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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第4部『エドル神殿奪還』編
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第16話 正義の在処 その2

「ヒーッ!!」

「チッ! 遅かったか」


 ルナは耳を塞ぐと、恐怖のあまり腰が抜けてしまったらしい。床に座り込むとガタガタ震え始める。

 バラッドは、愛銃のコルトガバメントを抜いた。ここはもう逃げられないと決意した。


(しかし今の銃声は!? ま、まさか!?)


 次の瞬間、バラッドの左耳の脇を銃弾が()()()()で通り過ぎ、ルナの部屋の窓ガラスを粉々にした。


「エ、エメ……」


 バラッドは驚愕した顔つきで部屋の入口に立っている妊婦を見た。自動小銃、コルトガバメントを同じ署で所有しているのは、彼とエメリアの二人だけなのだ。


「な、何故、お前がここにッ!」


 驚愕するバラッドの足元にエメリアは銃弾を叩き込んだ。


「おっと、勘違いしないでね。私は一連の事件の犯人じゃあないのよ、そんな女に用はなくてよ」


 エメリアはニッコリっと微笑んだ。だがその笑顔はバラッドをいつも暖かく出迎える女の顔ではなかった。


「まさかバラッド、貴方が犯人だったなんてね。そりゃあ捕まる訳がないわ」

「ま、待ってくれ! ち、違う! お、俺じゃない!」


 バラッドが弁解しようと言いかけた時、違う場所から発砲音が聞こえてきた。エメリアの足元に銃弾が一発、突き刺さる。

 そして店の中に次々と拳銃を持った男達が走り込んできた。全員銃を構え、エメリアとバラッドを包囲した。


「署長、なんで貴方がここに?」


 今度はエメリアが驚く番であった。エメリアとバラッドを包囲したのは、署長とよく知っている警官達であった。


「エメ、お前ちゃーんと教えてくれたじゃないか。バラッドは『新月ルーナ・ヌエバだから』ってな」


 署長はいつもの通りの穏やかな顔つきで続けた。


「エメリア捜査官、()()()貴重な情報をありがとう」

「なっ!?」

「なんだと!?」


 エメリアの顔つきが険しくなる。バラッドはエメリアへ銃を向けた。


「そしてバラッド捜査官、街のゴミ掃除、ご苦労様であった」


 署長は終始、顔つきを変えずに続けた。


(そ、そういう事か!)

「て、てめぇ! よくも抜け抜けと! 」


 バラッドは、ようやく全てを判った気がした。


「わ、私は…な、なにを信じたら…」


 エメリアは何も理解出来ていない。バラッドも署長も信じられない。頭がクラッとして足元もおぼつかなくなった。


「しかし残念だよバラッド、実に残念だ。私は優秀な部下を殺人の()()()で捕えなければならない」


 署長は首を横に振った。他の二人の警官がルナの部屋に押し入り、バラッドの後ろで恐怖に震えているルナに拳銃を向けた。

 バラッドは拳銃を一人の警官に向けて、もう一方にはナイフを突き付けた。


「やめるんだ、バラッド。君は街のゴミ掃除をしただけだ。私が口添えすれば極刑は免れる。しかし同僚まで殺してしまってはもうどうにもならない」

「何、正義面してやがる。俺も()()のエメもどうせ生涯出られなくするんだろうが! ()()()とはよく言ったもんだぜッ!」


 バラッドは必死の形相で抵抗した。エメリアはハッとして、バラッドと署長の顔を見た。


「俺が東の方を見てくると言って出て行けば、西で女が殺された。お前達は俺の動きを理解しながら常にその逆を突いた…」

「今夜は帰ると俺は言った。アンタは嘘だと見抜き、エメからの電話を待った。エメは俺が朝言った事を忠実に言ったことだろう。”今夜は新月だから()()()が気になる”ってな」

「……!?」

「エメはお前達に嘘の情報を流したことで共謀罪にするんだ。ま、署長のアンタが言えば、どんな白も黒になるから、エメの電話はなくても、どのみち何かの罪を着せるんだろうなッ!」


「しょ、署長!?」

「いいか! よく聞けエメリア! 署長達はグルでこの街の滞納者を消しているんだ! その罪を全部俺達に擦り付ける寸法だ! とんだ策士だ!」

「………はて? バラッド捜査官、残念ながら君の推理は0点だ。信じられない。政府から渡した貴重なガバメントが泣くぞ」


 署長は大きく首を横に振って、ヤレヤレといった態度になった。


「いいかね、よく聞きたまえバラッド捜査官。我々は政府高官殿の命令でこの街のゴミを()()()国に()()しているだけだ。被害者の死体、何か色々と違和感がなかったかな? それに税金滞納者だけなら、何故美女ばかり狙ってゴミ掃除かね?」

「なっ!」


 バラッドは被害者の遺体を鑑識に回しすぎて自分のチェックが甘かった事を思い出した。


「か、鑑識すら…いや、この署、いや違うもっとだ。この国自体がグルだった」


 バラッド、愕然としてその場にへたり込んだ。


「私達は国の言いつけ通りの仕事をしていただけなんだよ。何も悪い事はしておらん。それなのに君は首を突っ込んできた。彼女ルナは実に不幸だ。君が関わらなければ生きて政府高官殿の慰み者としての人生が残っているのに、消さなければならなくなった。嗚呼…可哀そうに」


 そう告げて署長は手で十字架を切り、少しだけ祈りを捧げた。


「し、署長さん…わ、私は、ど、どこでも喜んで行きます! だ、だから、こ、殺さないで!」


 ルナは署長の足元に身体を引きずりながら辿り着き、命乞いをする。気がつくと床がビッショリ濡れていた。

 恐怖のあまり、失禁したらしい。それを見た署長は汚物を見る様な目になった。


「無駄だルナ、この()()。どのみち誰かが生贄にされてその罪を誰が擦り付けられるまで終わらねえんだ。最初から俺を罪人に仕立てて終わる筋書きなんだろ?」

「おお、それはご名答、大正解だ。やれば出来るじゃないかバラッド君」


 署長を睨みつけるバラッド。署長は構わず拍手を送った。


「あと、流石にエメリアを巻き込むつもりはなかった。この場に来なければ彼女はただの未亡人になるだけだったんだよ。これは本当だ。ま、もっとも彼女も優秀な捜査官だから、いずれこの答えに辿り着いてしまったかも知れんがね」


 さらに「ま、とにかく残念だよ」と署長は付け加えた。


(わ、私は…な、何を間違えた!? ど、どうしてこうなった? な、何が正しいの? バラッドは、間違っているのか? 署長は正しいの? わ、私は、私は、私は……)


「私は、ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」


 エメリアは、気が付くと自分のガバメントの銃口をルナに向けていた。何故? 問われても分からない。

 取り合えず愛するバラッドの心を奪ったコイツだけは、許せないと思ったのだろうか。

 とにかく正義でも考えでもなく、身体が勝手に動いていた。


 コルトガバメントの連続する銃声が鳴り響き、硝煙の匂いが辺りに立ち込める。しかし撃たれていたのは、ルナではなく彼女を庇ったバラッドの背中であった。


 一同が驚いてそのまなこを目一杯に大きく開いた。


「エメ、すまん、すま……なかった」


 バラッドは覇気のない声で、人生最後の言葉を発すると口から血を吐いてうつ伏せに倒れた。

 バラッド・コード28歳。彼の人生は最愛の女が放った銃弾でその幕を閉じた。


 その後、エメリアはバラッドだった死体からガバメントを奪い取り、二丁の拳銃をその弾倉が切れる迄、周囲の生きる者全てに対して撃ち尽くした。

 その両目からは血涙を流していた。銃弾が無くなっても彼女は、引き金を引き続け、ようやく生き残った他の警官に取り押さえられた。


 ◇


「御覧の通りだ、ブザマだろ? この盗撮野郎ローダ。俺は、警官殺しの罪で極刑にされるところをマーダに救われた。俺は私服《刑事》を脱いで警官の姿に戻った。この方が法の守護者らしいからな。そしてこの()()を取り返した時に誓ったのさ。これからは俺が決めた正義だけに従うってな」


 ローダの精神世界の中、小さなレイはローダを睨みつけた。


「なるほど、実に悲しい過去だ」


 ローダは、つぶっていた目を開き、レイと対峙した。


「うるせぇ、このクソガキ」

「だが…」

「アアッ?」

「マーダに従う、本当にそれがお前の正義なのか?」


 ローダは真っ直ぐに、瞬き一つせずにレイの目を見つめる。


「うるっせぇぇぇんだよっ! 理屈じゃねぇんだよっ!」


 レイは声の勢いとは裏腹に目を逸らしてしまった。


「そうか、ならばお前はルナを殺し損ねたあの自分を正義だと言うのだな?」

「黙れ…」


「思いの数だけ正義があると言うのなら、お前の想いを裏切りルナを救ったバラッドの想いも正義だと言うのだな?」

「黙れ…」


「国家権力に準じてお前達二人に全ての罪を被せようとした、あの署長も正義だと言うのだな?」


 ローダの言葉は全て穏やかだ。だからこそ、レイの心に突き刺さる。


「黙れって言ってんのがわかんねえのかッ!! このクソガキィィ!!」


 レイがたまらず声を上げる。が、ローダは微動だにしない。


「お前、本当はもう知っている筈だ。それを探求し続けること、何が正義なのかひたすらに追い求め考え続けることだ。マーダという殻に籠って考えることを止めてしまえば一方的な正義しか生まない」


「お、お前に…」

「んっ?」

「お前に着いてゆけば…それが分かるとでも?」


 レイの声のトーンが少し冷静になった。そしてローダと向き合う。


「それは有り得ない。お前と同じだ、俺も生涯それを追い続けて生きるだけだ」


 そう言ってローダは、少し溜息を吐いた。


「めんどくせえな…」


 レイも同じく溜息を吐く。


「フッ、そうだな。面倒だが俺は、そういう生き方しか知らない」


 そう告げてローダは、穏やかな顔で笑った。


「………奇遇だな、俺もだよ」


 レイも少しだけ笑った。


 色の違う意識の糸が、少しだけ絡み合う事を互いに感じた。

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