表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第11部 『兄 "再会"・闇 "再来"』編
179/245

第1話 紅色の蜃気楼の真実

 ローダ・ロットレンとルイス・ファルムーンの世界を巻き込む大変はた迷惑な兄弟喧嘩、言い換えればどちらが本当の扉使いに相応(ふさわ)しいかの争いでもある。


 未だに終わりが見えない争い、夜の闇を大いに使って戦いを有利にしようとしたルイスであったが、もう間もなく夜が明ける。


 ただ黒い曇り空と雨は泣き止むのはいつのことか、どれだけ人の意志を集約出来ようとも知るよしもない。


 兄ルイスは弟ローダの指摘に珍しく怒りを(あら)わにしている。そして味方である女魔導士フォウと氷狼の刃を握るトレノを未だに振り返ろうとすらしない。


 大事な自分の子を宿(やど)したフォウを最前線に出したくないのはまだ判るが、死してなおも呼び出されたトレノすら相手にしないのは流石に酷い。


 もっともそのトレノ当人が同じ侍であるガロウの相手しか出来ないのだから仕方がないと言えなくもない。


 元々人数が少ない陣営なのだが、それぞれが自分勝手に戦っている感が(いな)めない。


 対するローダ達は、特に陣形といったようなものこそ在りはしないが、互いが足りない能力を補完し合いながら相手をするように動けている。


 ただの人数差による結果が形となっているのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)である。


 こうなってはルイスが圧倒的強者でなければならないだが、ローダ達にも、もう人間を超越(ちょうえつ)したような連中がいる。


 恐らく最強の不死鳥使いとなったリイナ・アルベェラータ、堕天使(だてんし)となって音速すら超える動きが出来るルシア・ロットレン。


 そして(すき)あらば相手の意識に入り込んで来るローダ・ロットレン。


 加えてもう一人、勇気の精霊を呼び込んだ戦乙女(ヴァルキリア)(もち)い、恐らくこの中でルシアの次位に速く動ける存在。ハイエルフのレイチである。


「この盤上に於ける黒は本来なら敗色濃厚(はいしょくのうこう)……孤立した(ポーン)、好きに動けない王妃(クイーン)……」


「そして全ての駒を(にな)う必要がある(キング)か……」


 ヴァイロの意識空間の中でルイス陣営を自分が好きなチェスに例えて語るアギド。かつて(キング)役をやったヴァイロが続けた。


「ただあの(キング)、恐らく(いく)ら斬っても死なないよな……」


「全くルール違反も(はなは)だしい、あの(キング)一人に俺達()は次々と消された。無駄な努力をさせられたものだ」


 悪夢が現実になったことをヴァイロが回想し、今度は(あき)れ顔のアギドが首を横に振った。冗談じゃないといった(てい)の二人である。


「今でこそルイスと改めているが、本質は何をやっても死ななかったマーダである筈……あの交渉人(ネゴシエーター)の彼は判っているのか?」


 思わず爪を()むヴァイロである、確かにルイスとフォウという女は暗黒神の後継者だ。(しか)しだからと言ってあんな結果(自分達と同じ終結)を観たくはないのだ。


「………神を成そうとする者が下々の力に頼る? 神とは絶対でなければ民も守れない」


「それが傲慢(ごうまん)だと言っているっ! 神童の座なんて欲しけりゃくれてやるっ! 俺はこの戦いが終われば扉の力なんて捨てても良いとすら思っている」


「神が神そのものの存在を否定する気かい? それでは増々諦める訳にはいかないなっ!」


 互いの(キング)同士が舌戦(ぜつせん)を続けている。ルイスにとって神とは何者にも頼ることなく絶対的支配者であることが不可欠。それが結果的に弱きを導く。


 ローダはそんな神なら不要と斬り捨てる。


 此処でルイスは己が剣、紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)を上段から叩きつける。何の小細工もないただの振り下ろしだ。


 当然ローダが竜之牙(ザナデルドラ)でそれを受けきる。そこまでは極々自然なやり取りであった。


「グッ!? な、何故? 何故俺は斬られている?」


「勉強不足だよ、これが蜃気楼(ミラージュ)の本質さ。紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)は剣で在りながら剣に(あら)ず」


 確かにローダは相手の剣を受けきった、誰の目にも明らかであった。それなのにローダの右肩は深く大きく斬られていた。


 大量の血が噴き出す、肩を抑えながらローダはその場で片膝を落としてしまった。


「ローダッ!?」

「い、(いや)しの炎ぉ!」


 どう見ても致命打(ちめいだ)だ、悲鳴を交えて夫の名をルシアが呼ぶ。リイナが不死鳥の癒しを与えんと近寄ろうとする。


「フンッ!」


 その場を全く一歩も動かずローダに向かってゆくリイナに向けてただ剣を振ったルイス。

 全く届かない間合いであるのに(むち)のように伸びて、そのリイナすら斬り裂いた。


「り、リイナァァ!」


戦の女神(エディウス)よ、この者にどうぞ貴女の御慈悲(ごじひ)を。湧き出よ『生命之泉(プリマべラ)』!」


 ローダに差し出そうとした右腕を痛々しくも切断されてしまったリイナの姿にジェリドが慌てる。


 ホーリィーンもそうしたい(ローダを救う)意識を抑え込み、癒しの奇跡(プリマベラ)をリイナに(ほどこ)す。リイナの右腕は無事に再生出来た。


「教えてあげよう、君達に見えている紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)の姿こそ正に蜃気楼が成せる御業(みわざ)さ。持ち主が斬ろうとする者へ必ず届き、そして斬り裂く」


「ゴボッ! そ、そんな馬鹿な……」


 正に神を気取った様相(ようそう)で上からモノを言うルイスである。ローダにしてみれば在り得ない、そんな理不尽な力は在り得よう筈がないといった意味での「馬鹿な……」である。


「見えている剣こそ幻、盾だろうが鎧だろうが防げはしない。だから僕はそんな玩具(竜之牙)を捨てて神に相応しき一振りを選んだ。前の持ち主(ヴァイロ)は甘い男だったから使いこなせなかっただけだよ」


 ルイスが両腕を広げゆっくりを宙へ浮かぶ。弟のみでは飽き足らず、此処にいる皆へまるで神罰を告げるかのように。


「ヴァイッ!」


「嗚呼、奴の言っていることは真実。何せあの剣は俺の親父が錬成(れんせい)したもの。俺ですらシグノの翼に守られたエディウスを斬りつけた」


 この異常事態にリンネがヴァイロに問い掛ける。かつてヴァイロは、初めて戦の女神(エディウス)がカノンを単騎で襲撃した際、その力で確かに斬った。


 ただ命を取るには至らず、全回復の奇跡(プリマベラ)を使われたので結果が(くつがえ)ることはなかった。


「あの赤い(いびつ)な剣が真価を発揮するための条件……それは相手を全くの躊躇(ためら)いもなく殺せると覚悟を決められた時だ。俺は確かにあの時奴を斬ったが、相手を殺す覚悟よりもお前達を守りたい、ただその一心の方が勝った」


「………だからヴァイは殺し損ねたという訳か。ならばあのルイスという男……」


 ヴァイロは思う、ルイスが血という絶対的繋がりがあるローダ()躊躇(ちゅうちょ)せず斬る? (うつ)ろな目が決して認めたくないと雄弁に物語る。


 そこに冷静(クール)なアギドが駄目押しを続けようとしたが、彼も未だ17歳の少年だ。


 仮に自分が兄弟のように(した)っているアズール、ミリア、リンネを完全な殺意を以って果たして斬れるか?


 考えたくもない(おぞ)ましい行為だと知り、その口を閉ざしてしまった。


「そ、そうだ………あの男(ルイス)には今や揺るぎない殺意があるっ! (いく)ら腹違いといえ自らの弟を躊躇いなく殺すっ!?」


 ルイス……あの男にはきっと事情があってこんな芝居じみた行為をこれまでしているものとヴァイロは(かん)ぐっていた。


 いや、どちらかと言えば、そんな希望を抱いていた。特に深い理由なぞなしに。


 父が錬成し、自分が相伝(そうでん)した剣が絶望の殺戮(さつりく)を繰り広げようとしているのだ。信じたくない光景であった。


「さあ神の一閃(いっせん)を受けるがいいっ!」


 空中でルイスがまるで駄々(だだ)っ子のように滅茶苦茶な剣を振るう。それが切り口の大小こそあれど敵味方双方全てを斬ってみせた。


「や、やめろ……」


 出血が酷過ぎる、朦朧(もうろう)とする意識の最中でローダは信じ難い、認めたくない、そんな複雑な顔をしていた。


 大きい、威圧的な声を上げたいが出来そうにない。


「フフッ……ローダよ、貴様が今が考えていることを当てて進ぜよう。こんな不退転(ふたいてん)の力があるのなら何故扉の力……」


(る、ルイス様? く、口調が。あ、あれはもしや……)


「全ての者を認める覚悟を決めたと認められた奴だけが開ける扉ァッ! そんな面倒な力を何故求めたァ? ……確かにィ、実にィ、馬鹿げているよなァァァッ!!」


 ルイス……である筈の者の口調が、気分が気持ちが悪くなる程に高揚(こうよう)してゆくのが、彼に心底身を寄せていフォウには直ぐに感じ取れた。


 たった今この時に、ローダという男を相手に己を(さら)け出しているのがルイスでは無くなったことを頭と身体で認識したのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ