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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第11部 『兄 "再会"・闇 "再来"』編
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第3話 アレで死んだ訳があるものかッ!

 殺意を秘めた()()紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)によって斬られてしまったローダであったが、兄ルイスの真意(優しさ)を知り、死力を振り絞って立ち上がった。


 けれどもその行動を嘲笑(あざわら)い、自分の中に潜むルイスの魂にマーダがトドメを刺した。


 揺るぎない決意………の筈であった。だが目前でその絶望を見せられて、ローダは再び膝から崩れ落ちる。


「ローダさんっ!」


 此処でリイナが不死鳥の炎を燃やした(いや)しの治癒(ちゆ)をようやく(ほどこ)すことが出来た。これで体力的には起き上がれる、意識も飛んではいない。


 だがその目にはまるで生気が感じられない………無理もなかった。


 ローダ・ファルムーン改めローダ・ロットレンは、これまでずっと尊敬する兄ルイスを取り戻す。


 その目的を果たすためだけに、これまでどんな苦難にも打ち勝ってきたのである。それがたった今、音もなく崩れて消えた。


 末期(まつご)の言葉すら聞けなかったのである、今のローダは精神が崩壊(ほうかい)した死人(しびと)(ちか)しい。


 不死鳥化したリイナと司祭級ホーリィーン、二人の超優秀たる癒し手のお陰で取り合えず息を吹き返しつつある仲間達だが、何度も言う通り再びマーダがあの赤い剣を振るだけで再び破綻(はたん)するだろう。


「扉なんて面倒はものは不要、ヴァイの剣と真なる殺意さえあれば良かった。では何故態々(わざわざ)ルイスとやらの口車に乗ったりしたのだ?」


 地上の地獄絵図をヴァイロの意識空間から(のぞ)いていたアギドの台詞だ。確かにその疑問はもっともである。


「そいつは簡単さ、その真なる殺意というのは魂のある人間でなければ出せない。そもそも俺の親父は魂のない者があの剣を使うことなど考えてもみなかっただろうな」


 それに答えたのは元・暗黒神のヴァイロである。涼しい顔で応じているものの、この意識空間を創造出来たのは、地上で絶望に()しているローダのお陰だ。


 このままでは何れこの空間毎、自分達も消えてしまうだろう。


「ヤレヤレ………また魂が条件に出てくるのか。要するにルイス・ファルムーンがほんの一瞬でも構わないから、本気の殺意を出す必要があった」


「そういうことだ。ローダ青年はそれを引き出してしまった。恐らくは『周りの者に耳を貸さない、それが兄貴の弱点……』と言ってしまったことだろう」


 アギドは、ほんの(わず)かだがマーダという存在が(あわ)れに思えてしまった。意識がある、やりたいことがある、だが造り物の意識だから当人の魂がない。


 ヴァイロの方は、そんな人形みたいな奴に大事な子供達を全て殺されたのだから、そんなセンチメンタルな感情は生まれない。


 だが弟から完膚(かんぷ)なきまでに言い負かされて、つい出してはならない感情に一瞬でも支配されたルイスの方には少しだけ同情の余地(よち)があった。


「だろうな……そしてさらにルイスの心の揺らぎを呼び、マーダの意識が戻る瞬間を呼んだ……んっ? ではその魂を消されたのであれば………」


「流石俺の一番弟子は頭が回る。その考察は恐らく正しい。後はあの扉使い(ローダ)がそれに気づくかどうか………」


 ハッとなって地上の地獄から師の方へ振り返るアギドである。目が合ったヴァイロが少しだけ(ゆる)みながらそれに応じた。


「ローダさんっ! お気を確かにっ!」

「ローダっ! 生きている限り希望を捨てちゃ駄目よっ!」


 リイナとルシア、森の天使と堕天使(だてんし)に身体を揺すられているが魂の抜け殻のように応答がない。


 気持ちは判るし、例え自分を取り戻せたとしても勝ち目があるのかと問われたら、この精神(メンタル)の強い二人ですら口を(つぐ)んでしまうだろう。


「さてと無駄話は終わりにしよう。もう我は、こんなチンケな島だけでなく世界を手にしたも同然。新世界の神を現世の隅々(すみずみ)まで知らせなくてはならぬっ!」


 身動き一つしないローダの方にギロリッと冷たい視線を送るマーダ。それを感じ取ったリイナとルシアが倒れたリーダーの代わりにその視線を一身に浴びる。


 冷や汗と鼓動(こどう)の高鳴りを止めることが出来ない。不死身、必然に通る攻撃、こんな化物をどうやって倒せば良いのか見当もつかない。


 だがローダの背中を(唯一の希望を)守り抜く、その意志だけは揺るぐことはない。


「さあ、では消えて貰おうッ!」


 マーダが赤い歪な剣(レッド・ミラージュ)を振り上げた、それを見て思わず息を飲む二人。


 その余りの圧に押され、針の穴ほどであるが(すき)が生まれたことに気づけなかった。


 ズバッ!


 黒い剣士が上段まで振り上げたその刹那(せつな)、もし後の先(ごのせん)を取れるとするなら絶好の好機(チャンス)だ。


 同じ剣の達人がそれに気づいて割って入った。しかも余りにも意外なる人物である。


「グッ!?」

雁首(がんくび)(そろ)えて何をしているッ! 隙だらけだったではないかっ!」


 それは敵方であった、そしてそこで絶望を振り()いている者の最強の番犬であった。


 氷狼(ひょうろう)の刃の主、元ヴァロウズ最強の剣士、トレノが胴を()ぎ払ったのである。


「アトモスフィア・テンペスタ、大気と風の精霊に暗黒神(ヴァイロ)の名において命ず、墜ちよ裁きの雷……」


 驚くルシアとリイナの背後から(おごそ)かなる暗黒神の詠唱が聞こえてくる。


 剣士が造った隙の次に魔道士が攻め入るは、戦略の常套(じょうとう)手段。


 だがこれまでの彼女なら絶対に手を上げる筈がない。その上、暗黒神を()()()()と置き換えている。


「貴方達、一体何を(ほう)けている? あれしきのことであの()()()()()()()()()()ッ! 墜ちろ外道ッ! 『暗黒の稲妻(ヴァルミネン)』ッ!」


 未だに広がっている雨雲が雷雲に化け、本物と(まが)うことなき雷撃をマーダに落とす。


「グァァァッ!?」


 突然の雷撃に全身を(つらぬ)かれ両目をひん()いてその動きを止めてしまうマーダ。けれどこれ程のことでどうにかなるなら苦労はしない。


 フォウ・クワットロ……いや、本来ならばフォウ・ファルムーンと名乗りたい彼女がこの連撃(コンボ)で確認したかったことはただ一つ。


 もしあのマーダが自分がお(した)いしたマーダであるなら「な、何をするフォウ!?」といった反逆に対する怒りを(あら)わにした筈だ。


 やはりあの者はルイスに取って変わる前の自分が知るマーダですらないことが、これで明白となった。


 確認のための行為、そして認識は間違っていなかった……にも(かかわ)らず少しフォウは曇った顔をするのであった。


 さあ、(わず)かばかりではあるが反撃の狼煙(のろし)が上がった。それもマーダの元・最強の10人(ヴァロウズ)から始まったという皮肉である。


 此処で魔導士フォウは、ふとエドナ村での戦闘に想いを()せる。


 あの敵方の侍大将(ガロウ)鎖骨(さこつ)を折られても決して(ひる)まず我がマスターに挑み続け、(ほお)に傷をつけただけで歓喜(かんき)したことを思い出した。


 さっきのトレノの胴薙(どうな)ぎと自分が今落とした雷撃。そしてエドナ村の際にマーダの(ほお)(かす)めたナイフ。


 マーダに取っては、あれとそう大差ないのかと思うと少々()えるものがある。


 あの時、敵だった彼等のように|自分の攻勢に信念を持たなければどうにもならないと、改めてフォウは感じた。


(さて………ルイス様の弟、果たしてこのまま腑抜(ふぬ)けでいるのか…)


 フォウが言った言葉「ルイスが死ぬ訳がない」これは勿論願望ありきのことである。然し同時にこの弟へのメッセージを多分に含んでいた。


 正直腹立たしいが、やはりこの青年は、唯一無二の希望に他ならない。


 つい今しがた迄、敵のリーダーであった者に期待を掛けねばならぬ…不愉快(ふゆかい)であるが自分の下腹を撫でながら、それでも譲れないものがあると想う。


(……私は必ずルイス、そしてこの我が子と必ずや添い遂げてみせる。そのためには何だってやってみせる)


 失意の涙など流したりしない、フォウ・ファルムーンは夫と子供を守り抜く母親の覚悟をその顔に漲らせていた。


 ◇


 ―…………パパ、起きてパパ………。


「だ、誰だ? ……パパっ!?」


 真っ白い空間の中でローダが目を覚ます。聞いたことがないのに知っている気がする少女の声に起こされた。


 自分のことをパパと呼称しそうな存在………だが当然ながらそこには未だ至っていない筈の存在。声の届いた方へ(うつ)ろな顔を上げてみる。


 グレーと金の中間色のような髪色、()()()の緑の瞳。三日月の髪飾りを付けている。

 赤い縁の眼鏡をかけており、胸元だけが白く、あとは紺色を基調としたブレザーのような格好だ。


 顔を少し赤らめながら笑顔を此方に向けている………直ぐにローダはこの娘の正体に勘づいた。


「ひ………ヒビキなのか?」

「そうだよパパ、やっと、やっと、お話出来るね………」


 まだ胎児(たいじ)である筈のヒビキ・ロットレンが目を(うる)ませながらそこにいた。

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