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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第5部『不死鳥』編
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第1話 エドルの少年

 エドル攻略戦、翌日の朝。前日繰り広げられた人間達の激しい戦なぞ自然には関係なくいつもの通りに太陽は昇る。


女神エディウスよ、この者にどうぞ貴女の御慈悲ごじひを。湧き出よ生命之泉プリマべラ


 昨夜の約束通り、魔法力マナを幾らか取り戻したリイナによる完全回復の奇跡(プリマベラ)がルシアにほどこされる。


「す、凄い。本当にもう何ともない。ガロウの時に見てはいたけど、改めて自分の身体で受けると、これはもう語彙力ごいりょくを失うレベルよ」


 ルシアは回復の終わった右腕で数度の素振すぶりを繰り返し、折れた右腕が完治している事を確認する。小さな天使(リイナ)の能力には本当に驚かされるばかりだ。


 ルシアの回復が終わるとガロウ、ジェリド、ローダ、ルシアはエドルの神殿遺跡跡へと向かった。


 リイナは「まだ出来るだけ多くの怪我人を治癒ちゆしたい。後から必ず追いつきます」と告げて、取り合えずその場に残る事にした。


 またプリドールは「有事の際に兵の統率をしなければならん」と留守番を引き受けた。


 ガロウ達が神殿跡の入口に辿り着くと、既に三人の者が入口付近で待っていた。うち二人は年老いた男性と女性、そして真ん中に対照的な少年が立っていた。


 その顔や体形からして明らかにリイナよりも若そうで思える。けれどもその格好は実に凛々《りり》しい。

 紫をベースに金色の糸で刺繡ししゅうによる紋章もんしょうの様なものが描かれた司祭の服に、背中には白いマントを背負い、左手には緑色の宝石が輝く短い杖を持っている。


 ガロウ達がやって来たのを知ると、三人は左膝を地面に落とし、こうべれて恭順きょうじゅんの形を取った。

 その余りにもかしこまった態度にガロウ達の方が慌てた程だ。


「皆様、ようこそエドル神殿へ。私がこの神殿とエドルを預かる『ジオーネ・エドル・カスード』です。この度はエドルを救って頂き、感謝の気持ちを言葉では言い尽くせません」


 ジオーネと名乗った少年は、恭順の形を崩すことなく、実に丁寧ていねいな感謝の言葉を告げる。


「何っ!?  無礼を承知でたずねるが、君がこのエドルの自治区長だっていうのか?」


 これにはガロウ、驚かずにはいられない。この少年の名前には”エドル”が入っている。それはこのエドルを守護する正当なる者の証なのである。


「はい、先代………父は、マーダ軍との戦闘に敗れ、帰らぬ人となりました。以後、私の様な若輩者じゃくはいものがこのエドルを引き継いでおります」

「…………」

「もっとも私には力が無く、それに残った者も老人や子供ばかりです。此度こたびの戦闘にも全く助力が出来ず、誠に申し訳ない次第でございました」


 とても少年とは思えないハッキリとした口調でジオーネは、ガロウの問いに答えるのである。この応対おうたいに、彼がエドル代表を語るに相応ふさわしい人物だと認めざるを得ない。


「そうだったのか、いや、御三方とも顔を上げてくれ………いや下さい。此方こそ神殿を取り戻すという名目とはいえ、勝手に領地に侵入し多大な戦闘の爪痕つめあとを残した事をびに来ました。俺の名はガロウ・チュウマ。一応今回の作戦の総責任者です」


 慣れない敬語でこの神聖なる場所の住民達に心労しんろうをかけたことを、ガロウは深々と頭を下げて陳謝ちんしゃする。

 加えて仲間達のことも簡単ながら紹介していった。


「おお、ではそちらの方があの黒の剣士(マーダ)退しりぞかせたという剣士様なのですね」


 ガロウからローダの名前を聞いた瞬間、ジオーネの目は輝いた。当人が困惑する武勇ぶゆう伝は、この地でも通用するらしい。


「…………あ、いえ、それはもう偶然の重なった出来事なので」


 冷や汗を垂らすローダ。もう正直言ってその話題に触れるのには疲れて果てていた。


「いえ、例え偶然と言えど結果が全てです。私も貴方様の様な立派な剣士に生まれたかった。こんな肩書きだけでは何も成しえない」


 少年はそう言うと少しうなだれてしまう。従者の老人が「こんな所で立ち話ではなく、どうぞ奥へ」と勧めて来たので、この会話は一旦終えた。

 なれどローダは、この「自分には何もない」というジオーネから不思議な力を感じていた。


 神殿の内部はフォルデノ兵達がある程度修復を進めていた様で、思っていたほど痛んではいない。

 一番奥深い所には大広間があり、石造りの長いテーブルと椅子が並んでいた。

 そして大広間の奥に飾られた巨大な絵には、燃えさかる鳥の様な物が描かれている。そう言えば、ジオーネの服の刺繍の紋章も同じ鳥の様である。


 一同は椅子に座ると今後の神殿の在り方についての話を始めた。神殿の復旧は引き続き、フォルデノ兵達が行う。

 だがそれはマーダ軍の拠点きょてんとしてではなく、逆に打って出るための手段で準備であること。

 さらに町の人々の安全は保障する、少ないかも知れないが復旧作業に加わってくれれば賃金を払うといった内容をガロウが説明した。


 ガロウの言葉一つ一つにジオーネは丁寧に頷き、要求を全て受け入れる事を約束し、二人は誓約書を交わした。


「ところで……」


 代表者同士の協議が落ち着いたところで、ジオーネは違う話を切り出した。


「もう御一人、強い力を感じた方がいたと思うのですが、今日此方には来られないのですか?」

(………リイナの事を言っているのか? 彼はそんな力を感じ取る事が出来るのか?)


 何かを探し求める様な態度でジオーネはこんな質問をしてきた。

 やはりこの少年はあなどれないとローダは感じずにはいられない。


「……お、遅くなりましたあ~」


 丁度そこへ違う従者じゅうしゃに連れられて、恐らく彼の言う残り(リイナ)が息を切らしながらやって来た。


「あ、私の質問は解決致しました。私が感じていた強い力とは、この方に相違そういありません」


 遅刻してきた少女を見て、ジオーネは先程の質問をあっさり引っ込め、探していた者がリイナであることを認めたのだ。


「ん?」


 一同が自分を見ているので、ただの遅刻者という扱いではなさそうなことを知覚する。特に奥に座っている少年の目が、自分の事を待っていましたと言わんばかりの顔をしているのに違和感を覚えた。


 このタイミングでジオーネは一つの提案………というか完全な依頼をエディン側に打診だしんする。


「御願いがございます。私をしばらく皆様と、御一緒させて頂けないでしょうか?」


 ジオーネは目を輝かせ、少し顔を染めながらガロウにそんな話を持ち掛ける。目を合わせているのはガロウなのだが、その後ろに控えるリイナに意識が向いている様だ。


「いや、俺達はこれからも最前線で戦うんだ。こう言っては大変無礼だが、貴方は自分の身さえ守れるとは正直思えない」


 自分に降りかかる期待を払いのける様に、ガロウは両掌を振って、聞き入れないという姿勢を取った。


「そうでございますジオ様っ! それにこのエドルを貴方様自身が離れるなど許されませんっ!」


 ずっと黙っていた老翁おじの従者が、突然大きな声を出して反論した。

 だがそれまで温厚おんこうであったジオーネが突如、その従者をにらみつける。


 ―もうこれ以外に()()()を継がせる道が残っているのか!?


 突然この少年の心の声(コンタクト)がハッキリとローダにも届いたの絶句した。


(………我が力? 継がせるだと?)


 いよいよローダは、ジオーネの方を注視せざるを得ない。この少年が接触コンタクトを行使出来ること。それに態々《わざわざ》自分にまでさらしているのだ。


―私はもう長くないのだ。しかしこの力を継がせることの出来る者がこのエドルにはいないっ! お前も理解している筈だっ! この場は下がれっ! 出る幕ではないっ!


 とても強い意志の念を従者へと叩きつけるジオーネ。従者にそれが明らかに届いたのであろう……。意気消沈した顔つきに変わる。


(長くない!? 彼は間違いなくそう言った。そして俺達の中に彼の力を継げる者がいるというのか!?)


「……あ、いえ、私の言葉は取下げ致します。ジオ様は外の世界を知りません。私の方からも是非に御願い申し上げます」


 完全に意見を逆さにする従者。ジオーネの心の声を知らないガロウは、この変わり様にに困惑せずにはいられない。


―ガロウ、また一方的で申し訳ないが、この話乗った方がいい。いや………乗りかかるしかないと言うべきか………。


 ローダが接触コンタクトを使ってガロウに自身の考えを伝えてゆく。


―この少年は何かを秘めている。それが一体何かは不明だが、一応手元《此方》に置いておくべきだ。

(……へいへい、判りました)


 ガロウにとって、こういう時のローダの言葉は最早、師匠サイガンの言葉と同義になりつつある。無条件で従う以外の選択肢はない。


「判った、貴方は此方の要求を全て無条件で飲んでくれた。その位の言い分は聞かないとな」


 そう言ってガロウは、人懐っこい笑顔で握手を求める。


「あ、ありがとうございますっ! 御力にはなれないかも知れませんが、決して邪魔は致しません!」


 興奮した様子でジオーネは、ガロウの手を両手で握り何度も頭を下げる。その様子だけ見れば、勇者御一行にあこがれるだけの無垢むくな少年であった。

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