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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第4部『エドル神殿奪還』編
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第9話 エドル攻防戦

 元・フォルデノ王国の兵士達は、こちら側に飛び込む様に駆けてくる騎士の一団を見つけた。全員が突撃用の槍(ランス)を手にしている。


 一団の先頭の騎士だけが真っ赤な全身鎧プレートアーマー、後の兵士は青いプレートアーマーに身を包んでいた。

 先頭の赤い騎士は何やら怒鳴り散らしながら、あっという間に距離を詰めてくる。


 フォルデノ兵の二人が鋼の盾を突き出しながら、牽制しようと思ったところ、一団の後ろからジャベリンが次々と降ってきた。

 これはたまらんとその場から動けなくなってしまう。

 ジャベリンは当たりこそしなかったが、フォルデノ兵の真近に次々と落下し、地面に突き刺さる。その数にフォルデノ兵は怯んだ。


 そこへ蜂矢ほうしの陣形で、ランスを突き出した馬上の一団が飛び込んでゆく。

 身を隠そうとした遺跡の壁ごとなぎ倒す破壊力。

 逃げるいとますら与えない突撃にフォルデノ兵達は、串刺しになったり、その勢いに吹き飛ばされた。


 蜂矢の陣とは文字通り、矢の様な陣形である。横からの攻撃には弱いが、正面突破にこれ以上適した陣形はない。

 但しこの()の先頭に立つものは、当然その勇気と力と統率力を必要とする。

 赤いシャチことプリドールは、蜂矢の陣形の先頭に必要なもの全てを持っていた。


「次はあの連中だ! 2番隊、3番隊前へ!」


 プリドールは、間髪入れずに次の獲物に駆ける。それに続くのは先程後方から援護射撃をした2番隊、3番隊である。

 先程まで()の一部であった兵達は、地面に刺さったジャベリンを引き抜いて、今度は彼らが投擲とうてきをする。

 実に統率の取れた連携である。


 フォルデノの兵士達は、ほとんどが徒歩かちであった。馬上の軍が縦横無尽に突撃と投擲で攻めてくる。これはたまったものではない。

 あっという間に3分の1程がシャチの餌食になってしまった。


「うわあ、えげつねぇ、えげつねぇ…ぜってぇ敵にはしたくねえな」


 ガロウは駆け下りながら、苦笑いを隠そうともしない。


(バルトルト、だらしがないぞ。いい様にやられているではないか)


 ただ一人、元同僚とも言うべき連中にジェリドだけが、正直イラついていた。今のフォルデノ兵は敵なのだが、昔の戦友達の不甲斐なさに微妙な気分になっている。


 勇猛果敢な赤い鯱(プリドール)は、山から派手に下ってくる連中に気が付いた。


「ガロウぉぉぉ! 遅いっ!! 遅すぎるよっ! アンタ達、徒歩かち組の出番はもうないわねっ!」


 プリドールは()()()()ガロウ率いるエディン兵を容赦なく大きい声で馬鹿にして、高笑いした。それを聞いたガロウはニヤッと笑う。


「………徒歩かち組の出番か。確かにただの徒歩組なら、出る幕はもうねえかもな」

女神エディウスよ! この勇ましき者達に貴女の祝福(ベネディオネ)を!」


 小さな天才司祭リイナ・アルベェラータは、自らの神に奇跡の祈りを駆けながら捧げた。


 エディンの連中の全身が光り輝く。身体能力の強化と心すら高揚させる奇跡の秘術だ。

 元々は戦の女神であったエディウスらしい力である。


「「風の精霊達よ、我に自由の翼を!」」


 ルシアとローダが全く同じ詠唱をする。加えてローダは、ルシアを抱えて力強く地面を蹴った。二人は天高く、そして神殿の方へ実に勢い良く飛んで行く。


「な、なにさアレは!? 空を飛ぶ!?」


 その光景に驚くプリドールだが、此方とて海の中で最も獰猛どうもうな鯱を語るにふさわしい馬上での突貫を止めない。

 しかしその獰猛な突貫を、二人はあっという間に超えていった。


「ローダ!」


 ルシアがローダに荒々しい声をかける。言われた方は無言で頷くと、抱えたルシアを切り離した。

 今の時代で語るなら分離し、2次加速を駆けるロケットのようである。


「「ハアァァァァアッ!」」


 ルシアとローダは互いの足の裏を蹴り合った。二人は別れて、それぞれの落下地点にいるフォルデノ兵士達の陣に向かってスピードを上げた。


「炎の精霊よ、なんじの力、この脚に宿れッ!」


 ルシアが再び威勢よく詠唱し炎の精霊に呼び掛ける。右脚から突然勢い良く炎が上がる。


「風の精霊よ、我の剣に宿りやいばと化せ!」


 続いてローダも詠唱する。ルシアがガロウの刃に切れ味を与えたあの力だ。その剣の刃が白く輝きを放つ。


「ルシア・ロットレン!」

「ローダ・ファルムーン!」

「「ゆくッ!」」


 ローダとルシアがほぼ同時にそれぞれの落下地点に攻撃を仕掛ける。燃えがった右脚を突き出した形をとるルシア。

 一方ローダの方は、まるで《《あの示現流の男》》の様に剣を大きく振り上げた。


「受けてみろ、『炎の流星(フィアカルティオォォ)!!』」

「見様見真似、一の太刀・真打『櫻華おうか』ッ!!」


 ルシアの蹴りが墜ちた流星の如く、遺跡の壁をことごとく破壊しながら進撃する。

 ローダが振り下ろした刃は、遺跡の壁を紙切れのように両断した。


 身を隠すための場所(遺跡の成れの果て)を完全に失ったフォルデノ兵達は、我先にと散り散りに逃げ出した。

 そして空から降った二人(ローダとルシア)は、再び風の精霊の翼の力を借りて、宙を舞い、空いた遺跡の壁際で合流すると、ハイタッチを交わすのである。


「な、何だ! それはっ!?」


 プリドールは空から降ってきた二人の戦士の攻撃に驚愕し、目と口を大きく開いた。


(………おぃおぃ、なんだそりゃあ!? 見様見真似だあ!?)


 ローダの剣撃の切れ味に、ガロウは「そこまでやるとは聞いてないぞ」という顔をした。


「フフッ……。なかなかに派手…だな」

(そしてローダは、魔法が使える様になった。アレが老人から継いだ力の一部という訳か)


 そんなローダにジェリドは思わず苦笑しつつ、サイガンから聞いた話を反芻はんすうする。


「お姉さまもローダさんも、なんだかノリに乗ってますね」


 憧れのルシアと良いコンビを見せるローダの活躍に、リイナは目を輝かせる。「まさしく愛の力」と続けた。


「よ、よおし、俺達もいくぞ!!」


 ガロウ達、エディンから来た連中がさらに全速力で戦場へと一気に駆ける。身体が軽くて跳ぶように走れている気がする。リイナの祝福の奇跡(ベネディオネ)の効果は絶大であった。


「あんなもん見せられては、俺も黙っていられねえな!」

(こっちはもう充分()()()()いるんだぜ、()()を見せてやるよ)


 そう言ってガロウが珍しく刀の先を下げ、左脇下に構えた。


「やってやんよっ! 二の太刀・真打『櫻道おうどうぉぉぉお!!』」


 左脇下から真っ赤に染まった刃を振り上げる。すると地面から真っ赤な炎の様なものが立ち上り、それはそのまま前方へ真っ直ぐに走る。

 逃れようとしたフォルデノ兵達を次々に両断していった。


「見たかコラッ! これが本物だっ!」

(う、上手い事言ったわ……)


 この技、完全に初披露《お試し》だったらしい。勢いとは裏腹にガロウは正直ホッとした。


(………おいおい、これではコボルトやゴブリンを相手にしているのと同じ勢いではないか。フォルデノ兵も弱いが、味方が強すぎる。よもやこんな展開になろうとは)


 他のエディンの兵士達も、フォルデノ兵と互角以上に戦っていた。

 二、三度武器で語ってからフォルデノ兵が次々と負けてゆく姿が、ジェリドの視界に入ってくる。


「……ジェリドさん?」


 ジェリドは不意に声をかけられハッとした。味方が圧倒的に優位とはいえ、声がかかるまで気がつかんとは……。今日の俺はどうかしていると思い直す。


「………おぅ、久しいな、バルトルト」


 そう彼は、この声を知っている。昔、自分もそちら側にいた時に部下にしていた出来る男、フォルデノ王国聖騎士のバルトルトであった。


「すっかり真逆になってしまったな。立場も鎧の色も」


 ジェリドに痛い所を突かれた気分になるバルトルト。彼の白かった鎧は、真っ黒に塗り替えられている。


「これは痛い。しかし鎧の色は変われど、立場を変えたつもりはございませぬ」


 そうバルトルトは言いながら、両手持ちの大剣(グレートソード)を抜いて、鞘の方は捨ててしまう。


「ほう? その鎧で正義を語ると?」


 ジェリドはいつもの戦斧バトルアックスを両手に握り、静かに構える。相変わらずざっくばらんな様で、その実、隙が見当たらない。


「いえ、ジェリド殿が正義とは限らないという話です」

「なるほど?」


 自分の武器の長いリーチを生かし、ジェリドは横に払ったが、バルトルトは、まるで気にせず懐に飛び込んでゆく。

 予定調和の如く、慌てず自分の得物を手元に引き寄せ、両手剣の突きを軽々と受け止める。


「ジェリド殿、貴方達は、これ以上先に進んではなりません」


 身体を寄せた途端、バルトルトは、急に小声で忠告めいたことを告げる。


「なっ? どういう事だ」


 これにはジェリドも声のボリュームを下げるしかない。


「この先には()()が潜んでいます。どうかここは黙って私の言う事をお聞き下さい。最早ここですら危ういのです」

「なんだと? それは聞き捨てならぬ。既に前に出ている連中を助けに行かねば……」

「なりませんっ!」


 前に出ようとするジェリドと、抑えようとするバルトルトの押し問答が続く。

 傍目はためには、力の拮抗する者同士の戦いに見えなくもなかった。

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