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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第11部 『兄 "再会"・闇 "再来"』編
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第8話 150年振りの新月の守り手

 ジェリドからの提案に応じ、各々が好きに戦うの止めて陣形を取るよう指示を出したローダの元へヴァイロの魂から提案を受ける。


 もう一刻の猶予(ゆうよ)もない中、それを受け入れヴァイロの意識空間へと再び潜り込む。


「何だヴァイロ、此方はもぅルイスの魂を取り戻すため多忙だと判っている筈だ」


「そう喰ってかかるな竜騎士の青年。お前は自分の身体を二人の竜に差し出したな」


「そうだ、それが何だと言うのだ……」


 時間もなければ未だサイガンとマーダを繋ぐ具体的な(すべ)も用意出来てはいない。皆の前ではリーダーとしての落ち着きをやってのけた。


 だがこの元・暗黒神の前では、その焦燥(しょうそう)を何故か隠すことが出来ないローダである。

 散々意識を共有して腹の探り合いした仲だからなのだろうか。


「お前、俺達にも同じようにその身体を(あず)けてみないか?」


「な、何を言い出すかと思えば。お前がノーウェンの代わりになる身体を探して参戦したいのは理解しているが、そんな戯言(ざれごと)に付き合う余裕はない」


「ま、まあ聞けよ……別にお前を乗っ取ろうって訳じゃない。今のノヴァン達と同じだよ、お前の身体を通して俺達の魔法力を現界(げんかい)出来やしないかと思ったんだ」


 そんな話ならもう用はないとばかりに背を向けそうになったローダをヴァイロが慌てて肩を(つか)んで止めようとする。


 師匠の交渉にすらなってない物言いに「ヴァイ……ハァ…その言い方はお前が悪い」と青い髪を(いじ)りながらアギドが(あき)れ果てる。


「ローダ・ロットレン、どうぞ俺達の魔法を自由に使って下さい。流石に扉の力は魂そのものが(マーダ)の中にある以上、渡せそうにありませんが……」


「そうだそうだっ! 俺だってあの盗人野郎にリベンジしたいんだっ!」


「な、何だと? そ、そんなことが……あ、いや、待て……確かに出来るな」


 アギドが改まって判りやすく結論から伝えてゆく。その隣で最年少のアズールも立ち上がって声を張る。


 アギドと違って「お前にくれてやっから使えっ!」と強要しているような言い方だが要は同じことだ。


 それを聴いたローダが一瞬「馬鹿な」と言い掛けて直ぐに考えを改める。これまでにも扉の封印を解く際に共有した連中の力を(いただ)いた経緯(けいい)がある。


 …………出来る、恐らく余裕で。ただ正直今さらという気分もあるし、此方にはフォウ・クワットロという超優秀な黒魔導士が共闘している。


「おぃっ、お前、今さらって思っただろ? えぇ、コラッ」


「よ、よせ、止めろ………」

「馬鹿ヴァイッ! 良いからサッサと大事なことを言いなよっ!」


 能力とかそんな(だい)それたものじゃなく………ローダの考えが顔に出てるのを見て、ヴァイロが首を腕で絞めて(ヘッドロックして)頭を拳でグリグリする。


 その様子にリンネ(若い夫人)が指差ししながら大きな声で注意するのだ。本当にこの一回り以上歳が若い妻に対して忠犬のように言う事を聞く。


 とにかくそういうことならローダに何のデメリットもないので、すんなりと承諾した。


 ヴァイロのお勧めポイントが中々どうして意外であった。彼の言う通りにやれるとすればマーダとサイガンを繋ぐ足掛(あしが)かりになるかも知れない。


 それとは別にミリアは防御呪文のスペシャリスト、マーダの紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)による攻撃を防ぐ手助けになりそうだ。


 加えてアズールは攻撃力増強の呪文(スペル)を持っていた。相手は不死だからそういうのは(いく)らでも欲しいものだ。


 ……魔法、ローダ当人はこれまで精霊術しか使ってないので、正直自身がないのだがアギドが「自由に使って欲しい」と言ってくれたのでどうにかなりそうだ。


「さてと、先ずは通常魔法から試してみるか。ドゥーウェン、レイ、済まない。今から詠唱をするので皆を頼む」


「え………」

「詠唱? お前が?」


 驚くドゥーウェンとレイを他所に置いて、意識を集中してゆくローダである。


「ロッカ・ムーロ、暗黒神(ヴァイロ)の名の元に、いかなるモノも通さぬ強固な壁を()()に………『白き月の守り手(フェルメザ)』!」


(フェルメザ!? ミリアが得意とした強力な防御魔法をあのローダが?)


 ベランドナがニイナと呼称されていた時の記憶の引き出しに存在する魔法の名前が、突然最後尾のローダの声で聴こえてきたので驚いて振り返る。


 (しか)も一人にではなく「我等」、(すなわ)ち全体を範囲対象にしたのだ。


 そして何よりも驚愕(きょうがく)したのが、ローダと懐かしい16歳のオレンジ色の瞳(ミリアの瞳)が重なって見えた気がしたことだ。


「おぉぅ?」

「こ、この輝きは一体?」


「ロッカ・ムーロ、暗黒神(ヴァイロ)の名の元に、いかなるモノも通さぬ強固な壁を()()に………『白き月の守り手(フェルメザ)』!」


 ローダの詠唱直後に自分達の身体が月明かりのような白い輝きを放つことに皆がどよめく最中、さらにその驚きに輪を掛けるのだ。


 ただこの連中に最前線で戦っているルシアとリイナだけは入っていないようだ。


「暗黒神の防御魔法(フェルメザ)の二掛け!? あの男が?」


 これには今を生きる暗黒神魔法のスペシャリストであるフォウですら驚いて目を白黒させている。


 攻撃・防御に限らず能力値向上の呪文(スペル)は総じて難易度が高いのだ。爆炎系などの攻撃魔法は自分が契約する神に祈りを(ささ)げると共に化学反応を起こすことで成立する。


 だが能力値向上の呪文(スペル)は掛ける相手の身体の中でその反応を起こさねばならない。失敗すると術者ではなく、掛ける相手に悪影響を及ぼす。


 それにハッキリ言ってしまえば()()系。やるからには自分の力で敵を吹き飛ばしたいものだ。だからそもそも覚える魔導士自体が少ないのだ。


 加えてそれを仲間全員に二掛け、即ち効果を倍加させるのが狙い。これは随分と強力な術士を引っ張り出してきたとフォウは確信に至る。


「ふぇ、フェルメザァッ!? こ、これは不味(マズ)いぞッ!」


 珍しくマーダが驚きの声を上げ、ローダに向かって紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)を振り下ろす。


「し、しまったっ!」


 これにルシアとリイナの反応が(わず)かであるが遅れてしまった。遮蔽物(しゃへいぶつ)はホーリィンが事前に仕掛けておいたシルドと光の幕(レグ・スクード)だけである。


 魔力の壁が目に見えて斬れた処を見るに、一応の効果はあったらしいが完全に止められてはいないだろう。


 後はローダ当人が背中の翼を咄嗟(とっさ)に前へ出して避けようと試みる。白い翼の奥から血が噴き出す。


「ローダっ!」

「フ、フフッ……」


 ローダがやられたと絶望するルシアと、ローダをやれたと内心喜ぶマーダ。だがゆっくりとその羽を開いた後にその反応が逆さまになる。


「な、何ィッ!?」

「よ、良かった……大したことなくて」


 確かに見えない太刀筋(おおたち)はローダを捉えてはいた。しかし斬られたとはいえ、致命傷(ちめいしょう)には至ってなかった。


 しか甦生の孔雀(エタビウス)によって、その傷すら再生が始まっていた。


「やっ……」

「「やったぁぁっ!!」」


 これはヴァイロの意識空間にてその結果に思わずウルッとするミリアと、当人よりもハイタッチで喜びを表現するリンネとアズールである。


 150年前には竜之牙(ザナデルドラ)を振るう戦の女神(エディウス)(ふん)するマーダの攻撃を防いだミリアの防御魔法。


 150年後にも同じことをやってのけた。死して(なお)も助け舟になれたのだから感慨(かんがい)深いのも当然であろう。


 ―ろ、ローダ様っ! 最前列の御二人には一刻も早く()()()()()を!

「了解した………ドラゴ・スケーラ、暗黒神(ヴァイロ)の名において、来たれ新月の影………」


 一気に勢いを増したミリアがローダに次の指示を勝手に飛ばす。ローダとて反対する要素が見当たらない。


「し、新月の影ッ!? い、いかんッ! それだけはァァッ! グボァッ!?」


 ローダの詠唱を聞いたマーダが明らかに狼狽(ろうばい)する。余程強力な術に違いなかろう。


 ローダに向けて手加減皆無の最上段からの振り下ろしを狙ったマーダである。


 けれどそんな二度も、増してや、さらに大振りの一撃を、目の前のルシアとリイナが許す訳がない。


 ルシアが右拳、リイナは左拳でマーダの(ボディ)を打ち抜いた。マーダが吐血しながらくの字に曲がる。


「………陽の光すら通さぬ衣をかの者に与えよっ! 『新月の守り手(ベスタクガナ)』!」


 ローダの詠唱が完結する。先程は白い月の光であったが今度は真逆。ルシアの身体に漆黒(しっこく)の円、新月が舞い降りて()()()()(おお)う。


「べ、新月の守り手(ベスタクガナ)……。これは恐れ入ったわ……」


 元・ヴァロウズ4番目の魔導士であるフォウすら目を見張って(うな)る結果だ。


 新月の守り手(ベスタクガナ)……それは暗黒神の真祖(しんそ)ヴァイロとその弟子であったミリア・アルベェリアしか使えぬ言わば専用呪文(ユニーク・スペル)だ。


「………と、いう事はあの男(ローダ)に力を貸しているのはミリア様。まさかただの剣士があれを唱える姿を見ることになろうとは………」


 まるで150年に一度しか訪れない天体を観測したような何とも言えぬ気分のフォウであった。

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