表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第11部 『兄 "再会"・闇 "再来"』編
196/245

第18話 何も狼狽えることはない

 マーダにしてみればローダとルシア以外の連中は、容易(たやす)く落としてしまえば良い。

 正直その程度の連中だとタカを(くく)っていたのだ。


 実際に始めてみれば、青い槍、赤い槍、ハイエルフの連中、そして異質な得物を扱う騎士という(相手)


 加えて勝手に味方になるよう名乗りを上げた女魔導士と、転移の翼(メッタサーラ)なんぞまるで及ばない空間転移で相手を翻弄(ほんろう)する拳銃女。


 全てまとめて自分の認識以上にやってくれる………「これは楽しめる」と実に楽し気で(つぶや)くのだ。


「フフッ……」


 そんな主を見ていたフォウが思わず顔を(ほころ)ばせる。ルイスになる前のマーダとも違うし、勿論ルイスとも異なる。


 そんな変幻自在なマーダを理屈抜きで愛しい存在と認識してしまった。まさに惚れ直してしまいそうだ。


示現我狼(じげんがろう)櫻道(おうどう)』ぉぉっ!」


 ガロウが下段の構えから真っ赤に滾る愛刀を振り上げ、いつもの噴出するマグマのような道をマーダへ向けて打ち上げる。


 レイの拳銃で身体を撃ち抜かれたにも拘らずだ。ミリアの白き月の守り手(フェルメザ)で上げた守備力があるのに何故だろう。


 数発の銃弾ごとき弾き返すのであるが、レイは寸分(たが)わぬ所に幾度(いくど)も命中させるという暗殺者(スナイパー)も顔負けのやり様で、それを貫通まで持っていくのだ。


「ほぅ……これも良き……むっ!?」


 そんな決死の中から打ち出した示現の太刀筋をマーダが紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)で受け流す。


 此処でその顔色が変化する、櫻道(おうどう)の背後からレイチがダガー二刀で迫って来たのだ。


 その尋常(じんじょう)でない行動力、速度、胆力(たんりき)、どれを取っても一級品の輝きであると、あのマーダをして素直に認めさせる。


 だがそんな捨て身を受けてやるか? そんな道理は存在しない。(ふところ)に入られると厳しい短刀の鋭い攻撃だが、半歩下がってしまえば大剣でも余裕で受けられる。


 そこへようやく大本命、ローダが赤と緑の輝きを以って竜之牙(ザナデルドラ)を両手で握り、一番振り幅の少ない突きを見舞おうと迫る。


 加えてマーダの背後に音速で出現した堕天使(だてんし)ルシアが後頭部に向けて、右の大砲(ストレート)を放とうとしている。


 しかしこのルシア、周囲から見れば充分過ぎる程に風神が如き動きなのだが実の処、躊躇(ためら)っている。


 彼女にしてみればどうしても()に落ちない。「マーダが負けを認めれば消える」ローダのこの(くだり)だ。


 首を飛ばそうが胸を穿(うが)こうが致命に至らぬ相手が負けを認めるとはどういう状況なのか。

 これは剣の試合などでは断じて違う。判定をくれる審判もいない。


 ローダの竜之牙(ザナデルドラ)による突き、説明の語彙力(ごいりょく)が追いつかない程に凄まじい。

 人体改造したマーダも大概だが、此方も人の動きを逸脱(いつだつ)していた。


 レイチが無言のうちに作った隙間(すきま)、これはマーダが(おく)して下がった訳ではないが、これに勢いを載せている(助走を充てている)


「効かんッ! 効かんなァッ!」

「………」


 けれどマーダは反応してなんとこれを手刀一つで叩き落とす。剣を素手で? 在り得ない行動だ。


 マーダにすらミリアの新月の守り手(ベスタクガナ)による防御力が掛かったのではと勘繰(かんぐ)りたくなる。


 処でこれまで他の相手には、一目置いような発言をしてきたが、ローダ相手だと相変わらず容赦がない口振りだ。


 とにかくこれで得物を防御に費やすことなく、即時攻守を逆転出来る。これを見たルシアが自分の(ぬる)さを痛感した。


 加減なぞこの相手には粉微塵(こなみじん)も不用であった。ローダが後の先を捨てて斬り掛かったのは、次に自分が(ひか)えてるからだというのに。


 こんな迷いの混もった一撃では難なく(かわ)すか、何ならそのまま頭に受けても平然としてるやも知れぬ。


 けれど一度軌道に乗せたパンチを………増してや右の大砲(ストレート)の力加減を今さら変えることなど到底出来ない。


 ゴツンッ!


「グオォォッ!」

「あ、あれ?」


 結局ルシアの拳がマーダの後頭部を揺さぶることになった。彼女の拳に返って来たマーダの頭は硬い。


 電磁砲(レールガン)の銃弾すら弾いたその手が硬いと判定したのだから、ルシアの想像通り、高い防御力があるのだろう。


 けれども意外な程にマーダに効いたらしい。頭を抱えて身動きが止まってしまった。この意外な結果に殴ったルシアの方が驚いた。


 これには二重のカラクリがあるのだが、取り合えず一つだけ語っておこう。何度も言うがマーダは自身に人体改造を(ほどこ)している。


 寄って彼の肉体は当然強化された訳だが、神経伝達系も研ぎ()まされた。実はこれが諸刃(もろは)となっている。


 神経が過敏に反応し過ぎるのだ。だから頭蓋(ずがい)の中で揺らされた脳から来る反応にマーダは通常時よりもやられているのだ。


 もう一つ………そもそもマーダはルシアの打撃を貰うつもりがなかったのにも関わらず、気が付けば殴られていた。


 これは致命的であろう。例え躊躇(ためら)い混じりの拳であったにせよだ。


 此処で一気呵成(いっきかせい)に攻めようとするローダであったが、空間転移してきたコルト(拳銃)に往く手を(はば)まれる。


 最早この戦場(フィールド)全てがレイの縄張り(テリトリー)と化している。


 空間転移を身に付けたレイが敵に回ると、一人で数十人分と言っても大袈裟(おおげさ)ではない程厄介(やっかい)な存在と化した。


 さらに主人に対する迷いを一切捨てた黒づくめの女もそれに拍車(はくしゃ)を掛けて往く。


(スパーダ)(ランチア)(サッシャ)……」


 加えてマーダとレイ、二人の不落な壁を手に入れて詠唱の自由を許容された女魔道士フォウである。


「……この者に全ての武具を超える進撃を『アルマトゥーラ』!」

「……お、俺の呪文(スペル)ッ!」


 ヴァイロの意識を(ただよ)う赤い髪のアズールが悔し気な顔を(あら)わにした。攻撃力強化(アルマトゥーラ)がマーダをさらに底上げする。


 然も掛ける相手は一人、複数人に掛けるよりずっと効果的だ。


「こ、これでは不死鳥(フェニックス)(いなな)きで力を落とした意味が……」


 不死鳥強化したリイナが自身の言葉にハッとして燃える赤い息を飲む。


(も、もしかして……)

「キッシャァァァァァァァッ!!!」


 リイナがこれ迄以上に引き伸ばした例の特徴的な鳴き声を挙げる。人を捨てた(けもの)のように。


「むぅ?」

「こ、これは……能力が増してい…る?」


「くぅーっ! (たっま)んねえなァッ! どんなドラッグより効くぜェッ!」


 マーダ、フォウが初めての違和感を覚える。自身の心を燃やす炎がより活性化されたような………そんな高揚感だ。


 三人の中でレイだけは、この感覚を既に身体が知っている。実に心地良く、銃弾を飛ばす行為に拍車を掛けた。


「し、しまった………や、やってしまいました………」


 この結果にリイナが自分の迂闊(うかつ)さに立腹してぬかるんだ地面を叩き、大いに泥を被ってしまった。


 確かに聡明(そうめい)なリイナにしては珍しいミスには違いない。だが彼女が確かめたかったことを考えれば仕方がないともいえる。


 フォウの攻撃力強化(アルマトゥーラ)、これでさらに増したマーダの行動力を少しでも下げたい。そうリイナは考えた。


 ただ敵へと(かえ)ったフォウとレイ、この二人にどう作用するかは正直未知数。それでもマーダの方は下がるだろうと確信していた。


 しかしながら結果は最悪の方向に流れた。レイ、フォウはおろか、マーダの能力すらさらに底上げしてしまったのである。


 ―ろ、ローダさん………皆さん、やってしまいました。不死鳥(フェニックス)がマーダを()()と承認してしまい……ました。


「なっ!?」

「ど、どういうことですかぁ?」


 リイナが風の精霊術、言の葉に載せて皆に自分の仕出かしを(くや)みながら伝えると、あちこちから疑問と動揺の声が上がった。


 そう……そういうことなのだ。リイナが敵と認識しているマーダを不死鳥は正義と認め、力を下げる(デバフ)処か上げて(バフして)しまったのである。


 ―………良いんだリイナ、何も狼狽(うろた)えることはない。()()()()だ。


 ローダから接触(コンタクト)による余りに意外に意外を重ねた返答が皆に届いた。


「ば、馬鹿な…………………い、いや待て、そうかっ、アレは、そういうことだったのか」


 マーダの中で共に交わした会話、ローダが交わした約束の言葉「お前が負けたと認めてしまった時、その(意識)は消え失せるだろう」


 あの言葉の意味をサイガンも解釈出来たと感じた。ただ余りに信じ難く、迂闊(うかつ)にも心の声を口に出してしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ