第23話 モノ言わぬ友達
2024年、14歳の吉野亮一は、配信アニメ視聴とパソコンで、とあることをするのが趣味であった。
アニメの方はリアル系のロボットモノが大好きで、何度も繰り返し見ては、その内容を解説する動画を作成してYouTuberとして使い切れない金額を稼いだ。
もっとも彼にとって、YouTuberとして人に認められる事はどうでも良かった。いや、むしろうざいと感じていた。高評価、低評価どちらでも良く、動画を褒める声も、逆にけなすくだらない掲示板サイトも気にもしなかった。
彼にとっては機械が生き物の様に意志をもって行動する事、人間と機械が対話する、そんな物語がたまらなく好きで、いつか自分も機械と対話がしたい。そんな厨二病を抱える少年に成長してゆく。
彼は稼いだ全ての金をパソコンの環境を整える事に使い尽くした。そして動画作成とは違う、ある事にその贅沢な環境を使って悦に浸っていた。
大学、会社、研究機関のサーバーに無断でアクセスし乗っ取る事。hackerである。
ただ彼の場合、他のハッカーとは違う流儀があった。ファイアウォール、セキュリティ対策を相手に気づかれない様にかいくぐり、優先権を握れたらそれ以上は決して何もしない。危害は決して加えないのだ。
彼にとって機械は友達、だから閉ざされた世界にいる彼等を救い出す事。これが彼にとっての機械との対話ごっこなのであった。
コロナウイルスが猛威を振るい、外出を良しとせず、自宅で仕事や学業を完結させる世の中が急速に進んだ。
彼にとっては、助けたい友達が増えて大いに喜んだ。
けれどひとつ気に入らない事があった。人工知能、俗に言うAIである。世の中に浸透しつつあるAIとは人間の生活を便利にする機能、対等な友達どころか、AIはコンピュータを奴隷にする事だと思えてならなかった。
それにAIとは膨大なデータの蓄積から人間の代わりに最善手を選択し、答えを出して機能させる事。しかもそれは人間の都合にあわせてにプログラムされたものだ。
そんなもの知能とは言えないと彼は思った。
百歩譲って知能と認めるとしたら、僕が欲しいのは人工知能ではない。生命の様に自ら考えて行動する人工知性が欲しい。
それがあれば、こんなゴッコではない本当の友達が出来る。もっとも友達というのはいつでも仲が良いという訳ではないという矛盾をはらんでいる事を亮一少年は、蚊帳の外に投げていた。
人工知能の話は大変議論がかわされ、導入事例も増えてゆく中、人工知性となるとまるで彼の理想とは程遠いものであった。技術的にも倫理的にも一向に話すらまとまらない。
もっとも一人の中学生にどうにか出来る範疇ではない事は十分に判っていたし、所詮は空想の物語の中で楽しむものなのかと諦めていた。
それから4年後、18歳になった彼はあの論文『ウィルスの遺伝子情報を組み込んだ人工知性の可能性と開発』を見つけることになる。そこには彼が望む事、全てが記されていた。
またこの論文を発表したのは、科学者ではなくただのエンジニアという事にも歓喜した。
同じコンピュータを愛する者が同じ様な考えを抱いていた事がたまらなく嬉しかったのだ。
彼は後に先生となるこの人物を調べるのに夢中になった。彼が他人に此処まで夢中になることは初めての経験であった。
同時に彼は今まで他人の言動に無関心であったことに後悔した。何故なら4年前にこの論文は発表されて、ネット上で散々に書かれていたのだから。
そして彼の望む人工知性を手に入れるためには、他人との交流は寧ろ避けては通れないのだと思い知った。
人を知る事、人を繋げる事、それが人工知性を手に入れるために必要不可欠だという矛盾を悟り、彼はリアルな友人や恋人を作りつつ、なんとかサイガン・ロットレンとの接点を追い求めた。
◇
舞台をフォルテザの砦の話に戻そう。本来両手で1本の槍を扱う筈の男が、両手で2本の槍を持って、レイピアを扱うベランドナと魔導士フォウに襲いかかった。
ただ襲いかかると言っても、剣を交えるハイエルフの方は、殺す訳にはいかない。
ランチアは槍の鉾先をベランドナの出来るだけ手元を狙い、手だけ怪我を負わせて武器を封じようと試みる。
彼は鉾先に斧の様な形をした刃のある元々のハルバードを左手に、ハルバードから引き抜いた少々小ぶりな槍を右手に持って、交互に斬りつける。要は左手が利き手らしい。
左のハルバードを上から叩きつけて、右の槍で突きを繰り出したり、その逆ををやったりと実にトリッキーな攻撃を繰り出す。
なれど所詮、相手を殺す訳にはいかないという先入観から攻撃に甘さが出ていた。
一方、ベランドナのレイピアというものは、根元が一番丈夫に作られている。彼女は左右から襲ってくる槍をその一番丈夫な根元で巧みに受け流す。
そしてレイピアは細身ながら以外に刃が長く、80cm程ある。
対するランチアの方は2mあった槍を二つに分けた。長さだけならランチアの方が上手の様だが、槍というものは端を持って振るうものではない。
よってリーチはレイピアの方が少々上かも知れない。
戦いは一見、両手で攻撃を繰り出すランチアの方が派手で押している様に見えるのだが、実は決め手にかけていた。
(此処で私が魔法で援護すれば此方が圧倒的有利)
「風のせいれ…」
「やらせんと言っている!」
ランチアの右手の甲辺りが突然開き、ワイヤーがフォウ目掛けて飛んでいく。
「なっ!?」
今度ばかりは避けなければ眉間を貫かれる位置に飛んできた。間一髪、フォウはこれをかわした。
「貴様! 一体どれだけそんなギミックを隠している!?」
「さあてね、全身かも知れないし、これで終わりかも知れないぜ、魔導士さんよッ!」
フォウの問いに対し、ランチアは揺さぶりをかける。フォウは歯軋りで顔が歪んだ。
「だから言ってんだろ? アンタは笑ってな。ま、怒った美人も悪かねえか」
(ワイヤー!? そんなもん、もうねえよ! そしてどうだ? もう3分は経ったよな? 時間稼ぎはこれ位でいいのか?)
もう何度目か覚えていないバックステップで間合いを開けるランチア。互いに届かない距離だ。
加えて右手に握った槍を逆手に構えた。
そこへベランドナは、容赦なくレイピアで突きながら飛び込んで来る。
(来た来た、待ってたぜこの時をっ!)
ランチアはクルリと一回転すると左手で逆手に構えた短い方の槍でレイピアを受け止めた。
(なっ? これはまさか!?)
「や、やめなさい! 攻撃を止めるのよベランドナ!」
ランチアの誘いを読んだフォウが、ベランドナを制しようとする。
「駄目だね、もう遅いッ!」
そして右手で持ったハルバードの斧の刃の部分を思い切り振り下ろした。
金属同士が強く当たる音が部屋にこだました。
ランチアはベランドナのレイピアの根元ではなく真ん中辺りを叩いたのだ。
レイピアは音と共に真っ二つに折れてしまい、折れた刃は何度も回転してから地面に突き刺さった。
「お、お前っ、実は右利きだなっ! そしてレイピアの根元を狙った攻撃もフェイクだった!?」
「そういう事だ、ま、このハイエルフさんが、もし正気ならこんな小細工には引っかからなかっただろうぜッ!」
右手のハルバードでフォウを指しながらランチアは、またもニヤッと笑った。
(………これで終わりならありがたいんだがな、あと1分半!)




