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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第11部 『兄 "再会"・闇 "再来"』編
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第6話 兄さんの身体を好きに弄ってくれたものだ

 マーダに反抗を企てる者達の身勝手(バフ)が凄まじい。リイナの甦生の孔雀(エタビウス)による再生能力。


 無論、マーダ程ではないにせよ、これで相手の攻撃を気にせずに飛び込めるというものだ。


 さらにローダがヒビキ・ロットレンの能力をそれこそ身勝手に解釈して転移の翼(メッタサーラ)すら皆に付与した。


 響くのは声や意識だけではなかったという何とも自由が過ぎる。これではいよいよマーダの方が完封されてしまうのではなかろうかと余計な邪推(じゃすい)をしてしまう。


「斬るの()俺だっ(おいじゃっ)!」

「黙れ芋侍(薩摩の侍)ッ!」


 マーダの背後に空間転移したガロウが最上段の構え(蜻蛉の構え)で頭からの真っ二つを狙う。


 一方正面に出現したトレノ(士郎)が得意の左下段からの斬り上げで襲い掛かる。何れも全く退く気なし。


 この互いタイミングなら間違いなくマーダが真上からと右下から袈裟懸(けさが)けに斬り裂かれ、加減知らずの二人の剣がぶつかり合うかに思えた。


 カキンッ!!


「むっ!?」

「な、何だァ!?」


 トレノの刀、ガロウの刃、その何れにも人を斬った感触が皆無であった。刀同士がぶつかり合う音と、手を通じて骨に達する痛みで顔を(しか)める。


 またもや霧散化してマーダは消えたのか……いや、そうではなかった。堕天使と化したルシアの音速を思わせる速度と同じ位ではあるまいか。


 そう周囲に思わせる程の速度違反で動いたのである。余りに早過ぎてマーダの黒い残像が残った。それをガロウとトレノの二人が斬れると勘違(かんちが)いした。


 マーダが移動した先は何処だ? 一番先に見つけたローダが愕然(がくぜん)とする。


 義理の父、サイガン・ロットレンの目前に現れて、その白髪頭(したがあたま)鷲掴(わしづか)みにしていたのだ。


義父(とお)……」


「おっとぉ、そこを動くなよ小僧。今ならこの爺の頭をグシャリと生卵のように潰す事だって出来るし、(ある)いは首を()じ切ることも容易(たやす)い」


 救援行動に移る以前の問題、ローダは名前を呼ぶ事すら(ゆる)されなかった。此処にいる面子とローダの構築した意識空間の中に潜むヴァイロ達。


 その全てを含めてもマーダを倒す力を持ち合わせているのは、そのサイガンだけなのだ。だからこそ動揺を隠せない。


「ハハァーンッ……成程成程、この抜け目ない爺め。我の意識の情報(データ)だけを消す(フォーマットする)つもりでいたのか……」


「ローダよ、構わんからやれッ!」

「クッ!? ……そ、そんなこと出来る訳がないっ!」


 マーダに取っては、およそ300年前、自分を創造しておいて挙句(あげく)の果てに捨てた(いく)ら殺しても足りない爺だ。


 だがあえてそれを即実行に移さず、サイガンが、ひた隠しにしていたことを勝手に暴露(ばくろ)し始める。


 サイガンが言う「構わんからやれ」の意味合いはただ一つ。背中から自分毎、マーダをその剣で(つらぬ)けなのだ。


 悔しみが(あふ)れた顔を(そむ)けながら否定するローダである。そんな(むご)いことがこの優しい青年に出来ようものか。


「我とこの爺を物理的に結び、削除を(フォーマットを)実行する(走らせる)……か。確かに最高の好機(チャンス)だなァッ!」


 ローダの方は全く関せず、サイガンを頭ごと持ち上げるマーダである。サイガンは一切抵抗する素振りすら見せない。


 ダラリと全身の力を抜いて()れ下がる。しかし心中には、とんでもない()()(いだ)いている。


 ……自らが産み落とした鬼子(マーダ)と共に死ぬる覚悟だ。


 (しか)もこのマーダがよくもまあペラペラと喋るのだ。マーダは()()()、周囲にとって最高の希望を自ら明かしたのだ。余裕を魅せつけるためか。


 他の連中も石化したかの如く何も出来やしない。あれだけ勢いがあったというのにすっかり静まり返ってしまった。


「……全く、どいつもこいつも優しさが過ぎる。なあマーダよ、そこまで言い降らしたのだ。瞬時に(わし)(とら)えたカラクリも、いっそ披露(ひろう)せんか……」


 ゴツンッ!


「アアンッ!? 調子に乗るなよこの塵屑(ゴミクズ)がッ!」


 もう二度と訪れやしない機会であるかも知れぬのに誰も行動出来ないのを見て、諦めたサイガンが口を開く。


 頭にきたマーダが老人に頭突きをくれて、その額を割って見せる。頭から血を流しながらもサイガンは決して揺れない(ブレない)


「……良いだろう。だが聞けばさらに貴様等の顔が曇るだけだ。我が人体を改造して兵を造っていたのは知っているな?」


 怒りを冷笑に変換したマーダが老人の挑発に乗り始める。「人体を改造した兵……」という言葉を聞いたジェリド、ランチア、ベランドナ等が反応する。


 ラファンの砦を攻略した際に争った強敵達がそうであった。特にこの三人が相手をした連中の強さは常軌(じょうき)(いっ)していたことを思い出す。


「あの可哀想(かわいそう)な子供達とその父親……正直思い出したくもない」


 とても複雑な表情でベランドナが弱々しく口にする。あの戦いは単純に強弱と勝ち負けだけでは語れないものを彼女に残したのだ。


「そうだ……我はただルイスという愚者(ぐしゃ)(くっ)したフリをしていた訳ではない。サイガン、貴様が全世界に放ったあのふざけた存在(ナノマシン)……」


 マーダがルイスから「代わりに扉を開く……」と提案されたあの屈辱の(とき)を回想する。


 自分には進化の道を与えてはくれないAYAMEプログラムを宿(やど)したナノマシン達なぞ、流れる血を全て抜き取って廃棄(はいき)したい位の存在だった。


「貴様等はアレと自分等が共存することで進化する道を開いたな。我はその逆のやり方を模索(もさく)したのだ」


「な、何だと?」


「ルイスに自分を任せている間に随分と時間が作れたからな。我はあの小汚い虫共(ナノマシン)を操り、宿主である人間だけを強化させる(すべ)を見出したっ!」


 魂を持たない自分(出来損ない)には開けない扉の力だ。だから(うば)う事ばかりに固執(こしつ)していた。


 自らを見つめ直す時間が出来ると、何故今まで気が付かなかったという発想へ割と安易(あんい)辿(たど)り着けた。


 驚くサイガン、共存による進化だけを見続けてきた彼に取って、それは微塵(みじん)も思い至らない考えであった。


「実に単純な理屈(りくつ)だ。特に死期が近い人間ほどこのやり方は効力を存分に発揮した。宿が失われては利用する(寄生する)連中とて大いに(あせ)る……」


 とても小気味良い感じで語るマーダと対照的にベランドナの顔に掛かる曇り空が拡がりを見せて、今にも()を降らせそうだ。


「だから奴等は必死に修復する。それを応用すれば人体を外から改造するよりも速く、しかも正確に強化出来る……まあやり過ぎた連中はボロボロになったがなァ!」


「アァァァァッ!!」


 遂に我慢の限界が来たベランドナが頭を抱えてしゃがみ込む、声にならない叫びと共に。彼女が戦った子供達が正にその「やり過ぎた連中」であったのだ。


 死期の近い病気を抱えていた、そこをマーダは改造という名目で救い上げた。「マーダ様に命を救われた」と健気(けなげ)に戦いを挑んで来たことを思い出す。


 胸が苦しい……確かに命が救われた事実こそあれど、それを戦争の道具に仕立(した)てたのだ。いや、正確には自ら望んで先兵(せんぺい)と化したのだ。


 彼女はその泥沼の戦いに勝てたから今こうしていられる次第だが、もう二度とあんな思いは御免(ごめん)である。


「どうだ? 此処まで語ればもう頭の悪い貴様とて話は見えたよなァァッ!?」


「ああ……吐き気がするほど()に落ちたわ。数多くの救済を名目にした改造実験。その集大成が今のお前さん(マーダ)という訳だな」


 ひとしきりの説明を終えたところでマーダの両目が真っ赤に染まり、生物とは思えない呼吸を始める。


 まるで先程サイガンが運転していた自動車の排気音のようである。


 サイガンが汚物を見るような目でマーダを(にら)む。これは実に複雑な意味合いが絡んでいる。


 最初のマーダを創ったのは自分である。そして今の彼を創る原動力となったナノマシンの開発に(たずさ)わったのも同じく彼だ。


 ただ全く予想だにしていない進化を遂げ、敵として立ちはだかっている。

 この存在を認めたくない自分と、技術者としては興味深いと思った自分が(せめ)ぎ合っている。


 このやり取りを聴いてローダが静かに激昂(げっこう)する。無言で転移の翼(メッタサーラ)を用い、マーダとサイガンの間に割って入る。


 さらにサイガンの頭を(つか)んでいたマーダの手を両断した。これでサイガンは逃れることが出来た訳だが、ドサッと地面に落ちて痛そうに腰を(さす)る。


 いつもの優しいローダであればこの老人を受け止める位のケアはしたと思われる。


「………よ、よくも兄さんの身体を好きに(いじ)ってくれたものだ」


 これが怒りの正体である。傷つけられたのは魂だけではなかった。先程の人間離れした動きから想像するに、兄の身体には相当の負担を()いている筈だ。


 やはり一刻も早くマーダを消す必要がある……けれどそんな好機(チャンス)をどうやって引き寄せるか? 何しろたった今、ローダ自身がそれを消してしまった。

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