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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第5部『不死鳥』編
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第8話 黒い炎と黒い炎 偽物同士の本気の争い

 ヴァロウズ6番目のセインとジオーネ等が砦の大広間にて、ちょっと不可思議な死闘を繰り広げていた頃。

 ハイエルフ、ベランドナはラファン奪還戦において連れ帰った、訳有りの子供等の様子見をしている最中であった。


「………えっ?」

不死鳥フェニックスの気配? い、一体誰が?)


 ベランドナ達がいるのは、砦の最下層にある医務室。大広間とは相当距離が離れているのだが、不死鳥の独特な感覚がそこまで感じられる。

 もっともこのベランドナにしてみれば、不死鳥が出現した場所が仮にフォルテザの街の外であったとしても気づいて当然であるらしい。


「あのエドルから来たジオーネっていう子供……。やはり使い手だったのね」


 彼女が何故、不死鳥やエドルのことを知っているのかさだかではないが、何しろ300歳の彼女である。むしろ知ってて然るべきなのかも知れない。


 ◇


 ルシアに変身したセインの色香いろかまどわされ、ローダが本気を出せなかったことも重なり折角せっかくジオーネが命懸いのちがけで召喚した不死鳥だというのに、まだ大したことが出来ていない。

 もっともただの鬼女セイン相手なら、それでも充分トドメを刺す一歩手前まで進んでいたのだが……。


「ではこの不死鳥の本当の力! 今こそ見せてやろう!! ローダ様、また詠唱を合わせて下さいっ!」

(……そして僕は此処で終わるだろう、彼女(リイナ様)この力(不死鳥)たくして……)

 ―判った、完璧に合わせてみせる。


 小さな身体の胸を精一杯張ってジオーネは大きな声を出す。それと共に意識が繋がっているローダにすらさとられない程の心の声をつぶやく。


「な、何だとっ!? まだこれより上があるって言うのか!?」


 セインはルシアである事を諦めて本来の姿に戻った。灰色である筈の肌の色が、青ざめているのが、他からも見て取れる。


「セントモルトの火の力、命を燃やす始祖しその力……」

 ―セントモルトの火の力、命を燃やす始祖しその力……。


 いよいよジオーネが真の力を見せようと詠唱を始めている訳だが、その割にとても静かで穏やかな口調だ。それが逆に気味の悪さを増幅させる。


「……その力全てを焼き尽くし、やがて終焉しゅうえんは訪れる」

 ―……その力全てを焼き尽くし、やがて終焉は訪れる。


 全く詠唱は変調を見せず、そのままジオの身体がゆっくりと宙に浮き始める。


(……ジオ?)


 その詠唱内容にリイナは違和感を感じる。始まり(始祖)終わり(終焉)。一体何が終わってしまうというのだろうか?

 それでなくともジオーネは、もう寿命が残りわずかだ。だから彼が「終焉……」という言葉を用いるだけでリイナは不吉なものを感じるのだ。


(クククッ……これはいよいよヤバいよな)


 その不気味な状況に思わず苦笑いをするセイン。自己の終わりがヒシヒシと伝わってくる。だがその笑いの裏で彼女は、何かを狙っていた。


「……さあ我をにえに燃えさかれ『フェネクス』」


 此処まできて突如ジオーネは、最後の一文を自分の肉声だけ発する。何と彼は無理矢理ローダの意識を弾き飛ばし、本来の肉体へと返したのだ。


 自分の身体で瞬時に目を覚ましたローダ。慌てて起き上がり、ジオーネに向けて失意の顔を向ける。


「よせ、止めるんだジオッ! 誰でもいいっ! ジオを止めてくれぇぇ!!」

「ど、どうしたんですかっ!?」

「は、離せ、リイナッ!」


 ジオーネを止めようとするローダの絶叫にリイナが驚き、思わずローダの裾を握って押さえてしまう。それ程に彼はジオーネに喰ってかかるような恰好であった。

 そんなローダの行動もむなしく、ジオーネは不死鳥の中へ取り込まれていく。

 突如フェネクスと呼称された不死鳥は、これまで以上に激しく燃え盛るのだが、その炎の色が鮮やかでない。何やら黒っぽい色に染まっていた。


「さあ、我が命を燃やしたこの炎、存分にその身に受けるがいい」


 完全にフェネクスと化したジオーネが、セインに向かって羽ばたきながら襲いかかる。


「『鬼火おにび!!』」


 セインはフェネクスとぶつかる直前に力強い言葉を発する。瞬時に真っ黒な炎の塊と化した。


「えっ!?」

「……まさか、まだそんな力が!」


 セインすら炎の化身となったのを目の当たりしたリイナとローダは驚愕きょうがくする。

 互いに不気味な黒い炎のかたまりと化した両者。今にも衝突しょうとつしようと接近する。ローダもリイナもその結末の先を読める訳がない。


「そんな炎でフェネクスを止められるものかっ!!」

「それは果たしてどうかしら?  意外と良い勝負するかも知れなくてよっ!」


 フェネクス(ジオーネ)鬼火セイン、炎と化した二人が互いに声をあげて自分を大いに鼓舞こぶし合う。


「ぬかせッ!!」

「負けぬッ!!」


 全身全霊ぜんしんぜんれいを投げ打ってフェネクスが押す。

 鬼火おにびも負けじと押し返す。


 そしてすさまじい炸裂音さくれつおんが鳴り響き、互いの炎は同時に消し飛んだ。広間のほこりけむりが混ざり、ジオーネとセイン、両方の姿が確認出来ない。


「じ、ジオは!? だ、大丈夫よねっ?」

「ジオ……生きているのか? 消えないでくれ……」


 煙が治まるのを待ちきれずに、両手で必死に払い退けるリイナとローダ。

 もう闇雲にジオの姿を探索たんさくする……そしてようやく探し当てた。

 ジオーネもセインも身体自体は残っており、互いが起こした爆風で大広間の端々《はしばし》に飛ばされていたので、余計に捜索そうさく手間てま取ったのだ。

 二人共(あお)向けに倒れてピクリとも動かない。


「「ジオっ!」」


 ローダとリイナはジオーネに駆け寄って、その様子を慎重しんちょうに伺う。何とか息はしている様だが、此方の呼びかけにまるで応じない。


「……リイナっ! 回復の奇跡をっ!」


 ローダの言葉にリイナは涙を必死にこらえながら、首を横に振るのである。


「……だ、駄目なんです。彼の身体はもう私の回復の奇跡に耐えられない。これ以上の細胞の活性化は、死を早めるだけなんですっ!」


 この残酷な事実を伝えながら、リイナは司祭である自分の無力さに腹を立て、床を小さな拳で幾度いくどしたたかに叩く。


「……そ、そんな……そんな事、信じられるか!」

「わ、私だって、こ、こんな事、い、言いたくないですよぉぉぉ……」


 遂に堪え切れず落涙らくるいあふれ出るのを止められなくなったリイナ。それを聴いたローダは茫然自失ぼうぜんじっしつして声を失う。


 そんな時だった。セインだった筈の者が、ゆっくりと起き上がった。


「なっ!?」

「えっ!? い、生きてた?」


 ローダとリイナは茫然ぼうぜんとその姿を見上げる。それはジオーネの姿をしている。もう此方が本物のジオーネであって欲しい。二人はそう心の底から願った。


「……か、勝った。僕の……勝ちだ。そ、そして遂に手に入れた……」


 声もやはりジオーネなのだ。なれど無情にもこれはセインの化けた姿なのである。


「……て、手に入れただとっ!?」


 物凄い形相ぎょうそうでセインだった者をにらみつけるローダ。セインは全く動ずることなく無言で宙を指す。ローダとリイナも釣られてその指の先を見た。


「「…………っ!?」」


 そこには不死鳥フェニックスが舞っていた。先程の戦いで消耗したのか、少し小さくなっている様に見えるが健在けんざいだった。


「僕の鬼火は確かに敗れはしました。けれど消耗しきった彼の方(ジオーネ)が先に倒れるのでは? と踏んだのです。もうあの不死鳥は、()をジオーネだと認識していることでしょう。正直分の悪いけでした。でも最後に彼は勝負を捨てたのです」

「そ、それは一体、どういう事だっ!?」


 セインである筈の者を睨みつけることを、決してローダは止めない。最早もはや此方が、鬼女オーグリスであるセインよりも、余程鬼の形相といえる。


「彼は貴方ローダの意識を弾き出した。巻き込みたくなかったのでしょう。正直言って、貴方の意識を彼が捨てなかったら、精神力も炎の力も到底とうてい及ばなかった」

「…………そ、それは…」

「………だから彼は勝負を捨てたと言った」


 そう言った割には、セインからも勝者の余裕が微塵みじんも感じられない。正に満身創痍まんしんそうい

 だから偽物のジオーネとて、ボロ雑巾なことに変わりはないのだが、同じボロでも生きているのと死んでいるのでは天と地ほどの開きがある。


「さあ、おいで僕の不死鳥。二人で一緒に此奴等を焼き払おう」


 声は相変わらず穏やかなジオーネなのに、絶対彼が言いそうにない台詞をローダとリイナに吐き捨てる。

 セインは宙に浮き、先程のジオーネと同様に不死鳥の中に吸い込まれていった。


「………か、勝った。僕の……勝ちだ。と、たまには此方が()()をさせて頂こう」

「なっ!?」


 不死鳥の中にいたセインが、驚く(ターン)がやってきた。

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