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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第4部『エドル神殿奪還』編
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第15話 正義の在処 その1

 規約、法律、司法、憲法。世の中には守らないといけないものがウンザリする程、《《存在する》》。しかし人間って奴は、そんな物を守ろうとしやしない。いや、守らないからこそ、これらは成立する。


 そして守らせる為に警官、警察。要は私も存在出来て、金を貰って生活が出来る。ある意味”馬鹿”のお陰で私は生きてる……。


 私の名はエメリア。私は子供の頃、”正義のヒーロー”ってやつに憧れた。どんなに劣勢でもイカしたBGMが流れると必ず勝つ。弱きを助け、悪を断つ。これが私の”正義”の解釈。どんなお話も”正義”は格好よく、”悪”は腐っている様に見えた。


 私の父は警官、母親は看護師だった。父が任務中に怪我をして母の務める病院に運ばれて結ばれたらしい。


 父は正義を貫き、母は弱きを助ける。こんな家に生まれたからベッタベタの正義に憧れた、と言っておけば成り立ちそうだが、本当の所はよく覚えちゃいない。


 私は正義になりたくて、勉強して体力をつけて、警察学校を卒業して、22歳でこの街の警官になった。

 私は女だがこれで正義のヒーローの階段を一歩上がれたと勘違いした。今にしてみりゃ何とも()()()()()頭をしてたと笑いたくなる。


 正義っていうのは人の数だけある事を知ったのは、その後だ。学校じゃそんな事は教えちゃくれなかった。ま、そんな哲学みたいな話はどうでもいい。


 警察は、取り合えず決められた税金を納めてりゃ、後は私らの見えない所で悪をやってない奴を護る。

 そのどちらかが、守れない奴は捕える。これは学校で教わった通りだ。実に判りやすい、判りやすい……筈だった。


 25歳、私は捜査官、いわゆる刑事になっていた。たったの3年で異例の抜擢、何てそんなに偉そうな話じゃない。

 まあ、持ち前の正義感とやらで検挙率が高かった。加えてこの街は犯罪が多くて、やりたい奴が少なかったから、手を上げたら採用された。それだけの話だ。


 私は同僚の刑事と同棲していた。彼の名はバラッド。歳は28歳。彼は間違いなくこの街でトップの捜査官。

 私が彼の強さと優しさで恋に落ちるのに、たいした時間は必要なかった。私にとって彼はまさに英雄ヒーローそのものだった。

 彼のお陰で私は、女として充実した日々を送っていた。


「おかえり、遅かったじゃない」


 バラッドが帰って来た。酷く疲れ切った顔をしている。


「また例の事件なの?」

「ああ、これでもう12人が殺害された。しかし手掛かりがまるでつかめやしない」


 バラッドは帰って来ると必ずウイスキーのコルクを抜いて、グラス一杯だけ飲む。

 彼は酒に強いからこの程度で酔いはしない。

 だがいつ呼び出されても文句の言えないこの仕事だ。だから必ず一杯と彼は決めていた。


「バラッド、気持ちは分かるけどこの事件、とても嫌な感じがするの。深追いは…」


 と、言いかけた私の唇を彼は、深いキスで塞いだ。


「心配か?」


 バラッドは私の目をじっと見つめながら言った。


「と、止めても無駄って事は分かってるけどさ、でも…」


 そう言う私の腹をバラッドは擦った。


「ああ、判っているさ。今の俺はエメともう一人、()()()を護る為に死ぬ訳にはいかない。決して無理はしない」


 そう言ってバラッドは私を優しく抱いた。そう、私は彼の子供を宿していた。捜査官として彼を支えることが出来ない事は辛かった。でも幸せを感じていた。


「そうだ、無理と言えば、今日は署長にも無理するなって言われたなあ」


 バラッドは、僅かに残ったウイスキーを惜しみながら飲み干した。


「へぇ? あの人使いの荒い署長様が直々に?」

「そう、なんだよ……。明日は雪でも降るかもな」


 バラッドは冗談を言っている割に真顔だった。

 珍しい事があるものだと私は思った。



 ◇


「うわあぁぁぁぁあ! やめろっ! てめぇ! 何やってんだ、俺の中に入って来るなッ!!」


 こちらは本来の世界、ローダの『マインド・バインド』で、ガロウと共に全身を縛られたレイが、必死に藻掻もがいている。

 なれどローダの束縛の力は強力で、声を張り上げるのがやっとであった。


「お、おぃ! やめろっ! 黙ってな! こうなった以上、もう事が済むのを待つしかねえんだよ」


 そう言っているガロウも実は気持ちが悪くて仕方がなかった。


(ま、まさか二人同時とか、流石にこんなの聞いてねえぞ)


 ガロウは巻き添えで縛られただけだと思っていた。確かにこれは今までに感じた事のない言い表せない気分だ。しかしレイの様子は、特に尋常でなかった。


 ローダの顔も心なしか辛そうだが、これは力の行使による辛さなのか、彼の見ている景色が辛いからなのか、ちょっと良く判らない。


お前(ローダ)、一体こいつの何が見えているんだ!? まあ、俺は見られても大した人生は送ってないがな……)


「ああっ! 見るなっ! 見るんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」


 レイの絶叫がガロウの鼓膜を破る勢いで飛び込んでいった。


 ◇


 再びレイことエメリアの意識の中。


 バラッドが追っているこの事件、たった1ヶ月の間に12名の罪のない人々が殺害された。被害者は全て女性。若くて美しい者ばかり。

 ただ彼女達は、警察が守る条件を一つ満たしていなかった。


 彼女達は皆、TAX、すなわち税金を納めていない連中だった。本当に貧しかった被害者もいれば、金で男を買うほど稼ぎがあるのに払う気がない輩もいた。


 勿論、税を納めなくても最低限の人権は守られる筈なのだが、そういう連中も護ろうとする真面目な警察官はこの街では限られていた。

 バラッドは、その数少ない方という訳だ。


 エメリアにしてみればそんな輩に命を張ってまで、義理立てする必要はないと正直思っている派なのだが、そんな正義を貫く信念とやり抜くだけの力を持っているバラッドだからこそ惚れているのだ。


 バラッドと共に事件を解決しようという警察官は少ない。だから犯人の目星がつくほど捜査は進んではいない。

 ただ、被害者からあたりをつける事は出来る。バラッドが張ればいつかは犯人と遭遇する筈。しかし犯人は彼を嘲笑うかの様に、必ず違う女を襲った。


 何故こうもかわされてしまうのか。最初のうちは、理由が分からなかった。いや、実は一つだけ、認めたくない可能性があった。

 そしてこうも重なってしまうと、これはもう認めるしかない確信になった。


「今夜は新月だな。また行くのかバラッド」

「いえ、今夜はエメが早く帰って来いって言うのですよ。なのでこれで失礼します」


 署長が穏やかな顔で声をかけた。

 苦笑いしながらバラッドは、署長に答えた。


「おお、それがいい。そうしろ。彼女もまもなく臨月だ。未来の嫁の言う事は聞くものだよ」


 署長は眼鏡を拭きながら、相変わらずの穏やかな声で彼を見送った。他の署員達と挨拶を交わしながらバラッドは、署を後にした。


 約1時間後、警察署の電話のベルが鳴った。若い当直の警官が慌てて、電話を取る。


「はいこちら…なんだ、エメリアさんじゃないですか。あ、ちょっと待って下さいね」


 電話を取った警官は、署長に小声で「代われ」と声をかけられる。


「おおエメリアじゃないか、え、アイツならお前に呼ばれたと言って、そう、1時間位前だ」


 署長はエメリアと電話で話しながら、他の署員に目で合図を送る。


「あの野郎、エメを置いてどこで油を売ってやがるのやら」

「いえ、彼はご承知の通り気まぐれですから。あ、いえ、彼はそんな器用な男じゃありませんよ、フフッ…」


 エメリアは署長の冗談に笑いながら答える。


「あ、そう言えば署長…」


 エメリアの顔が何か含んだような顔に代わる。


「彼、今夜は新月だから貧民街が気になる……って言ってましたよ、はい、あ、ありがとうございます。はい、気をつけます。では失礼いたします」


 エメリアは、固い表情で受話器を置いた。そして引き出しの奥にしまっておいたモノを取り出した。


「おや、バラッドの旦那。珍しいじゃないですか」


 客が10人も入れば席が埋まる程の小さなバー。もう店じまいなのか客人は一人もいない。

 カウンターのマスターが、グラスを拭きながらバラッドに挨拶をする。


「挨拶はいい、ルナはどうした?」


 不愛想な顔で応じるバラッドは、マスターには目もくれない。


「いつもの通り、奥の部屋ですよ。………に、しても感心しねえなあ」


 そんなバラッドに対して、マスターは、呆れ顔を隠そうともしない。


「うるさい、黙れ。それに今夜は遊びに来たんじゃない。命が惜しかったら早々に此処を立ち去ることだ」


 そう言いながらバラッドは、勝手にカウンター脇の一見ただの壁に見える箇所を押す。壁はあっさりと開き、バラッドは遠慮なく奥へ消えていった。


「ここが危ない……?」


 マスターは、慌てて金庫を開き、鞄に入るだけの札束を無造作に押し込むと、裏口から飛び出していった。


「ルナッ!」

「………なんだい、バラッド? 血相変えてさ、冷静なアンタらしくもない」


 バラッドはノックもせずに部屋の扉を開いた。

 ルナは、ベッドに全裸で横になっている所だった。


「早く服を着ろ、今すぐ此処を逃げるんだ」

「な、なんだい。大袈裟じゃないか。アタシが例の馬鹿に襲われても、アンタが守ってくれるんだろ?」


 ルナは面倒くさそうにハンガーにかけてあるガウンに手を伸ばす。


「いや、今回ばかりは相手が悪い。馬鹿じゃない、()鹿()()だ。俺が甘かった」

「そ、そんな話がちが…」


 歯軋りしながらバラッドは、周囲の気配に警戒している。

 ルナがそう言いかけると、店の裏口から銃声がした。

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