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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第10部『因縁の兄と弟』編
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第22話 兄の本気と150年振りの失態

 森の女神(ファウナ)からの申し出………神、増してや恐らく見目麗めみうるわしい女神から、然も何の見返りすら求めないという異常な話を切り出された。


 それをただの人間であろうルイスが断るという(無礼)をやってみせた。「何なら私一人でこのやからを……」返答と同時に挑発すらやってのけた。


 そして早速赤眼(せきがん)による攻撃でドゥーウェンの爪を折ってみせた。

 さらに同じ攻撃を今度は戦場全体に降り注いでみせる。


 これとてドゥーウェンは先程と同じてつは踏むと知りながらも、残りの爪で光の膜(シールド)を張り防ぐしかない。実に腹立たしく拳を握り締める。


 やはり時間差で降り注いだ赤い光線、勿論残存してる自由の爪(オルディネ)を墜とす狙いだ。

 そうはさせじとルシアとリイナが立ちはだかりこれを拳一つで迎撃した。


「フフッ……」

「ハッ!?」


 此処で大胆なるルイスの攻勢、皆が光線に気を取られている間にベランドナに急接近する。呆気あっけに取られた顔、その美しい金髪ごと頭を鷲掴わしづかみにした。


 何をされたのかベランドナ当人は直ぐに気づく。魔法を封じられた、以前ドゥーウェンとランチアが決死覚悟でフォウ相手にやり遂げたこと(ハッキング)を瞬時にこなして見せつけたのである。


 それもハイエルフという人間よりはるかに優れた頭脳を持つ相手にである。

 加えて自分に向かって来ようとするルシアが配置に入るであろう箇所へ牽制けんせいの光線すら忘れやしない。


めんなァァッ!」


 ごうを煮やしたレイが銃弾だけを空間転移させる。これをルイスは赤い霧となって無効化する。


「舐めているのは君じゃないのかい?」


 次にそのレイに触れんばかりの位置に出現し、紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)を頭の辺りに突き出す。

 こんな至近距離に増してや忽然こつぜんと現れると銃使いではかわす以外の選択肢がない。

 銀の前髪がハラリと舞う、文字通りの()一重である。


 またしても霧と化して消え去るルイス、次に狙うは青い鯱(ランチア)だ。

 これまた槍使いの遠い間合いを嘲笑あざわらうかの近接である。


「ムッ? ほぅ……やってくれる」

(野郎………気づきやがった)


 実にランチアらしいトラップ、自身の周囲にピアノ線を張り巡らせていたのだ。ルイスのほおに僅かばかりの切り傷をつけたに留まった。

 今度はランチアの隣でランスを構えていた赤い鯱(プリドール)に目を付けるがいきなり襲ったりはしない。


 代わりにフゥゥと白い息を吹きかけると、プリドールの周囲を取り巻いていたピアノ線が凍って氷柱つららを形成する。


(抜け目のないものだ………)

(抜け目のねえ奴………)


 プリドールに掛けていた同じ罠をこうして見破ったルイスと見破られたランチアの気分が互いの知らぬ間に重なり合う。

 ルイスが再び霧散化して姿を消した、次は誰を狙うのか。この彼の動きからして恐らく弟ローダではないだろう。


 自分一人でやってみせる、これを森の女神(ファウナ)を筆頭とした皆に()せつけている最中なのだから。


「うぉっ!?」

「な、何を!?」


 これはいくら何でも礼節れいせつかろんじるにも程がある。ガロウとトレノ、二人の侍が互いの剣を交えている間に赤い刃をのぞかせて割って入ったのだから。

 当然冷静さをうばわれただけでなく、二人に取っては命を賭けた勝負すらかすめ取られた。

 此処で怒りをあらわに自分の刀をルイスへ振り下ろしたのは、意外にも青白い刃(氷狼の刃)主の方(トレノ)であった。


「邪魔立てするな!」

「………役立たずが」


 敬愛けいあいしていた筈の君主ルイスの赤い刃と、トレノが氷でおぎなった刃が重なり合う。

 氷のように冷たい男が見せる熱き魂の剣にルイスは一瞥いちべつをくれて再び消えた。これには同じ侍の魂を持つガロウとて大いに腹を立てた。


 ルイスからしたら所詮しょせんトレノはただの兵、命すら惜しまずにつかえるのが流儀りゅうぎである。だがこのトレノは恐らく魂の召喚に失敗している。

 何故ならローダ達と戦った記憶が欠落している。ガロウを見るなり「日ノ本の侍だな?」と疑問符を使ったのが証拠だ。


 アレを聞いた瞬間にガロウは確信していた。トレノ程の強き魂を持つ侍、敵ながら尊敬の念すら抱いた相手なのだ。

 屍術師ノーウェンとやらは召喚だけ出来たものの、傀儡《人形》として操るまでには至れなかったのだ。

 それにも関わらずトレノという義理深き男は、死してなおも忠義ちゅうぎを忘れてはいなかった。


 そんな最高の侍の顔に泥を塗ったルイスだから、ガロウは立腹している。さっきの白い氷の息だってトレノの氷狼ひょうろうを身勝手に使ったに違いないのだ。


 次から次へと襲う相手を変えてゆくルイス、今度はルシアだ。それも背後に出現し攻撃ではなく、その肩まで伸びた金髪をサラリと触り、そのまま肩へと手を伸ばそうとした。


()()()、もぅ……良い加減(大概)にしろ」


 これに割って入ったのは何と弟ローダであった。顔は努めて冷静をよそおっているが、尊敬していた兄を呼び捨てにした。

 加えて竜之牙ザナデルドラではなく、黒き竜(ノヴァン)うろこ彷彿ほうふつとさせる漆黒しっこくの手刀を、その悪い虫(ルイスの手)に叩きつけ払い除けた。


「な、何故お前が割って入れる? そ、そうかシグノの『転移の翼(メッタサーラ)』だな」


 一人自由気ままに攻勢に転じたルイスを脅かせることに成功した。ルイスに付着していたシグノの羽の一部、ローダはこれと自分を瞬時に入れ替えたのである。


「フフッ……良いだろう。ではもう一人の美しき相手の手を取りに行こうか」


 本当に相手を馬鹿にするのにも程がある、今度は向かって往く相手を宣言した上で消えたのだ。

 そして「もう一人の美しき相手」ベランドナの元へ望まれてもいないのに馳せ参じる。

 ただ今度は決して遊び目的じゃない、ルイスは、このハイエルフを高く評価している。未だに扉の力を一切使わず、精霊術と森の女神(ファウナ)の魔法、さらにルシア程ではないにせよ格闘術すらあなどれない。


 今だけは自分のハッキングで魔法を封じているが、直ぐにドゥーウェン辺りが解除してしまうことだろう。

 寄ってこの機に乗じて真っ先に排除すべきは、この者だと決めていた。


「悪く思わないで欲しい、強過ぎる君がいけないんだよ」


 ルイスにしてみればこれ以上ない殊勲しゅくんの言葉を述べたつもりだ。赤い霧がベランドナの首筋に現界げんかいして剣の形を瞬時に成す。


 ベランドナは不覚にも先程の出来事で一時的に戦意を喪失そうしつしていた。ドゥーウェンをして音速を超えたと評価した堕天使だてんしルシアの速度すら間に合わない。

 レイが銃を()()()()()()がこれも届かぬ確率が高い。こうもあっけなく、こうもアッサリと、あのベランドナの首が宙に舞うのか?


 カシャンッ!


 現界したルイスの紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)は、霧の時点で長い首筋のうなじにいた筈なのに、明らかに硬い何かにはばまれた音が木霊こだました。


「フゥ……危ない危ない。150年前から近接戦闘がまるで進化していないようだね《《ニイナ》》、まあ()()()()()()()()じゃ無理もないか」

「ま、まさか貴方は………レイチ!?」


 両手持ちの大剣(グレートソード)の部類に入る紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)を利き手に握る超軽量なダガーで受け止めて、もう片方に握った方をルイスの首筋に這わせてみせた。


 この妙技をやってのけたのは、ベランドナと同じ耳長属エルフの青年である。


 溜息をつき口角を気持ち上げた顔をチラッとベランドナにだけ見せる。華麗かれいに舞いながらルイスの首筋へダガーを幾度いくども突き出し、追い払うことに成功した。


「その名で僕を呼ぶのは止めてくれよ、今の僕はファグナレン……ま、もっともこの名前も仇名あだなみたいなものだけどさ」


 レイチと呼称されたことを否定し「ファグナレン」と名乗る割には、ちょいと落ち着かない態度を見せる。

 ファグナレンというのはフォルデノ王国騎士団のナイフ使いの中でも最強の者が呼称される奇妙なる称号。


「さあニイナ、150年振りに僕等の失態しったいを取り返そう。今度こそ信じた者を守り抜くんだ」

「判ってる、言われるまでもない。首狙い狂い(ヘッドハンター)の貴方なんかに。()()()なら未だしも……」


 まるで150年振りに本気を出す………そのための準備体操のようにレイチが首を動かしコリコリ鳴らす。

 ()()()の方はひざ屈伸くっしん運動と、両手を組んで全身をグイッと伸ばす。

 これまた150年で凝り固まったものをほぐしているかのよう……あの時の雪辱せつじょく悲哀ひあい、絶望……気軽にしてるその裏腹に全てを晴らす決意を秘めて。


 悠久ゆうきゅうときを生きるハイエルフの二人にとっては泡沫うたかたの150年、けれどだからこそまるで昨日の出来事であるかの如く鮮明に映るのだ

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