表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第11部 『兄 "再会"・闇 "再来"』編
198/245

第20話 未来を切り拓き繋いだ少年

 10数年の思い出が沢山詰まった白猫の()いぐるみ。泥だらけなのにそれを強く胸に抱く娘を見て、自分の行いの愚かさに気でも振れたかと戸惑(とまど)うホーリィーンである。


 10数年の沢山の思い出……これを年長者が聞くといけない。思わず「たかが10年……」などと言い出しかねない。


 けれども生き物の生涯(しょうがい)に1日も1000年も関係ない。いずれもそれぞれの深い深い年輪があるというものだ。(とうと)きものなのだ。


 もっと言えばリイナが想いを()せている人物との死別は、精々数ヶ月……然もこの二人が共に(くつわ)を並べて戦ったのは数時間(ほんの僅か)


 でも不死鳥の如き永遠なる想いがそこには存在するのだ。二人は(その時)を生きたのだから。求め合った(とき)が消えることは決してない。


 リイナの胸元に緑色の輝きが一斉に集まって来るのだが、リイナ当人は目を(つぶ)って直向(ひたむ)きに想いを込め続けているので気づかない。


「く、苦しい……な、何だこれ?」


 リイナの胸元から聞き覚えのある可愛げのある()()の声が聴こえてきた。猫の縫いぐるみが確かに喋っている。


 小さい身体を()じって取り合えず何とか抜け出そうとするが、増々谷間に沈んでゆく。


(ん……た、谷間。こ、この感触。え……まさか…)


 まだら模様の猫がソーッと視線を上へ上へと移してゆく。そこには死してなお(あこが)れた女の子の姿があった。青い瞳と視線が交錯(こうさく)する。


 縫いぐるみの声を聴いたリイナの蒼き瞳がブワッと(あふ)れるもので止まらなくなる。間違いない、間違いようがない! 


 可愛くてそれでいて凛々(りり)しくて、放っておけない存在!

 断じて今度は灰色の鬼女(セイン)が化けた姿の声じゃない!


「じ、ジオくーんっ!!」

「あわわ、り、リイナ……さ…ま?」


 リイナの抱き締める力が益々増して、膨らみかけた柔らかなものと、憧れだった白い腕に押し(つぶ)されそうになる()()()()()である。


「……んもぅ、今さら()はないでしょっ!」 


 文句を言う割には笑い泣きながら決して離そうとしない。


「それを言うならリイナ様こそ、前みたく()()って呼び捨てにして下さいよ!」


「うーん……それは格好良い男子を魅せてくれればかなあ……」


 ジオーネの方は一人前の男として扱って欲しいから呼び捨てが嬉しい。一方リイナの方だが、此処はあえて歳上の(よそお)いを見せつける。


 実の処まさか出て来るとは思わなかった驚きと、ジオって呼称する恥ずかしさを今さらながらに感じてる照れ隠しなのだ。


 もっとも恥ずかしさのテンションで言ったら、ジオーネの方が正直しんどい。いきなり呼び出されたと思いきや、猫の姿で胸元に全身を(はさ)まれている形だ。


 12歳の多感な少年にこれは()()()……余りにもキツいが過ぎる。


「よいしょっと……ふぅ……」


 とにかくこの場所(ポジション)は色んな意味で大変宜しくないと感じたジオーネが一生懸命()いずりながら、ようやくリイナの胸元から抜け出した。


 そして肩の上へと勝手に座り込んでフンスッとばかりに短い腕(前脚)を組む。


「だ、大体不死鳥の力は、一つになった処で大いに渡しているではないですか。態々(わざわざ)こんな姿で呼び出して何をさせようと?」


「う、うんっ……考えてない。……って、そんなの自分で考えなさいっ」

「え………」


 そう……何も考えなどなかった。とにかく心の声じゃなく、肉声で自分のことを(なぐさ)めて欲しい。正直それ以上を求めていなかった。


 でもこうしているうちリイナの心根に次々と欲が浮かんで来るのを抑えきれない。


(うーん……)


 考え込んでしまうジオーネなのだが、悠長(ゆうちょう)なことなどしてはいられない。


 二人でこうして好きにしている間にも仲間達には、銃弾の雨霰(あめあられ)やマーダの後光の刃(アロン・ラマ)が降り掛かっている。


「良しっ! 取り合えず()()()を何とかしましょうっ! り、リイ…ナ、僕の宝玉は持っていますか?」


「ああ、それなら……」


 とても言い辛そうに呼び捨てを試してみたジオーネである。「僕の宝玉」とは彼が生前、エドルの大司祭だった時に首から下げていたものだ。


 リイナが司祭服の(ふところ)からジャラッと言われたものを取り出した。それを見たジオーネは思う。


 この縫いぐるみといい、自分の宝玉の首飾りといい、よくもまあ収納出来るなと。4次元にでも繋がっているのであろうか。


 一方リイナはジオーネの言う「あの人……」にキョトンとする。


 指差し……指はないから腕差しはおろか、視線すらジオーネが向けてくれないから一体誰を差しているのやら。


「さあて、じゃあいきますよぉ……『不可視化(インビジブル)』!」


「えっ………」


 驚く母ホーリィーンを置き去りにして猫の縫いぐるみと(リイナ)忽然(こつぜん)と姿を消した。1個だけ崩れ落ちた宝玉だけを残して。


「い、今確かに不可視化(インビジブル)って……」


 不死鳥化したリイナを見てエドルの民の力を知っていた彼女である。当然、不可視化(インビジブル)のことも知っている。


 だけどボロボロの縫いぐるみが、声変わりしたばかりの男の子のような声で、それを告げたことに(おどろ)きを隠せなかった。


 猫ジオーネと共に消えたリイナが現れた先……裏切り(二丁拳銃)のレイの直上である。


「おぅっ、じょ、嬢ちゃんっ(リイナ)!?」


「ちょ、ちょっと、ジオ君!?」

「いっけぇぇっ!!」


 ゴツンッ!!


 突然のことに慌てふためくレイとリイナ。何故かリイナは身体の自由が効かない。まるで誰かに操縦されているかのように勝手に動く。


 威勢の良い猫の声と同時にリイナが自らの頭を容赦なくレイの頭にブチかます。不死鳥の重なった影絵が、ちょうど(くちばし)(つつ)いているように見えた。


 勿論リイナに「良い処を見せろ」と言われたジオーネの仕業(しわざ)である。文字通りリイナと一体化した彼なのだから、このぐらいのことは造作もない(勝手は許される)


「い、痛ってぇぇッ! 何しやがんだッ!」


 不死鳥に頭を突かれ本気で痛がるレイである。頭の中で星が巡った気分だ。これは銃火器を好きに飛ばして暴れていた彼女にとって実に痛打なのだ。


 空間転移で銃も弾も自由自在に飛ばす。字面だけなら途轍(とてつ)もない無双状態な訳だが、当然操るには尋常(じんじょう)ならぬ集中力が必要だ。


 空を自在に駆けていた銃達が一斉に地面に落下してしまった。これがジオーネの狙った「あの人」という訳だ。


(クッ! (あったま)割れてんじゃねえのかっ!? これじゃ(しばら)く何も出来ねぇッ!)


 額が割れて流血しているんじゃないかと頭を(さす)ることしか出来ないレイである。それは流石に取り越し苦労であった。


 そしてやらかしてくれた最年少二人組(リイナとジオーネ)は、もう既に近隣にはいない。元居た地面の辺りにマジックショーのように戻っていた。


「どうです?」

「……えっ?」


 リイナの肩の上で相変わらず腕組みしている猫ジオーネであるが、先程までの仏頂面(ぶっちょうづら)のそれとは違い、したり顔の様子だ。


「えっ……じゃないですっ! 格好良いトコ見せたかって聞いているんですよ、リ・イ・ナッ!」


「あ………アハ……アハハハッ! うんっ! そうだねっ! 格好(カッコ)良かったぞ、()()()


 今度は威風堂々(いふうどうどう)、「リイナ」と呼び捨てするジオーネである。リイナが驚いた後、顔が緩み、やがて大きな笑いに転じる。


 加えて肩に手を回して猫の首根っこを掴み、泥だらけなのに頬擦(ほおず)りした上、キスをする大盤振る舞い(大サービス)で大いに思春期の心を沸かせた。


 改めてリイナは思う。

 この少年(ジオーネ)は未来がないのに切り(ひら)いて自分に全てを繋いでくれた。好き? 愛してる? 


 ……うーん、ちょっと違うかも知れないけれど、溜まらなく尊くて、やっぱり自分の幸せを形作る一部なんだ。そう勝手に確信するのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ