そういう問い掛けをリイナはしている。


 これに対しルシアは口籠くちごもり答える事が出来ない。代わり……という訳ではないが、思いの丈をガロウが返事した。


「……そうだな、それが人間という生き物の本質サガだ。私もその様な分岐ぶんきがあれば、迷わず力を使う方を選択する」


 加えてサイガンが答えを拾った。彼程自分のを通して生きている人間もいないであろう。彼の場合はちょっと振り幅が大き過ぎる感がいなめないが。


「はい……私も自身に問い掛けた結果、大体同じ結果でした。エディウス神の信仰を止める事……は、実のところやれるかも知れません。けれど結果それで大事な誰かが不幸になるとしたら……やっぱり駄目でした」


 周囲に対し少し暗い表情で「不幸になるとしたら……」とまで言ったリイナであったが「やっぱり駄目でした」の所で自嘲じちょう気味の笑顔に変わった。


「……それに私の中のジオがこう言っているのです」

「それは……どんな?」

「………僕は確かに辛かった。もっと年齢を重ねながら、ゆっくりと不死鳥と歩む道もあったと思う。でもそれでは黒い剣士(マーダ)達との戦乱に、自分の力を間に合わせる事が出来なかった。そして何よりもこの力を引き継ぐ事が出来たのだから、それなりに満足しているんですよって」


 リイナが語るジオーネの想い。それぞれ思う所はあれど、彼の気持ちも理解は出来る。

 ただやはり余りに若過ぎる生涯しょうがいであった事を思うと、どうしても辛い気分に成らざるを得ない一同であった。


 但しこの中でルシアだけは「寿命と力、一体どちらを選択……」について、理屈りくつこそ判るが、自分に置き換えて量るすべを実は持ち合わせていないのだ。


 ◇


 少し時間をさかのぼらせ、ローダの接続コネクトにより、不死鳥の存在データがリイナへの転送を終えた時に戻らせて頂く。


「ふぅ……」


 ローダの『心の結束(マインド・コネクト)』の力が解けてゆき、ジオーネ、リイナ、そしてローダはそれぞれ個々の……要は普通の状態へ戻った。


 ローダとリイナは、頭を振りながらも、直ぐに意識を取り戻した。けれどリイナの膝の上にいるジオーネだけが、如何にも苦しそうな顔をしながら、未だに意識が戻って来ない。


 こういう時に身体を揺すったりするのは骨頂こっちょうである。息と脈拍はまだあるのだ。

 ローダとリイナはひたすら天に祈りを捧げ、ジオーネが戻ってくるのを待つことしか出来はしない。

 やがておよそ10分は過ぎた。たかが10分と言われそうだが、こんな10分は途方とほうれる程に長いものだ。


「うっ…ううっ……」


 本当にアリの如く小さな声で、うめきながらジオーネが、ゆっくりと目を覚ました。


「……よ、良かった」

「もぅ……、心配したよ。本当に」


 ホッと胸を撫でおろすローダ。リイナは少し泣きながらジオーネの頭を優しく撫でた。

 未だリイナの膝の上であることを理解したジオーネは、母に抱かれた時の事を思い出したが「そうだ、こうしてはいられない」と、なんとか身体を起こそうと躍起やっきになる。


「無理したら駄目だよ、まだ寝ていないと……」


 これをリイナは止めさせようとしたが、一方ローダとしては、彼がこれからやろうとしている事に大方の予想がついているし、それには猶予ゆうよの残りが余りにわずかだとも知っていた。

 そこでローダは身をかがめ、ジオーネに肩を貸し、立ち上がる手助けをかって出る。


「リイナ、お前も立つんだ。これから最後の仕上げをお前がやるんだ」


 ローダは如何にも辛そうな表情で、けれどもしっかりとリイナの目を見ながら立ち上がる事を強制した。

 に落ちないリイナだが、とにかく従うより他はない。


「り、リイナ様、これから僕の言う詠唱に続けて下さい」


 ジオーネは見た目も声も満身創痍まんしんそういの見本の様な状態ではあったが、両眼りょうまなこの輝きだけは失っていない。

 その眼力が強過ぎてにらんだ訳ではないのだが、リイナは少々たじろいでしまう。


「わ、判ったよ」


 これはいよいよ言う事を聞くしかない。リイナも腹をくくると決めた。


 残ってない力を無理矢理振り絞ったジオーネは、両手で杖を天にかかげる。リイナも見様見真似でそれに習った。


「「不死鳥フェニックスよ! ひたすらに赤き彼岸の華を咲かせ……」」


 その体力の残量から出せる筈のない声量でジオーネが詠唱を始め、少し遅れながらも、何とか合わせてゆこうとするリイナである。


(いよいよこれが彼の最後の詠唱か……いや、違うな。寧ろこれが初まりの儀式だと思いたい)


 ローダはジオーネの一挙手いっきょしゅ一投足いっとうそくを決して忘れまいと、両目をしっかりと開いて焼きつけようとしている。


「「()に新月の始まりを与えよ! 『レナトゥース』!!」」


 ジオーネとリイナの詠唱が終わったと同時に、リイナの杖の先に小さな不死鳥が現れて、そのくちばしから真っ黒な月が現れた。


「うわっ!」


 これには唱えたリイナ当人が驚く。無理もない事だが、不死鳥の力は既にリイナのものなのだが、理屈と実際はそう簡単にはみ合わない。

 しかし結果この術の詠唱者はリイナ、そして術をかける対象はジオーネ。詠唱の中にある「彼に新月の始まりを……」の彼とはジオーネをことを差す。

 新月の始まり……即ちたった今、出現した真っ黒な月(新月)は、ジオーネに何かを与えることになる。


 その与える筈の黒い月は、まるでブラックホールの如く、あっと言う間にジオーネを吸い込んでしまったではないか。


「「じ、ジオッ!?」」


 ローダはこれから起こる事を大体察している。一方リイナは何が起こるのかまるで知れない。

 だが一瞬にして黒い月に吸い込まれたジオーネを見て、叫ぶ言葉は同じであった。ジオーネに何か与えたどころか全てを奪ったようにしか映らない。


 黒い月は瞬く間に満ちてゆき、満月となった。

 満月から一本の真っ赤な彼岸花が現れて、リイナの胸に吸い込まれる様に消えた。

 そして残された満月の方は人の形を成してゆき、月の光こそ失うが、ジオーネそのものに変化した。


 なれど肉体を持つ本来のジオーネは、前のめりにバタッと倒れてしまったではないか。加えて月が変化して出来たジオーネも焼け落ちた灰の如く消えていった。


「ジ、ジオ!」


 ローダが慌ててジオーネの元に駆け寄り、その手首をつかむ。この結果だけ見れば彼の想像していたものと明らかに違った。


脈拍みゃくはくがない! い、息もっ!」

「ろ、ローダさん、待ってください……こ、これは」


 リイナは自分の身に起きた事、そしてジオーネがどうなったのかを感覚で理解した。自分の胸を両手で優しく押さえている。自分の中に潜むジオーネを探しているようだ。


「……ジオ、あ、貴方、今、此処にいるのね。不死鳥の輪廻りんねの力で私の心の中に転生したんだね」


 リイナは嬉しさ半分、寂しさ半分な何とも形容し難い気分であったが、ジオのやりたかったことは、全て成就じょうじゅしたのだと感じ取った。


「そ、そうか。リイナと魂を同化するというのは、こういう事だったのか」


 ローダはジオの狙いこそ判ってはいたが、方法をまるで理解していなかった故に慌ててしまった訳である。


 転生とは何かに生まれ変わること。そして大抵の転生は前世の記憶を失うものだ。

 けれどジオーネは、リイナの中にその魂だけを移してみせた。

 そうかと言ってリイナの意識を乗っ取った訳ではない。


 あくまでリイナはリイナ。ジオーネはリイナの力を底上げするために、リイナの中で生き続ける事を望んだ結果が今、此処にある。


「……ありがとうジオ。私決めた。この状況を心から喜ぶ事にするよ。これからはずっと一緒だね」


 ジオが散った……この悲しむべき状況に、リイナは精一杯の笑顔で応えた。小さな不死鳥は飛び去りながら、彼岸花ひがんばなの花びらを散らしていった。


 ジオーネ・エドル・カスード、満12歳。不死鳥の炎の様に激しく、それに咲いた花が散るかの如く、短過ぎる生涯しょうがいを此処に終えた。

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