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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第11部 『兄 "再会"・闇 "再来"』編
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第7話 膠着状態

 マーダが自身の意識を形成しているAYAMEプログラムを載せたナノマシンを逆Hackした。正確には自分の改造に必要な一部を乗っ取りしたという感じか。


 とにかく人類を(はる)かに凌駕(りょうが)した力を手に入れたということだ。


 これに殺意()き出しの紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)と、恐らくルイスが創り出した扉の力すら使えるのであろう。


 やはり加減などしてる余裕は皆無であったと誰しもが思い知る。


「どうせ死なねえんだッ! 此処からは殺意全開でやってやるッ!」


 レイが自身も空間転移させながら、持っているありったけの武器もそれぞれ転移させつつマーダを追う。


 ルイスを取り戻すべくローダの援護(えんご)に徹していた時は、あれでも手加減していたのだ。


 具体的には一応急所を狙いから外していた、もうその必要はないと勝手に解釈(かいしゃく)する。


「フッ! 届くものかァッ!」

「クッソッ!」


 音速で飛べる相手だ。(かわ)しもするし身体に届きそうでも剣で弾いてしまう。途方もなく人間離れした動きにレイが「理不尽(りふじん)だ」と腹を立てる。


「カテーネ・レゲーノ、大気の精霊達よ。かの者を束縛(そくばく)する光と成れっ『雷の拘束(ヴァエミコーダ)』!」


 次にベランドナが動く、電撃を帯びていると思われる矢を次々と飛んでいるマーダに向けて放ってゆく。


 どれも当たることはないのだが、矢が宙に光の筋で弧を描き、円錐(えんすい)状に続々と繋がってゆき、気がつけばマーダの周囲を鳥籠(とりかご)のように(おお)ってゆく。


 相手の動きが尋常(じんじょう)でない。だから先ずは拘束(こうそく)するべきという判断であるのだが、籠の中の鳥(マーダ)は、それをアッサリ破ってしまった。


拘束(こうそく)か……。もっと頑強(がんきょう)にやれれば最も有効な手段には違いない。ヴァイの『蜘蛛之糸(ラグナテーラ)』ならいけるんじゃないか?」


 またもやヴァイロの意識空間、一番弟子のアギドがベランドナのやり方を見ながら(おの)が師に問う。


 ヴァイロは伏目(ふせめ)で首を横に振りながら「確かに考えられる最強の拘束には違いない。だがこの俺の能力を継いだ男だ。拘束の解除手段も理解している」と答えた。


 それを見たアギドも「ふぅ……それもそうだな」と溜息(ためいき)混じりに肩を落とす。


「んっ? いや、待てよ……完全な拘束は不可能だが、あの馬鹿みたいな速度を抑える術なら……」


「えっ……そのような術、(わたくし)は知りませんわ」


 ヴァイロの発言に一同が耳を(かたむ)け興味を示す。このミリアもそうなのだが、暗黒神(ヴァイロ)の魔法に相手の素早さを落とすような術があることなど知らない。


 一番弟子のアギドでさえもだ。扱えるかどうか別として、知りもしないというのはおかしな話だ。


 何しろ此処にいる者は、気まぐれな森の女神(ファウナ)を除いて、同じ時期に死しているのだから。


 以来、暗黒神の魔法はその進化の歩みを止めているのだ。此処に至って新呪文(スペル)など在り得ない。


「しっかし此処から出られなければどうにもならんのだ……」


 弟子達の驚きはどこ吹く風、ヴァイロが歯軋(はぎし)りしつつ未だ解決していない問題を(つぶや)いて終わる。


(むぅ……これでは、このままではいかんっ!)


「ルシア、ローダ、リイナ以外は転移以外で飛ぶことを止めるのだっ! 相手と同じペースでやれるなら良しっ! だがそれが出来ない者は危険だっ!」


 地上で空中戦を眺めていたジェリドが、マーダに聞き耳を立てられることなどお構いなしに声を(はげ)まし皆に聞こえるように告げる。


 皆、その迫力に気圧(けお)されて空中戦を得意としていない者は地上へと降りてゆく。未だぬかるんだ地面が正直気持ち悪い。


 ルシアとリイナ、そしてローダは一瞬宙で静止し互いに目と(うなず)きだけで合図を送り合う。


 飛ぶことを許されていたローダも地上へ降りて行きジェリドの元へ向かう。

 一旦、マーダの相手は最速の(ほこ)であるルシアと、恐らく最強の盾を備えたリイナに(たく)した。


「ジェリド、何か策があるのか?」


 ローダが珍しく接触(コンタクト)を使わず肉声でジェリドに質問を投げ掛ける。


 ジェリドがランチアと共に、ラファンの砦を守っていた最強の敵を完封したことは彼も聞いている。


 もっとも今のマーダとその敵の実力は比べようもないが、似たような者を相手にした経験値と何より正規軍(せいきぐん)で指揮を()った手腕(しゅわん)は一目置いている。


「………済まんっ! そんな都合の良いものはないっ!」

「そ、そうか……いや、此方こそ済まない」


 あえて正直に無策であることを堂々と言い切るジェリドである。でもだからこそ皆、どんな奇策を授ける者より信頼を得られるのだ。


「ただ奴のペースに載せられ過ぎだ。斬られる前に斬る、それは恐らく正しい。しかしバラバラに動いていては、数の優位性を損なう恐れを感じたのだ」


 そしてこのようにただの馬鹿っぷりを見せるだけでは終わらない。無骨(ぶこつ)だが威厳(いげん)のある指摘(してき)が浮足立っていた皆の心を落ち着かせる。


「僕も同意見です。此処は相手の攻撃を防ぐためのやり方に専念しつつ、マーダと……ええと……」


「マスター・サイガン……」

「そ、その老人を(つな)(すべ)模索(もさく)しましょう。これでは考えを回す時間も作れやしません」


 此処で賛成の意見を()べるのは、このパーティーには新参者と言えるハイエルフのレイチであった。


 サイガンという名前が出ずにベランドナ(ニイナ)が横から助け舟を出す。


 それを聴いたローダがルシア達と交戦するマーダと、地上で黙り込んでいるサイガンに視線を送る。


 何とも困った話なのだが、サイガンからは「とにかく我とアレ(マーダ)を繋げ」としか言われておらず、肝心なやり方は「任せる」と投げられっぱなしなのだ。


 (しばら)くの沈黙が一堂(いちどう)に訪れた後、ローダが口火(くちび)を切る。


「判った、では攻守一体のグループ別にしよう。マーダの紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)を受けられそうな者と攻撃で撃ち落とす者。三人づつ位に分ける……」


 ローダの案で以下に振り分けられた。


 先ず第1グループ。

 前衛が戦乙女(ヴァルキリア)と二刀ダガーの使い手レイチ、中盤を馬上槍(ランス)の使い手赤い鯱(プリドール)、後衛に弓と精霊に()けたベランドナによる三人組(スリーマンセル)


 次に第2グループ。

 前衛がハルバードの使い手青い鯱(ランチア)、中盤を超巨大剣のジェリド、後衛に暗黒神の魔導士フォウの三人組(スリーマンセル)


 最後は(かなめ)と言って差し支えない第3グループ。


 前衛に二人、二丁拳銃(ツーハンド)と空間転移のレイと示現我狼(じげんがろう)のガロウ、中盤に氷狼(ひょうろう)の刃の使い手であるトレノ、後衛に司祭級のホーリィン。


 竜の力を操るローダと自由の爪(オルディネ)がまだ残っているドゥーウェンは、この3グループ全体を俯瞰(ふかん)で見つつ援護する。


 サイガンにはいつマーダを消す(フォーマットの)機会が(めぐ)って来ても直ぐに移れるよう、それだけに専念させる。


 ルシアとリイナには、勝手ながらそのまま最前線でマーダの相手をして貰う。

 もっともグループ内でのポジションチェンジは自由とする。


 さらに1から3グループの配置は、3方向からマーダを取り囲むようにしてはいるものの、何せ相手は音速で空を飛ぶから、余り意味があるとは思えない。


 もっと言うならこの組合せが最善(さいぜん)などと言い切れる訳がない。早い話がやってみなければ判らんといった処だ。


 それにローダの転移の翼(メッタサーラ)を誰でも使えるようにしたのだから、シグノの羽さえあれば自由自在である。


 けれど人間というものは役割を与えられると一応の落ち着きを得るというものだ。それにこの中に弱者など一人としていない。


 強者同士が結束(けっそく)すれば根拠がなくても勇気が湧くというものだ。


「ベランドナ、そしてホーリィンさんも頼みます……」


 ローダの指示通り、ベランドナが勇気の精霊『戦乙女(ヴァルキリー)』の詠唱に入り、続いて風の精霊術である言の葉や、各々の武器に炎の精霊などを付与(エンチャント)する。


 ホーリィンは物理攻撃の盾になる『シルド』、さらに紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)の攻撃はどちらかと言えば物理というより魔法攻撃に近しいという考察から『光の幕(レグ・スクード)』の奇跡も行使する。


 何が効果的など誰にも判りはしないが、出来る限りの底上げをすることが無意味だとは思えない。


 何しろ戦士達の意識が高ぶるだけでも充分なのだ。


 ―おぃっ、竜騎士の青年(ローダ)。お前に相談事がある、決して悪い話じゃない。


 さていよいよこれから……そんな時に水を差すタイミングでヴァイロの意識がローダに語り掛ける。意識の声が(みょう)に食い気味である。


 ただローダ達はマーダの本当の理不尽(恐怖)の理解度が不足していた。その理不尽達による取り囲みが既に始まっていたのを知らない。

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