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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第10部『因縁の兄と弟』編
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第19話 称号を持つ者の責務

 母ホーリィンの起こした奇跡、『生転の旅路レイジオネ・インフィニータ』によって復活を果たしたリイナ。

 再び不死鳥化した身体でフェネクスと同化した鬼女オーグリスセインに迫る。

 それを阻むべくセインが『操舵ステア』と『模倣フェイク』、加えて自身の変身能力を使い、相手の気を削ぐべく()を用意した。


 だがジェリドに化けた黒い炎を青い鯱(ランチア)、ホーリィンと化した分は赤い鯱(プリドール)がいとも容易たやすくこれを瞬殺。

 ローダを真似て造った三体目は、逆鱗げきりんに触れたルシアの怒りで跡形もなく消え去った。


 不死鳥の翼を広げて先ずは獲物セインよりも高い位置に飛び上がったリイナが、次はその翼をたたみ、怒涛どとうの勢いで狙いを定める。

 早々に盾を失ったセインだがおくすることなく身構える。この小さな娘がただ復活を遂げただけであるならば、実の処、恐れる必要はない。

 堕天使だてんしルシアの攻撃すら異常な再生能力で不毛ふもうの扱いとした。加えて相手に浸食しんしょくするフェネクスの細胞を、またも植え付ければ良いだけのこと。


「キッシャァァァアッ!!」

「シャアァァッァッ!!」


 全身を燃えたぎらせてリイナがせまる、腕も足も相手と絡む直前まで出すつもりはないようだ。迫真はくしんの鳴き声である割に冷静さを失ってはいない。

 未だ偽物ジオーネの姿を変えないセインも堂々と自分をさらす、相手がどう仕掛けて来ようが敗北の要素は見当たらない。


 不死鳥の鳴き声は闇と認識した相手の能力を落とす、だがフェネクスの方も負けずおとららずの鳴き声を上げた。

 この結果は恐らく相殺そうさいであるに違いない。


「ウグッ!?」

「いきますよぉぉぉッ!!」


 如何にも一騎討ちの様相ようそう、互いに目前に集中を切らさねば良いと待ち受けていたところであった。

 セインの背中に燃え滾る何かが深々と刺さり吐血を誘う。リイナは仲間達が周囲で稼いでくれた時間を無駄にしなかった。

 セインに気取けどられないよう赤く燃え滾るナイフを操舵ステアで待機させていたのだ。

 迂闊うかつだったのはセインである、復活したリイナに新たなる可能性がある事ばかりに固執こしつしてしまったのだから。


 だがこれまでのリイナからの攻撃としつに変化がないのなら、瞬時に再生させれば良いだけの話。それも勘定かんじょうにあったから余計に判断を誤った。


 そして情け容赦無用でリイナの殴る蹴る(撲殺)が幕を開けた。あっという間に全身を、もう叩き忘れた場所がないよう入念に丹念に、それも一方的にだ。


「い、痛みが? 傷が治癒ちゆしない!?」


 いくらやられるにしてもこれ程とは思っていなかったセイン。最早偽物ジオーネの姿を維持することすらままならず、灰色で1本角の鬼女オーグリスに戻ってしまう。

 灰色のその肌が殴られるにつれ、白い色(リイナ色)に染め抜かれてゆく。まるで理不尽な神の天罰を受けている罪人のようだ。


「す、凄い………まさかこれ程とは思わなかったよ」


 この世界の隅々まで探しても彼女を超える拳闘士はいまいと思われる実力者のルシアでさえも、リイナの戦いぶりに興奮が冷めない。

 いっそ今のリイナと手合わせしたいとすら感じ、武者震いしながら拳を握る。


 特定の敵と相対していない者の多くが、その光景に意識を奪われている最中、静かに、そしておごそかに詠唱をしている女魔導士がいた。


「ゲレラ・コンゲレイト・コールド………おおっ氷雪ひょうせつ魔狼まろうフェンリルよ……」


 言うまでもなく生き残った最後のヴァロウズ、結果1番目となったフォウ・クワットロである。

 本来なら火を媒介ばいかいにする魔法にけている彼女の口から「氷雪ひょうせつ魔狼まろう……」という言葉が発せられる。

 既に周囲の空気が白みを帯びて、近くに生えていた樹木が凍って砕け散る。


「暗黒神の名において、この愚者ぐしゃにえとしてささげん。永久凍土えいきゅうとうどと化したときおのが罪をようやく知るだろう………」


 この長く、そして神秘的にすら感じる詠唱。彼女の長い黒髪がゆっくりと逆立ってゆく。超高等魔法に違いない空気が辺りにただよう。

 詠唱の内容からして火とは真逆の氷を司る魔法だ。分子の動きを停止させる凍結コールドの術は、火の魔法よりもより高度な術式を必要とする。


 ―へぇ………あのフォウって娘、暗黒神アンタの魔導の中でも高難度ハイレベルなのいけそうじゃない?


 楽し気な声色で森の女神(ファウナ)が、ヴァイロの意識空間の中で感心している。


(………さあ火の鳥同士、絶対零度で精々綺麗に散りなさい)

「………『地獄の凍土(マカ・ハドマ)』」


 フォウの呪文スペルが完成をみた。白い凍気が金色のレイピアより一挙に噴き出し、絡み合うリイナとセインを同時に襲う。

 この女魔導士はハナからセインを助けるつもりがない、共に凍って分子分解させるのが狙いなのだ。


竜之牙ザナデルドラ・レッジスラッシャー」

「なっ!? と、凍気を……魔導を斬るだと!」


 誰もがこの暗躍あんやくを見逃していたかに思えていたが、静かにローダが割って入る。余り気持ちすらこもっていないと思われる剣で地獄の凍土(マカ・ハドマ)を両断し、残りカスが降雪の終わりのように消え去った。


 竜之牙ザナデルドラはどんな魔法すら斬り裂いてしまう。150年前、これで大いに苦しめられたヴァイロが思わず苦笑いした。

 ただそれにしてもこのローダという竜騎士の気の抜けた感じは何だろう。紙切れを斬るような当り前さでやってのけた。


 さあリイナの天罰が止まらない、セインの角以外がけがれを知らぬ白に染め上げられた。

 誰もがこの厳かなる執行がこのまま終わると思い込んでいた…………。


「僕と交えてる間に他の争いへ介入とは随分と余裕じゃないか、ローダ」

「…………」


 此方は兄ルイスと弟ローダによる剣の交わりが続いている。ノーウェン………というより元・暗黒神ヴァイロのわだかまりを解いたやり方で、兄の方も取り戻す。

 ローダが描いていたシナリオであり、これだけが唯一無二の希望だと信じ抜いていた。


 けれども兄ルイスの心の闇、父ラムダに裏切られ、神童………即ち本物の扉使いは自分だという生き甲斐にすがっているのをどうやって判り合えば良いものか。

 さらに自分に兄を斬れる資格があるのか。この争いを俯瞰ふかんで見ながら先程のリイナのように救う余裕を見せているかのような彼。

 実は兄と本気で相対する処からのがれる口実になっていた。嫌いになれないルイスを斬るのと魔法を割るのでは雲泥うんでいの差があるのだ。


(止むを得ない……か)

「良いだろう、成り行きとはいえ俺は『扉』のマスターだ。兄さんにゆずる気はない………」

「ほぅ………それでどうするつもりだい?」


 竜之牙ザナデルドラを打ち込みながら穏やかにローダが語る。紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)で気軽に受け流すルイスが弟の決意に耳を貸す。


「腹を決めたっ! ルイス、お前を戦闘不能にする。手足の1、2本は覚悟しろっ! 俺の力でじ伏せて無理矢理にでも持ち帰るっ!」

「フッ、良いんじゃないか。僕も負けてまでマスターを名乗る程、厚顔こうがんではないよ。但し、僕の剣がお前の命を狙う事に変わりはないッ!」


 決意を形にしたかのうに竜之牙ザナデルドラに白い炎を灯すローダ。剣は右手に握り、左手からノヴァンの凍気を出しつつ迫る。

 ルイスの方は、紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)で霧と化すことを何故か封じている。

 さっきはレイという異物の存在で後塵こうじんはいしたが、霧散化はあらゆる攻撃を無力化出来る。

 こればかりに頼るのは、ローダよりはるかに高位である剣士としての自負プライドが許さなかった。


「な、に……?」


 全く想像だに出来なかった状況。ルイスの左手をローダの左腕から伸びた燃える爪(ヒートニードル)つらぬいていた。

 ノヴァンの青白い凍気、そして竜之牙ザナデルドラに注力し過ぎて、暗器の可能性を失念しつねんしていたのだ。

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