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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第11部 『兄 "再会"・闇 "再来"』編
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第5話 加減? そんなものする気もない

 紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)の秘めたる力を存分に(ふる)い、全てを()()せるかに思えたマーダ。


 けれどもローダの方は、圧倒的に(おと)っていると思われた竜之牙(ザナデルドラ)で大いに対抗する。


 竜之牙(ザナデルドラ)とシグノの羽を使った転移の翼(メッタサーラ)で肉薄してみせた。


「だが良いのかァ? 次は貴様の居所にこの女騎士(プリドール)が返るのであろう?」


 両肩、右手、おまけに腹をズブリと貫かれた傷が再生し切らぬまま、マーダが赤い歪な剣(レッド・ミラージュ)を振り下ろす。


 確かにマーダ宛に送りつけたプリドールが、またもローダの場所と入れ替われば真っ二つにされるであろう。


 そしてマーダの思惑通り、再びローダが居た場所にプリドールが出現する。


「………混沌を斬る刃(レッジスラッシャー)

「何ィッ!?」


 けれどローダが次に出現した場所はマーダの目前ではなかった。プリドールとマーダ、その丁度中間地点辺りに浮いて現れる。


 そして蜃気楼(しんきろう)太刀筋(たちすじ)を、どんな術でも斬り裂く白竜の牙(ザナデルドラ)で軽々とあしらう。お陰でプリドールは、事なきを得た。


 その刹那(せつな)、マーダの目前には違う女が転移して真っ赤に燃えた左拳をズドンッと打ち下ろす。


「ウグッ! ルシアァァッ? 何故貴様が転移するッ!?」

「ハンッ! 私にはローダの能力が()()()いるのよっ!」

「な、何だ、その屁理屈(理由)はァァッ!」


 眉間(みけん)を炎の拳で殴られたマーダ、恐らく骨にひびが入っている。だが血を流しつつ、そちらよりも転移能力の持ち合わせがない筈のルシアが現れた驚きの方を指摘する。


 ルシアが面倒臭そうな顔で「響いている」と、さも当然のように答えを出した。何とも強引な理由だが、ヒビキを抱えた(身籠る)彼女は、夫の力を共有出来るらしい。


「おっと、次は空間転移の専門家(スペシャリスト)である俺様よっ!」


 丁度人間一人分程の距離を置いた所にニヤついたレイが二丁拳銃を構えて(ツーハンドで)出現する。彼女なら自力で自由に行き来出来る。


 しかし今度はマーダの方が赤い霧となってその場から消え失せた。目標を失ったレイが舌打ちしたのは言うまでもない。


 蜃気楼(ミラージュ)と化したマーダが次に狙うは一体誰か。


「そこっ!」


 小さな武器が鋭く宙を駆ける、少し小柄なハイエルフの男も同時に空を蹴って駆け出す。自らが投じた武器と同速……いや、(わず)かに速く追い抜いてしまった。


 レイチがダガーを1本投じた直ぐ目前には女魔導士フォウが居る。レイチが彼女の前に陣取り、投げたダガーを気軽に受け取る。


 さらにこれから出現するであろう赤い霧の正体に向けて迷うことなく突き立てた。


「グッ! な、何故判ったァッ!」


「貴方は動(どう)せず相手を斬れるのに移動は良くない(頭が悪いです)。判った? 違います、見えてるんです。戦乙女(ヴァルキリア)で強化した僕の目なら霧一つ見逃しはしないっ!」


 レイチのダガー、小さな刃物が戦果を挙げる。マーダの両目を穿(うが)ってみせた。彼は居場所どころか、刺し所すら初めから狙っていた。


 その神業を見たローダが少しばかり嫌な顔をしてしまう。何しろマーダになってしまったとはいえ、容姿は兄であるルイスそのものなのだ。


 大好きな美しい兄の顔が斬られたのを見て、歓喜(かんき)する弟がいたとするならどうかしている。魂は消えていないと知ったのだから尚更(なおさら)だ。


 再生の時間だけ視界を(うば)われたマーダである。この秒に満たない間であれば誰でも好きに攻撃出来る。


 けれど視界の優越なぞ完全に度外視(どがいし)したモノが、マーダの背後にヌッと現れ影を創る。


 そしてそのまま()()()()のだ。潰し斬る……そんな言い方は余りしないものだが、本当にマーダの両腕を(つぶ)しながら切り離したのだ。


 やったのは柄の長い斧(バトルアックス)しか使わない筈のジェリド・アルベェラータであった。


 (しか)も両手に1本づつ握っている。もう錆び朽ちて刃こぼれも酷い、2mを超す超巨大な両刃の武器だったものの成れの果て。


 大剣? メイス? もう何に分類すれば良いのかすら判別出来ぬ存在だ。それにしてもジェリド。


 普段から超重量級の武器(バトルアックス)をまるで竹槍の如く、軽々と振るってはいたが、まさかこんな化物じみたものすら扱えるとは驚きである。


 見事に振り抜いてみせた当人が誰よりも一番驚いた顔をしていた。一体何処からこんなおかしなモノが降って湧いたのか?


 戦乙女(ヴァルキリア)で強化したレイチが「貴方の()()()からの置き土産です」と無造作に、そして唐突(とうとつ)に投げ込んできたのである。


 ジェリドも大概(たいがい)だが小柄な体で此処まで運んできたレイチも中々どうかしている。


(………何故こんなモノが何故こうも馴染(なじ)むのだ?)


 これがジェリドの心地である。初めて振るった武器なのに、まるで少年時代から接してきたような気さえする。


 両腕にズシリとのしかかる重量感すら彼の欲求を満たしてくれた。


 そんな中年の戦士の様子にニイナ(ベランドナ)が150年前共に戦った者と影を重ね合わせてみる。神殺しの方も当たっているの(アルベェラータの血筋)ではなかろうかとほくそ笑んだ。


 紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)を得物にしているマーダがまるで生きた移動砲台にように何処にいても攻撃を届かせるのであれば、やられる前にやる。


 実に単純な思いつきだがローダの発想と大いなる多勢に無勢だから今のところ成し得ている。


 もっともこんな戦い方で押し切れる道理がない。


 実はローダ、既に戦う以前、サイガンから必勝法……そんな威勢(いせい)の良いものではなく、他に勝てる方法がない見込みを伝授(でんじゅ)されている。


 勿論生易(なまやさ)しいやり方ではない。先ずは時間、ローダが扱う緑色の輝き(真なる扉の輝き)は時間制限こそないが戦士達は皆、生身。


 肉体もそうだがVer2.0(アイリス)はとにかく神経細胞の伝達(シナプス)酷使(こくし)する。ローダはルシアとヒビキの能力を駆使(くし)して死人の意識すら繋げた。


 確かに情報の処理能力が飛躍的に向上したが彼とて人間である。他の仲間達も言うまでもない。


 さらに時間について大きな課題が残っている。ルイスの魂の情報(データ)は、まだ確かに消えてはいない。


 つい先程マーダはルイスの意識を無理矢理支配した。そこまでならまだ良かった……紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)御大層ごたいそうに胸を刺したのはハッタリじゃない。


 ルイスの魂は確実に傷を負っている。このままではマーダの意識がルイスを完全に飲み込んで取り戻せなくなる。


 ………精々(せいぜい)()って30分、もっと言うなら皆が能力を出し続けれる時間(リミット)、個人差はあれど20分。これがサイガンが導き出した予測だ。


 此処からは、なるべく皆を疲弊(ひへい)させずに30分の延長時間(ロスタイム)をフルに使うか。


 (ある)いは与えられた20分を全開(フルバースト)で一挙に決めるか。ローダの知略が求められる。


(だが義父さん(サイガン)………(いく)ら何でもアレを相手に要求(ハードル)が高過ぎる。出来るのか? そんなことが………)


 悠長(ゆうちょう)に作戦を考えてる猶予(ゆうよ)はないが、決して失敗も(ゆる)されない。


「エターニタ・ルシーオ、不死と永遠の同居する孔雀(くじゅく)よ、その羽根を我等に授けよっ!」


 突如聞き覚えのない詠唱が思い悩むローダの聴覚を刺激する。行使したのはリイナだ。


 リイナ当人にそんなつもりはないだろうが、まるで「何をモタモタしてるんですか!」と背中を思い切り押された気がした。


「……羽ばたき、そして導け! 『甦生の孔雀(エタビウス)』!」


 彼女の全身から炎を噴き出し、そして火の鳥の姿となって、皆の上を悠々(ゆうゆう)旋回せんかいする。


 燃える孔雀の羽の様なものが、マーダ以外の皆に降りて来た。


「皆さんっ! どうかその羽を受け入れて下さいっ! 自然治癒力が格段に上がりますっ!」


 もう一人一人に回復術を(ほどこ)している余裕はないと認識したリイナが不死鳥の再生力を皆に分け与えたのだ。


「おおっ!」

「そいつは凄ェ!」


 仲間達からの歓声が上がる。少しくらい斬られようが構いやしないとばかりにマーダに向かって勇敢に飛び込んでゆく。


 その頼もしい勇士達を見送る形になったローダが苦笑してやがて破顔(はがん)に変わる。悩みごとの一つを消してくれた。


 ………加減? そんなものする気もないし、そもそもそれ程器用じゃない。


 皆が勇気(全力)を振り絞るのは毎度のことだ、リイナの回復術を貰ったからという訳ではない。


「シグノッ!」


 ―そして出来るな? ヒビキ?


 ローダが再び転移用の翼を散らす。先程よりも広範囲で(しか)も各々へ大量に配られた。


 ―皆、転移の翼(メッタサーラ)だけで済まないが、自分で好きに出来る(動ける)ようにした。存分に暴れてくれ、但し致命になる一撃だけは避けるんだ。


 少し知恵が回るようになると余計な悩みを抱くものだ。仲間達にはいつも全開を()いてきた。


 何を今さら……「仲間の力が俺の力……」さっきそう告げたのは己ではないか。俺が皆を信じないでどうする?

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